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いや~、びっくりしましたよ。ログインしてステータス開いたらね、あれっ、て。
最初はロード中かな? って思ったんですけど、昔のゲームじゃあるまいしロード時間なんてほぼないからね。
これには参っちゃいましたよね。あ、いや別に参ってはいないですよ? 参ったというよりかはまあ驚きですよね。びっくりしたぁって。それだけ。
全然そんなヤバイって感じでもないじゃないですか。うん。全然ですよ。それに思い当たるフシがないわけじゃなかったんでね。
このゲーム、ムダに自由度高いんでね。もうそれはキャラクリエイトからして高くて。
今となっては魔が差したとしか言いようがないんですけど、クリエイト画面でふと、そう、最強にキモいキャラを作ろうって思い立ちまして。
で、数時間かけて結果的になんとも形容しがたいクリーチャーが出来上がりまして。われながら引くぐらいの。
口で表現するのは難しいんですけど、あの、ちび○る子ちゃんの永○くんを十倍キモくしたような。植物系? まあプレイヤーというよりか魔物寄りだよね。そんなのが誕生しまして。
で、問題はここからなんですけど、そこで満足して終わっていればよかったものを、何を血迷ったのかそのキャラでログインしちゃったわけですよ。
やっぱり奇跡の産物である彼をこのまま消すのは忍びないと。そりゃ何時間もやってりゃ愛着もわきますよ。この手で生んだ、まあ言ってみれば息子のようなものですよ。リアルでこんな息子は絶対に嫌ですけど。
でもまあホント言うとそれも建前なんですよね。本当のことをぶっちゃけて言うと、僕がドMであることにその理由がないわけでもないんだけども。
このゲームのキャラの外見はリアルの顔をそのままトレースするか、ゼロから作り出すことができるんですよ。
他のキャラがリアルトレースなのかクリエイトなのかはゲーム中すぐに確認できて、最もモテるのはリアルトレースのイケメンなのは言わずもがなでしょう。そうでなくとも、外見はとても重要視されますからね。
つまり外見がキモいだけで女プレイヤーからは相当に嫌がられる。ま、後はわかりますよね。
で、なんでそれがモザイクかけられているのかと言うと、ここからは僕の推測なんですけど、なんでもOKがウリのこのゲーム、いくらキモい顔だからといって参加不可にするのは運営側のポリシーに反するということなのかもしれませんね。
でもさすがにこんなのがウロウロしてたら周りが気味悪がってプレイ人口が減ってしまうだろうから、とりあえずモザイクをかけようということなのかもしれません。残念ながらモザイクをかけても不気味なことに変わりはないのでしょうけど。
あ、でも僕はそこまでキモいとかっていうわけでもないと思いますけどね。もしかしたらそういう風に思う人もいるかもっていう、あくまで推論ですよ。ええ。少し邪推が過ぎたようですけども。
で、まあそれはいいとして。顔面モザイクはとりあえず置いといて、実はそれだけじゃないんですよ。
なんかね、バグかどうか知らないですけどステータスも少しおかしなことになってまして。
なぜかいきなりレベルがマックスの99でですね、筋力とか体力とかのステータス表示される所に全てモザイクかかってるんですよ。数値がわからない。 ボーナスポイントのパラメータ割り振りは運に全振りしてみたんですけどね。
あとスキル欄にもモザイクかかってて読み取れないんですよね。四つあるみたいなんだけどなんだかわかんない。
ひとつだけしっかり表示されているのが「顔面モザイク」っていうスキルなんですけど、それは言われんでもわかっとるわ! という話ですよ。
まあまあ、こんな風な感じになってて驚きはしましたけど、別段そこまで騒ぎ立てすることでもないじゃないですか。このぐらいならそんなヤバくはないですよね。うん。
でも一応念のためね、モザイクの顔面とこんなステータスを確認した所で即GMコールしようかと思ったんですけど、ところが僕のこのキャラね、名前が☆公然猥褻マン☆なんですよね。GMに☆公然猥褻マン☆さんって呼ばせるのもどうかと思って。
そもそもいちいちこんなことぐらいでね、GM呼んだら悪いなっていう気もしないでもなくて。それにもしGM呼んで「仕様です」って言われたら無知をさらしたみたいで恥ずかしい思いしますし。
僕もこのゲーム長い事やってますから知識も豊富ですし、それなりにプライド持ってやってるわけで。
そんな風にためらっているうちにデスゲーム開始されちゃったもんで、もうどうしようもないっちゃどうしようもないんですけどね。
そりゃあね、僕も疑いはしましたよ。本当はむこうもわかってて嫌がらせしてるんじゃないかって。
顔面モザイクだけだったら、モンスターと勘違いされて討伐されないようにという配慮があったのかもしれないと好意的に解釈することもできますけど、このステータス隠しはどうにも悪意を感じますよね。
