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剣道部のクールなエース美少女が、ネットの親友(女)にガチ恋してるらしい。……それ、女装した僕なんだけど?  作者: 秋夜紙魚
第一巻

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8/29

幕間 多田澪、一

「あー、つかれた!」


 部屋に入った勢いで、ベッドにダイブする。

 普段はジャージばかり着ているからか、慣れないセーラー服で一日過ごすのは意外と体力を消耗するらしい。


「って、制服皺になっちゃうな」


 慌てて起き上がり、スカートのファスナーを降ろして、いつものジャージに着替える。

 鏡に映るのは、ショートカットに長身、寸胴体型の自分。

 セーラー服は可愛いけれど、やっぱり私には似合わない。こんな男勝りな女には。


 納豆パワーで女性ホルモンが増えるなんて噂を信じて毎朝食べているけれど、今のところ効果はゼロだ。胸も相変わらず平らなままだし。


 ジャージに着替え終わると、再びベッドに腰を降ろした。

 部屋の隅には、竹刀が立てかけてある。


 文化祭の出し物――「男装女装コンテスト」のために持っていったものだ。


 思い出すのは、あの先輩たちのこと。


 人目につかない場所でタバコを吸うだけならまだしも、他校の生徒をナンパするなんて言語道断だ。しかも、あんなに気弱そうな女の子を。


 怯えて縮こまっていた彼女の姿が脳裏に蘇る。


 元剣道部の先輩たちだから、ある程度の手加減はして威圧したつもりだ。

 大事にならなくて本当によかった。


「……それにしても、可愛かったな。あの子」


 お人形みたいなメイド服。小さな身体。長い髪と、大きな瞳。

 加えて、風の悪戯で見えてしまったドロワーズ。


「……っ」


 思い出して、顔が熱くなる。

 同性なのに、下着を見てドキドキするなんて変態みたいだ。

 でも、本当に可愛かった。あんなにメイド服が似合う女の子、他に知らない。


「…………」


 私は、ちらりと姿見を見た。

 もし私が彼女みたいに可愛かったら、人生違っていたのかな。

 なんて、柄にもないことを考えた直後。


 ピコン。

 スマホの通知音が鳴った。


 画面を見ると、見知らぬアカウントからのメッセージ。

 ユーザー名は、ひらがなで『まもる』。


 ああ、あの美少女だ。

 電話番号を渡したから、自動で友達追加されたらしい。

 おっとりして見えて、意外と行動力があるんだな。脳筋な私とは大違いだ。


 メッセージには、丁寧なお礼の言葉が綴られていた。

 私も慌てて返信を打つ。


『何事もなくてよかったよ』

『ただ、あいつらは結構根に持つタイプだから、用心してね』


 これでやり取りは終わり。

 の、はずだった。


 でも――指が勝手に動いていた。


『友だちになってくれませんか?』


 送信してから、ハッとする。

 今の私は、彼女にとって「男装した男子レイくん」だ。

 こんなメッセージを送ったら、完全にナンパじゃないか!


 慌てて訂正のメッセージを送る。


『突然ごめんなさい! その……まもるさん、すごく、可愛いし』

『違くて! ナンパとかじゃなくて! 単純に、友だちになりたいって思っただけで!』


 支離滅裂だ。

 でも、たぶん本心だった。

 あんなに可愛い子と友達になりたいと思うのは、女の子だって同じだ。


 ピコン。

 返信が届く。


『こちらこそ、レイくんみたいな格好いい人と友だちになれるなんて、光栄です』


「…………」


 胸が、チクリと痛んだ。


 彼女は私を「格好いい男の子」だと思っている。

 不純な動機なんてない、爽やかな好青年だと信じてくれている。

 なのに私は、性別を偽って彼女を騙している。


『実はわたし、女の子なんです』


 入力欄に文字を打つ。

 でも、送信ボタンは押せなかった。

 数秒迷って、バックスペースキーで一文字ずつ消していく。


 どうせ、すぐに連絡なんて取らなくなるだろう。

 そう高をくくっていた。


 けれど、予想に反して私とまもるさんの相性は抜群だった。


 おっとりしているようで強気なところがあったり、意外と自堕落だったり。

 彼女の内面を知れば知るほど、庇護欲を掻き立てられて――。


 気がつけば、私は彼女に恋をしていた。

 初恋だった。


 会いたいと、触れたいと思った。

 でも、ある時期から急に胸が成長し始めて、男装が難しくなってからは、会うのを避けるようになった。

 会いたいのに会えないジレンマが、さらに恋心を燃え上がらせていく。


 この恋は、絶対に叶わない。

 だって彼女は、私を「男」だと思っているから。

 本当のことを言えば、きっと嫌われる。気持ち悪がられて、友達ですらいられなくなる。


 だから私は、嘘をつき続けた。

 絶対にバレてはいけないと、自分に言い聞かせて。


 そうして、嘘と秘密を抱えたまま、数年の時が過ぎ――。


 私たちは、高校生になった。



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