第七話「ヒロインは敵である」
夜。
私は眠れなかった。
(整理しろ)
・書けば現実になる
・曖昧だと暴走
・使うほど世界が削れる
(つまり)
「精度がすべて……」
小さく呟く。
そのとき。
窓の外に、気配。
「……来た」
嫌な予感。
窓が、音もなく開く。
銀髪が揺れる。
アリア。
「こんばんは」
軽い調子。
だが、その目は――
完全に、戦闘モードだった。
「……何しに来たの」
「確認ですよ」
一歩、部屋に入る。
「あなたが、“どこまでできるか”」
空気が変わる。
圧が、かかる。
(この子……強い)
設定より、明らかに。
「……試す気?」
「はい」
即答だった。
「だって、あなた」
笑う。
「“面白い”ので」
その瞬間。
ドンッ!!
床が割れた。
「っ!?」
衝撃。
(何……!?)
見えない。
でも確かに。
(何かで攻撃された!)
「遅いですよ」
アリアの声。
振り向く。
そこには。
もう一人のアリア。
「……は?」
前にも、後ろにもいる。
(分身……!?)
「違いますよ」
声が重なる。
「“別の可能性の私”です」
ぞくりとする。
(この子も……物語側!?)
「さあ」
同時に動く。
「書いてください」
攻撃が来る。
(やばい!!)
私は、ペンを掴む。
書く。
『ユイは、攻撃を回避した』
発動。
体が勝手に動く。
ギリギリで避ける。
(いける……!)
だが。
ズキンッ!!
激痛。
(重い……!)
さっきより、明らかに負荷が大きい。
「ほら」
アリアが笑う。
「戦闘中は、コスト上がるんですよ」
(最悪……)
「次、いきます」
再び攻撃。
(間に合わない!)
書く。
『ユイは、完全に無傷だった』
発動――
しない。
「……え?」
その瞬間。
ドンッ!!
衝撃。
壁に叩きつけられる。
「がっ……!」
息が詰まる。
(なんで……!?)
「欲張りすぎです」
アリアが近づく。
「“完全”とか“絶対”は、重いんですよ」
(……そうか)
理解する。
(言葉の重さ=負荷)
「ねえ」
しゃがみ込む。
「楽しいですか?」
その問いに。
私は、笑った。
「……楽しいよ」
アリアが、一瞬だけ目を見開く。
「こんな力、初めてだから」
本音だった。
怖い。
危険。
でも。
(面白い)
「……やっぱり」
アリアが立ち上がる。
「あなた、壊れてますね」
くすりと笑う。
「いいですよ」
窓へ向かう。
「もっと遊びましょう」
振り返る。
「この“壊れる物語”で」
そして、消えた。
静寂。
私は、ゆっくりと起き上がる。
(……負けた)
完全に。
(でも)
ペンを握る。
(次は)
「勝つ」
その決意だけは、揺るがなかった。




