表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「自分の書いた小説に転生したのに、設定が崩壊してるので“書き換え”ながら生き残ります」―作者なのにヒロインに殺されかけてます―  作者: 百花繚乱


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/57

第三十八話「未確定のまま、折れる」

 さっきまで確かに見えていた“勝ち筋”が、消えた。


 それは唐突な崩壊ではなかった。むしろ、じわじわと侵食されるように、確実に、逃げ場を塞がれていく感覚だった。分岐を作り、選択肢を増やし、正しさを揺らしたはずなのに、そのすべてが「もう知っている」と言われた瞬間、意味を失っていく。


 剣の担い手は、一歩だけ踏み込んだ。


 その一歩で、空間の性質が変わる。


 速度が速くなったわけではない。距離が縮まったわけでもない。ただ、“そこに到達することが決まっている”動きに変わったのだと、直感で理解する。


 リゼットが迎え撃つ。さっきまでよりも深く踏み込み、無駄のない一閃を放つ。彼女の剣は、技としては完成されている。だが、それは“過去の経験の積み重ね”によって成立する強さだ。


 対して目の前の男は違う。


 彼は、経験ではなく、**結果から逆算された存在**だった。


 剣がぶつかる。


 重い衝撃が、音よりも先に身体に伝わる。


 リゼットの体勢が崩れる。押し切られる。剣を受けたはずなのに、受けきれない。まるで“受け止めた結果が存在しない”かのように、次の瞬間には押し返されている。


 地面に叩きつけられる音が、遅れて響いた。


 その瞬間、私は理解した。


 これは、単純な力の差ではない。


 **「防げる」という結果が、選ばれていない。**


「適応した」


 男が言う。


 淡々とした声だった。勝ち誇るでもなく、怒るでもなく、ただ処理を進めるように。


「分岐は確認済み。優先順位を上書きする」


 その言葉と同時に、世界が“閉じる”。


 可能性が減っていく。


 空気が、狭くなる。


 アリアが割り込む。間に合っている。タイミングとしては完璧だ。それでも、剣を受けた瞬間、彼女の身体がわずかに沈む。


 耐えている。


 だが、“耐え切った結果”が選ばれていない。


 圧が、押し込む。


 私は反射的にペンを走らせた。


『攻撃は逸れる』


 短く、明確な記述。これまでなら、これで十分だった。


 だが――


 違和感が走る。


 書いたはずの一文が、現実へ固定されない。


 それどころか、文字そのものが“滑る”。


 紙の上にあるはずの意味が、現実と接続されない。


「……なんで」


 思わず声が漏れる。


 男が答える。


「優先順位の差だ」


 それだけだった。


 だが、その一言で全てが繋がる。


 ユイの能力は、“文章によって現実を上書きする”ものだ。だが、それはあくまで「競合する結果の中で勝つ」ことで成立している。つまり――


 **“より強く固定された結果”には、上書きできない。**


 セオドアが後方から何かを展開している。解析の魔術式だ。だが、それも途中で崩れる。構造を読む前に、結果が確定してしまう。


 ノエルの魔法も同じだった。発動しているのに、成立しない。発動した未来と、失敗した未来が同時に存在するのではなく、“失敗した方だけが選ばれる”。


 リゼットが再び立ち上がる。


 身体は限界に近い。それでも踏み込む。彼女の強さは、そういうところにある。


 だが、通じない。


 読まれているのではない。


 **“読まれる必要すらない”。**


 結果が、最初から決まっているからだ。


 一撃が入る。


 今度は深い。


 リゼットの呼吸が止まる。


 膝が崩れる。


 静かに、倒れる。


 その瞬間、戦場から“前衛”が消えた。


 私は、動けなかった。


 ペンは握っている。


 でも、書けない。


 何を書いても通らないと、理解してしまったからだ。


 これは、これまでの戦いとは違う。


 構造を読み、核を見抜き、条件を書き換える戦いではない。


 **そもそも「書き換えが成立しない」戦い。**


「終わりだ」


 男が言う。


 近づいてくる。


 足音は静かだが、その一歩一歩が確定している。逃げられない。避けられない。


 ここで終わる。


 その結果が、もう用意されている。


 ――本当に?


 そのとき、不意に“違和感”が浮かぶ。


 温泉で見た光景。


 真理。


 母。


 泣いていた顔。


 そして、あのとき自分が書いた言葉。


「採用しない」


 あれは、結果を書いたわけじゃない。


 “選ばない”という宣言だった。


 私は、ゆっくりと息を吸う。


 理解する。


 今までの自分は、ずっと“結果を書こうとしていた”。


 だから、負けた。


 相手は結果を固定する存在だ。


 なら――


 結果で戦う必要はない。


 私はペンを動かす。


 今度は、違う。


『まだ、終わらない』


 短い。


 曖昧。


 結果を決めていない。


 ただの宣言。


 だが――


 その一文は、消えなかった。


 現実に、残る。


 空気が、ほんのわずかに“緩む”。


 男の動きが、一瞬だけ止まる。


 ほんのわずか。


 だが、確かに。


「……未確定」


 初めて、その口から“確定ではない言葉”が出る。


 その瞬間、理解する。


 この戦いの本質は――


 **結果の奪い合いではない。

 確定させないこと。**


 鍵の担い手が、後ろで笑う。


「それだよ」


 鏡の担い手が、静かに言う。


「ようやく、同じ土俵に立った」


 アリアが、倒れたままこちらを見る。


 目が、はっきりしている。


「それが……あなたの力です」


 私は、頷く。


 遅すぎた理解かもしれない。


 でも。


 まだ終わっていない。


 私は、もう一度ペンを握る。


 今度は、迷わない。


 ――ここから、逆転が始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