レベル30もあれば普通にパラメータは三ケタ超えているはずですけど、すでにレベルマックスで成長の余地がないし、モザイクでぼかされてても筋力とか明らかに一ケタしかないのはわかりますし。隠す必要あるのかとも思いますね。さっさとあきらめてそのキャラは捨てろということなんでしょうか。
まああんな顔にしてね、あんな名前付けて僕の方にも全く非がないとは言いませんけど、そりゃ向こうとしてもふざけんなって感じなんでしょうけど、せめて一言欲しかったですよね。ちょっといじりますよ、ぐらいね。
しかし僕はまさかデスゲームになるなんて思ってなかったわけで。考えたくないですけど向こうはそれ知っててやったのかもしれません。
まあ、大丈夫だとは思うんですけどね。
もし仮に、万が一、デスゲームがうまく機能した場合、このままモザイク男として世界に名を馳せることになっちゃいますけど。
下手すればモザイクかかったまま一生終えちゃうかもしれませんし。さすがに僕もそこまでMにはなりきれないかなと。
やっとデスゲーマーによる演説が終わったみたいだ。
演説途中、後ろで携帯(アニソンぽい着うた)鳴ってたけどそのぐらいなら優秀な部類かな。最近は六割がた演説終わる前にデスゲーム失敗するから。
だけどデスゲーマーも顔出しが主流とはいえハゲ散らかした頭部をさらすのはどうかと思うよ。なんでカツラを用意できなかったんだろう。
こうして始まったデスゲーム。
なんとなくいつもより周囲の視線を感じる気がしないでもないんだけど、まあ気のせいでしょう。たかが顔にモザイクがかかっているぐらいで、そこまで神経質になるのも考え物だ。僕のこの気の弱さも困ったものですよ。
こんなのは他の人からしたら案外なんてことないんですよ。ただの自意識過剰で、第一全く騒ぎが起きていないのがいい証拠。ログインからこれまで誰にも話しかけられていないけれど、外見とか関係なしに自分から行かない限りなかなか会話ってないものだしね。
僕はいつもどおりゲームを楽しめばいいだけだ。デスゲームだからってそう身構える事もない。
そして僕はいつものように、町角のベンチの上で本番を始めている人間とエルフのカップルを観察する男たちの群れに加わることにした。
右手をポケットに入れて股間の辺りをごそごそやっている精悍な顔つきをした戦士風の男の隣に陣取る。
しかしデスゲームが始まったというのにけしからん。あのカップルさっきの話の最中もおかまいなしにあんあんうるさかったからな。
デスゲーマーがずっと楽しみにしていたであろう演説も、ほとんどあのエルフ女のあえぎ声にもってかれたようなもんだ。かわいそうに。
ああいうやつらこそモザイクかけろって話ですわ。全部無修正ですからね。
製作者が揃って童貞なのか知りませんが、男性器はやたらリアルなんですけど女性器はエロゲーのCGレベルなんですよね。あいつらのせいで僕はこの前赤っ恥をかいたばかりなんです。
VRで童貞を卒業した事になるのか? という新しい社会問題に対し真っ向から向き合い友達と討論していた時のことです。
僕は必死に肯定派に回ったんですが、どういうわけか話はこじれて最後は素人童貞ならぬVR童貞という不名誉な称号を授けられ撃沈しました。
なぜリアルで童貞だということがバレたのだろう。このゲームの実情を踏まえて女の子の九割がパイ○ンと発言したせいだろうか。それとも女の子が絶頂に達する時体が光ると発言したのがいけなかったのだろうか。
僕がこのゲームで超絶イケメンキャラを作って土下座して頼み込んでやった時は確かに光ったんですよ。ええ、間違いなく。顔面にかけると発言したときも引かれましたが、そんなもんここでは常識ですよ。
ふと気がつくと、僕の周りには誰もいなくなっていた。ベンチの上のカップルも、それを視察する紳士たちも。
おかしいな、どうしたんだろう。いつもなら紳士によるスクショ交換会が始まるはずなのに。
僕が不審に思っていると、不意に背後から何者かに声をかけられた。
「あの……、それ、どうしたんですか?」
振り返ると、そこにはとても可愛らしい人間の女キャラが不思議そうな顔で立っていた。
僕は完全デッドボールコースさえストライクにしてしまうぐらいストライクゾーンが広いけれど、そんなこととは関係ないぐらいにど真ん中だった。
「それ、とは?」
モザイク男(僕)の第一声。
僕はセクハラ発言をしたくなる衝動をこらえ冷静に聞き返した。しかし気味の悪い自分の甲高い声音に一瞬体がビクってなった。
僕の声は、よくテレビのニュースで見かける業界の裏を暴く人みたいな声だった。しかも女声。
「なんで……、モザイクかかってるんですか?」
「え? なんですか? もう……いく?」
「モザイクです」
「も、ざい……く? あっ、ああモザイク。モザイクね。モザイクがどうかしましたか?」
「それ、なんで顔にモザイクかかってるんですか?」
顔を指さされてしまっては仕方ない。まあ顔にモザイクかかってる人がいたら多少は気にするだろうしね。それぐらいは認めてあげてもいいかな。
