第五話「最初の成功と失敗」
「魔導局……?」
聞き返す。
そんな組織、私の小説には出てこない。
(完全に別ルートに入ってる……)
リゼットは淡々と説明する。
「最近、魔力測定結果に異常が報告されていまして」
「異常……」
「はい。あなたも、その一人です」
まっすぐな視線。
逃げられない。
(どうする……?)
正直に話す?
いや、それは危険すぎる。
(なら――)
私は、決めた。
(試す)
この力を。
“実戦で”。
「……少しだけ、見てもらえますか」
「何をです?」
「魔法を」
リゼットが眉を上げる。
「今この場で?」
「はい」
紙を取り出す。
深呼吸。
(今回は、短く……)
書く。
『ユイは、小さな光を灯した』
一瞬。
空気が揺れる。
そして。
ぽっ、と。
指先に光が生まれた。
「……ほう」
リゼットの目が細くなる。
「無詠唱……?」
違う。
でも、説明できない。
(成功……!)
頭の痛みは、さっきより軽い。
(短文なら、反動が小さい……!)
だが、その瞬間。
――バチッ!!
光が、弾けた。
「っ!」
指先が焼ける。
痛み。
同時に、強い違和感。
「今のは……」
リゼットが呟く。
「制御が不安定ですね」
(違う……)
これは。
(“ズレた”)
さっきの文。
確かに書いた。
でも。
(完全に一致してない)
『灯した』はずなのに。
結果は“暴発”。
(つまり……)
この力は。
(100%じゃない)
成功と失敗がある。
(……面白い)
ぞくりとする。
恐怖じゃない。
高揚だ。
(なら)
私は、笑った。
「もう一度、やります」
ペンを握る。
今度は、少し変える。
『ユイは、安全に光を維持した』
書く。
発動。
光が灯る。
今度は、安定している。
「……成功」
小さく呟く。
リゼットが、静かに言った。
「あなた、何をしています?」
「……研究です」
即答した。
「魔法の、ですか?」
「はい」
嘘じゃない。
これは確かに、研究だ。
「……興味深い」
リゼットは少しだけ笑った。
「よろしければ、魔導局に来ませんか?」
(きた)
新展開。
「あなたのような存在は、非常に貴重です」
そのとき。
扉の外から声。
「だめですよ」
アリアだった。
「その人、壊れますから」
空気が凍る。
「……どういう意味ですか?」
リゼットが問い返す。
アリアは、ゆっくり笑った。
「その人、“物語を削ってる”んです」
沈黙。
「ねえ、ユイ様」
こちらを見る。
「あと何回、書けますか?」
――その一言で。
すべてが凍りついた。




