魔法の仕事、魔法抜きでの一幕
魔法を使えばすぐだ。だが、すぐには魔法を使えない。結局用意が必要で、用意していたら使わない場合とトントンらしい。と経理部のやつが言っていた。
便利なようで便利でない。はたしてどっちが良いのだろうか。俺として絶対あったほうが良い。
「なあ、どう思う?」
待機中、向かいの席に座っている初対面の後輩に聞く。
「どうって、私まだ新卒ですよ? なんにも分からないですよ」
「ほら、この仕事じゃなくてもバイトとかしてただろ? そん時の感想とかさ」
「ええ? そんなこと言われても、バイトの目線からしたら魔法が用意されてるのは当然のことでしたから、むしろ、魔法が用意されて無かったらその日は返されましたよ」
「マジ? 金出んの?」
「私のところは予定時間の半分の時給で返されました。話によると、全額だったり、無しの所もあるみたいですし」
「はあー、良いのやら悪いのやら、学生なら良いか」
「そうですね。給料半分でもその分時間が出来たんで遊んでましたよ」
「良いねぇ。学生は。あ、もう学生じゃ無いのか。お疲れさん。ようこそ。金だけが良い職場へ」
「色んな人がそう言いますけど、今の所そんな感じしないですけどねぇ」
「まだ2ヶ月だろ? そりゃまだ分からんよ。バンバン辞めてくのは夏とか、そのあたりだよ」
「何がそんなキツいんです? 先輩の仕事見ててもそこまでな気がするんですけど」
「さっきも言ったが、魔法がありゃキツく無いんだ。逆に言えば魔法が無いと本当にキツいやつはキツいんだ」
「そうなんです? この前、魔法無しでやってませんでした?」
「俺は良いんだよ。無くても。だが、他の奴はそうじゃ無くてな。やれないってバンバン辞めてく」
「へー、私で何人目になりそうです?」
「えーと、田中が40人目だったからー、あ、いや、鈴木が辞めてないんだっけか、えーと、そうだな、50人目? くらい? かな」
「多いですねぇ。私、入る会社間違えたかな」
「間違えたっつーか、よく入れたよな。新卒で。全員驚いてたわ。曲がりなりにも専門性というか、手広くやれないと出来ない仕事ばっかで新卒で入るとすぐ潰れるからってんで採用してないって聞いたが」
「ぶっちゃけコネです。親戚が会社の上の方にいて、口きいてもらいました」
「ふーん。仕事できればなんでも良いけどさ。さっき言った田中は解体ができないって辞めて、鈴木はー、えーと、銃が上手く使えないからって別の事業部、たしか調達に移ったんだっけか。その点、どうよ、魔法無しで出来そう?」
「解体は出来ますし、銃も結構使えますよ。銃中持ってますし」
*銃中:銃型道具中級免許
「ならよっぽど大丈夫か。頼むぜ、本当。辞めないでくれよ」
「そう言われると怖いですよ。先輩は何年目ですか?」
「俺? 俺はたしか、20年目だったかな」
「結構長いですね。見た目30代前半くらいなのに」
「見た目はなぁ、そうそう。言い忘れてたわ。魔法の後遺症とかも舐める理由だったわ」
「そういう? 見た目は後遺症ですか。ああ、自分はメリットの方が多いから忘れてましたね?」
「そうなんだよ。なにがあっても不思議じゃないからさ。思い出した。アンソニーって奴が居たんだけどさ、そいつ、身長伸びて嬉しがってたんだよ。だけどさ、すーぐ別の後遺症で手のひらくらいになってやがんの。それで魔法事業部行ったんだわ。いやー、あん時絶望してたわぁ、あいつ」
ゲラゲラ笑っていたらベルが鳴る。
「お、そろそろか。行くかぁ」
「行きますかぁ」
「忘れ物無いな。先出るぞー」
「はーい。鍵しますね」
待機部屋の扉をくぐる。そこはすでに雪山だった。
「お? あれ? 雪山だったっけ?」
「え? たしか普通の山の筈ですけど」
「あー、これは間違えられたな。喜べ。後輩。魔法無しの実戦だ」
「早いっすよ。夏じゃないんですか」
「ち、アンソニーが間違えたのかもな」
「アンソニーさんのこと忘れたり、笑ったりしたからバチが当たったんですよ。きっと」
「連絡はー、取れないな。仕方ない。やることは変わらん。行くぞ」
「寒いー」
「俺だって寒い。早く終わらせて帰るぞ」
「はーい」
「ほら、もう見えてきた。あれ撃てるか?」
「見えますけど、魔法無しじゃ無理ですよ。風も強いですし、どんだけあると思ってんですか」
「そうだよなぁ。やっぱアンソニー上手かったんだなぁ」
「アンソニーさん。率直に言って変態ですよ」
「おいおい。バチが当たるぞ。仕方ない。近距離だ。行くぞ」
「はーい」
「おい! そっち行ったぞ!」
「ぎゃー! 無理無理! キモい!」
「さっさと撃てや!死ぬぞ!」
「デカイ虫とか無理ー!」
「おい! こっち向けて撃つな!クソが!」
「わー!」
報告書
雪山事件について。
本件は魔法部門と実践部門の連絡の行き違いにより、ゲートの目的地が入れ替わっていたことによって起こった。
結果だけを見れば実践部門の両名は雪山の巣を破壊できたが、今回両名が向かう筈であった、ビール山の巣は残ったままである。
その為、早急にビール山の巣を破壊するための人材を派遣されたし。
「ヘッタクソだなぁ。報告書書くの」
「初めてなんだから多めに見てくださいよ」
「まあ、なんでも良いよ。正直、こんなもん適当で。どうせ上の奴がいいように直すんだから」
「嫌ですねぇ。こんなことになったのに」
「ホントだよ。なんでこうなっちまうかなぁ」
「先輩。女の子になっちゃってまぁ」
「お前も、あざとく猫耳なんて生やしちゃって」
「軽くてまだ良かったすよ。先輩はまだこの仕事続けます?」
「この程度なら大して支障出ないからな。人間のままだし。だがまあ、これだから魔法無しは嫌なんだ。後遺症を大体引っ掛けてくる。アンソニーに会ったら爆笑されたし」
「給料高い理由が分かりましたよ」
「本当なら保険とかになるんだけどな。ほら、人手不足だから高い給料で釣ってんだよ。色んなやつと後遺症持ちを。報告書は改竄されるから外に殆ど出ないしな」
「嫌な感じですねぇ。保険より高い給料払ってどうするんですかね。なんの意味が」
「色々とうるさいんだと」
「はあ、大変ですねぇ」
今日も日が落ちていく。
「飲みいくぞ」
「はーい。奢ってくださいよ」
「ばか言え。おまえ俺のこと撃っただろ。誰が奢るか」




