第一話「私の物語なのに、違う」
目が覚めた瞬間、違和感があった。
柔らかなベッド。見慣れない天井。
そして何より――自分の身体が軽すぎる。
「……ここ、どこ?」
呟いた声は、思っていたよりもずっと高く、若かった。
(え……?)
慌てて手を見る。白くて細い指。
年齢も、体格も、完全に別人だ。
その瞬間、頭の奥に流れ込んでくる記憶。
貴族。魔法。王国。
そして――
(この世界、知ってる……)
心臓が大きく跳ねた。
「これ……私の小説……?」
そうだ。間違いない。
私が書いていた連載作品――
『蒼光のレガリア』
けれど。
「……なんで、私が?」
混乱しながらも、部屋を見回す。
豪華だが、主人公の部屋じゃない。
(ここ……誰の部屋?)
記憶を辿る。
そして、気づいた。
「……モブ令嬢?」
物語序盤で一瞬だけ出てきて、
特に何もせず消えるキャラクター。
(よりによって、そこ!?)
思わず頭を抱える。
主人公でもヒロインでもない。
チートもイベントもない。
ただの“背景”。
(いや、待って。落ち着け)
ここは自分の書いた世界だ。
なら。
(展開も、設定も、全部わかるはず)
そう思った瞬間――
「ユイ様、朝のお支度を」
扉がノックされた。
(ユイ……これが私の名前か)
メイドが入ってくる。
ここまでは、設定通り。
だが。
「今日は“魔力測定の日”ですので」
――その一言で、違和感が走った。
(……は?)
おかしい。
魔力測定は、本来もっと後のイベントだ。
しかも、主人公が受けるもの。
(なんで、ここで……?)
嫌な予感がする。
「急ぎましょう。皆さま、もう集まっております」
「……わかった」
促されるまま、私は部屋を出た。
廊下を歩きながら、頭の中で設定を確認する。
(この時点では――何も起きないはず)
だが、胸騒ぎが止まらない。
そして、広間に入った瞬間。
それは、確信に変わった。
本来ならまだ登場しないはずの人物が、そこにいた。
銀髪の少女。
物語のヒロイン――アリア。
(なんで……ここにいるの……?)
彼女は、ゆっくりとこちらを見た。
そして、微笑んだ。
その笑顔は――
(違う……)
私の知っている“彼女”じゃない。
もっと、冷たい。
もっと、危うい。
まるで。
(……敵キャラみたいな顔)
ぞくりと背筋が震えた。
そのとき、確信した。
この世界は。
私の書いた通りじゃない。