「ああ~これね。まあ、そんなね、たいしたもんじゃないですよ。ちょっと説明すると長いんですけどね。かいつまんで言えば、軽く修正かけられたって感じで」
「修正? 修正って何をどういう……?」
「あ、いや修正って言い方もちょっとあれでしたね。語弊がありますね。そうだな……、修正と言うよりかは規制、あ、じゃない、違う違う……、えー、まあ、そうですね、補正ってとこですかね」
「補正ですか……。補正って何を補ったんですか?」
「何を? 何をって言われるとちょっと難しいんですよね~。う~ん、補う補う…………、あっ、これ違うな。違うわ。ごめんなさい、やっぱあれですね、補正っていうよりかはやっぱ訂正とかの方が近いかもしれませんね」
「はあ、訂正ですか。そうなると、なにか誤りがあったっていうことですか?」
「誤りがあったっていうかね……、誤りって言っちゃうとなんか悪いみたいな感じになりますけど、別に誰が悪いってわけでもないんですよね。まあ誤って飲み込んだみたいなところはありますけどね」
「の、のみ? 飲み込んだんですか?」
「いやいやいや、それは例えばって言う話でね。でも似たようなもんですよ。誤ってモザイクかけられちゃった、またはかけちゃった、みたいな」
「え? どっちなんですか? 自分でかけたんですか? それとも誰かにかけられた?」
「まあどっちもあると思うんですけどね。かけられるよう仕向けたって言う意味ではね」
「はあ……」
彼女は納得いかなそうな顔をしている。
でも別にモザイクがかかっていることを非難するってわけでもなさそうだ。というと一体何が目的……?
そうか、よく考えれば顔面モザイクなんていうレアな存在を女の子が放っておくわけがない。ちょっと難があるのはモザイクになった経緯であってモザイク自体には何も罪はないのだ。むしろレア度から言えばかなりのステータス。
という結論に達した賢い僕は、気持ちドヤ顔で彼女へアプローチを始めた。まあモザイクかかってるんでどんな顔しても関係ないっちゃないんですが。
「いや、実を言うとですね、これあれですよ。えー、モザイク……リング? うん、モザイクリングっていうね、まあちょっとしたレアアイテムの効果でして。遊んでたところなんですよ」
「あっ、そうだったんですか。実は私、このゲーム初めてでよく知らなくて。そうしたらいきなりデスゲームになっちゃって……。デスゲームも初めてでちょっと緊張してるんですよ。マニュアルもちゃんと見てないものだからよくわからなくて。でも遊んでて大丈夫なんですか? さっきデスゲーム始まりましたけど」
「うん、まあ、その気になればすぐ解除できるしね、もうちょっと遊んでようかなと」
これはこれは、とんだ初心者というわけだ。
初心者で、美少女? と言う事は……? むしろこれチャンスじゃん?
向こうから話し掛けて来たとすると、もうこれ完全にフラグ立ってますよね?
この子はきっとモザイクフェチに違いない。それならそうと回りくどい事せず正直に言えばいいのに。
これはこっちからそれとなくほのめかさないとダメかな? と僕が思案をめぐらせていると彼女が口を開いた。
「ええと、やっぱりでもそのモザイクは今すぐやめたほうがいいですよ。デスゲーム始まったわけですし」
「え、そう? だってモザイクって言っても……別にそんな騒ぐほどのものでもないですよね? 割といい感じのかかり具合だと思うんですけど」
「いえ、割とって言うか、もうがっつりかかってると思いますけど」
「あ、そうなんだ。……でもさ、あの~、その、なんだ。ぶっちゃけ、ここだけの話ね、まあここだけの話よ? ちょっといいじゃんとか思ってるでしょ? このモザイク。ぶっちゃけ」
「いえ、ぶっちゃけメチャクチャキモいですけど」
「あ~そうなんだ」
「さっきここにいた人達、あなたを見てみんないなくなったじゃないですか。このゲームPKありますよね? デスゲームですし、うっかりPKされても知りませんよ?」
「ほうほう」
「はっきり言ってそのモザイクキモいですよね。声もキモイですし。視界に入るだけで不快です。たぶん町の外で見かけたらモンスターと一緒に殺してると思います。っていうか普通に町歩いてても殺すかもしれません。そして殺されても文句は言えないと思います」
「なるほど」
「これ腐ってもデスゲームじゃないですか。一応命かかってるわけですし。それかなり神経逆なでするんですけど、いくらなんでもふざけすぎですよね?」
「いや僕もね、ふざけてやっているというわけじゃないんだけどね、なんというか難しいところなんだけど……。でも案外だよ、案外話してみるといいやつだったりってこともあるじゃん? 見た目だけで判断するのはどうかと思うよ?」
「じゃ、アレ見ても同じ事言えますか?」
そう言って彼女が指差した先には、僕と同じ顔面モザイクのキャラが一人、広場をウロウロしていた。
同志だ。同志がいた。モザイク男は僕だけじゃなかったんだ。まったくあの野郎、ムチャしやがって。
僕は動き回る彼を見て率直な感想を口にした。
「うわっ、なにあれキモっ」