第三話「選び直す力」
部屋に戻った瞬間、私は椅子に崩れ落ちた。
「……何、あれ……」
頭の中で、何度も再生される。
水晶の光。
あの“揺れ”。
そして――
本来とは違う結果。
(偶然じゃない……)
直感がそう告げていた。
(試すしかない)
私は立ち上がる。
机の上にあったペンと紙を掴む。
そして、震える手で書いた。
『ユイは、魔力を指先に集めることができた』
書いた瞬間。
何も起きない。
(……やっぱり、そんな都合よく――)
そう思った、そのとき。
ぴり、と。
指先に違和感が走った。
「……え?」
じわりと、熱が集まる。
まるで、そこに魔力が流れ込んでくるような感覚。
(うそ……)
恐る恐る、指を掲げる。
淡い光が、灯っていた。
「で、できた……?」
呼吸が浅くなる。
今の一文。
ただ“書いただけ”だ。
なのに。
(現実になった……?)
(いや、待って)
冷静になれ。
本当にそうなら――
(もっと明確に変えられるはず)
私はもう一度、紙を取った。
『ユイは、火の魔法を使えた』
書く。
数秒、沈黙。
そして。
――ぼっ。
掌の上に、小さな火が灯った。
「……っ!!」
思わず声が漏れる。
熱い。
本物だ。
幻じゃない。
(やっぱり……)
震える指で、紙を見つめる。
(“書いたことが、反映されてる”)
でも。
次の瞬間、それは消えた。
すうっと、火が消失する。
「……あれ?」
もう一度、やろうとする。
だが。
今度は、何も起きない。
(使えない……?)
違う。
感覚はある。
でも、発動しない。
(制限がある……)
考える。
・一度しか反映されない?
・条件がある?
・成功率?
(それとも――)
そのとき、気づいた。
紙の文字が、うっすらと消えかけている。
「……これ」
触れる。
インクが、薄くなっている。
まるで。
“使われた”みたいに。
(書いた内容が、消費される……?)
ぞくりとした。
(じゃあ、これは)
魔法じゃない。
スキルでもない。
物語そのものを使ってる。
(なら……)
ゆっくりと、息を吐く。
(やり方次第で――)
とんでもないことになる。
そのとき。
コンコン、とノックの音。
「ユイ様、よろしいでしょうか」
――アリアの声。
びくりと身体が固まる。
(なんで、ここに……)
「入りますね」
勝手に扉が開く。
銀髪の少女が、部屋に入ってくる。
「……何か、面白いことをしてますね」
にこり、と笑う。
けれどその目は、まったく笑っていない。
「さっきから、“物語の流れ”が歪んでるんです」
心臓が跳ねる。
(この子……)
やっぱり、気づいてる。
「ねえ」
一歩、近づく。
「あなた、“書いてますよね?」」
――完全に、見抜かれていた。




