表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣道部のクールなエース美少女が、ネットの親友(女)にガチ恋してるらしい。……それ、女装した僕なんだけど?  作者: 秋夜紙魚
第一巻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/29

第23話

「な、……なめてんじゃ――」

「っ」


 振り返った先輩の面を、多田さんの竹刀が捉える。


 パシィンッ!


 軽快な音。

 続けて、多田さんは唖然とする部長の竹刀を払い落とした。

 部長は思わず、取り落とした竹刀へ目を向け、ハッとして顔を上げる。


「……拾ってもいいですよ」

「っ、このやろう!」


 それから、何度竹刀がぶつかり合う音が響いただろうか。

 ただ一つ言えるのは、多田さんは襲い来る竹刀を全てはたき落とし、その都度、正確無比な技を決めてみせたということ。


 やがて部長は腰を抜かし、へたり込んだ。

 怯えきった瞳で見上げる先輩に、多田さんは冷たく告げる。


「早く立ってください」

「あ、あああ!」


 部長はそのまま背を向けて逃げようとした。

 だが多田さんは逃がさない。腕を掴んで無理やり立たせた。


「……あと、四十二回」

「へ……」

「貴方たちが、木村くんと、別府さんに打ち込んだ回数です。試合だけじゃない、練習の間も。ずっと見てた。……安心してください。私は先輩たちみたいに下手じゃありません。綺麗に、痛みなく打ち込みますから」


 多田さんから放たれる圧倒的な迫力と、凄み。

 部長はわなわなと震え、勢いよく面を脱ぎ捨てた。


「くそがっ! やってられるか!」


 防具と竹刀を床に叩きつけ、部長は逃げるように鞄を抱えて柔道場を出ていった。

 それを追うように、残りの三年生たちも姿を消す。


 入れ替わるように、息を切らせた堀田先輩に続き、竹瓦先生と松原先輩が現れた。


「お前ら、ちゃんと片付けて帰れよなー」


 逃げゆく先輩たちの背中に声をかけ、先生はため息をつく。

 そして僕たちに近づき、多田さんに向かって言った。


「やるじゃん」


 気が抜けた僕は、その場で面を脱ぎ捨て、大の字に寝転がった。


「はあああ……」


 俯く多田さんに、松原先輩がゆっくりと近づく。


「澪ちゃん?」


 ポロポロと、大粒の涙が多田さんの頬を伝う。

 僕は慌てて身体を起こしたものの、かける言葉が見つからない。


「ごめんね……」

「え?」

「わ、私のせいで……もう、……」

「……もう」


 松原先輩は、子どものように泣きじゃくる多田さんの頭を、そっと胸に抱き寄せた。

 身長は多田さんの方が高いけれど、あやしている先輩の姿には確かな母性があった。


「うちに入った理由、どうしても教えてくれなかったけど……どうせ、そんな事だろうって思ってたよ」

「約束……した、から」

「はぁ……あんなもん、約束だなんて言わないよ。澪ちゃんが勝手に宣言して、一人で決めた事でしょうが」

「で、でも――」


 顔を上げて反論しようとした多田さんの頬を、松原先輩は両手で包み込んだ。


「こんな怪我、絶対に治す。それに、こっちだって、澪ちゃんとの約束をまだ果たしていないんだからね?」

「え?」

「いつか言ったでしょ? 澪ちゃんに勝ってみせるって」


 松原先輩は笑っていた。陰りなんて微塵もない、綺麗な笑顔だった。


 多田さんの瞳に再び涙が溢れ、そのまま彼女は先輩の胸に顔を埋めて泣いた。

 先輩は優しく頭を撫でる。


「よしよし、泣き虫なのは相変わらずだなぁ」


 そんな二人を眺める僕の元に、先生が近寄ってきた。


「生きてるか?」

「無事ではないですよ。全身痛いです。……でも、まあ。心のもやもやはなくなりました」

「そりゃ、何よりだ」


 先生はまたポケットから煙草を取り出して咥え、苦笑いする。


「……何点くらいの答えでした?」

「どうだろうな。ただ、赤点ではないかな。俺の担当科目じゃないから、なんとも言えんが」


 先生はニカッと笑った。


「俺も心はまだ少年のままだが……お前らは、もっともっとガキだ。色々と難しく考えすぎちゃいかん。もっと素直に、正面から立ち向かえばいい。失敗を失敗として受け止めて、お咎めなしで済むのは今だけなんだぞ」

「……やっぱり、先生は格好悪いけど、格好いいですよね」

「褒めてんのか? それ」


 ふと、視線を感じた。

 多田さんが僕たちを見ていた。


 彼女は僕と目が合うと、不機嫌そうに目を細めた。

 涙で赤くなった目を隠すこともせず、こちらへ歩いてくる。


 そして見下ろしながら、手を差し伸べてきた。


「ん」

「……ありがとう」


 僕は笑ってその手を取り、立ち上がった。

 その瞬間、なぜか多田さんがパッと頬を赤らめた。


「どうかした?」

「あ、いや……既視感があっただけ。デジャブ?」


 多田さんの手を離し、僕は今回の一件について謝ろうと口を開いた。


「あのさ、」

「ごめんなさい!」


 僕の言葉は、多田さんの謝罪にかき消された。

 彼女は深々と頭を下げ、顔を上げると、今度は別府さんの方を向いて同じように頭を下げた。


「ごめんなさい!」

「あ、あわわわ……別に、多田さんが謝る事なんてなにも」


 慌てふためく別府さん。

 多田さんは顔を上げた。


「……決めていたの。ずっと昔に、誰かのために戦える人でありたいって。なのに、私は自分の心を満たすためだけに、貴方たちを――見捨てた」

「違うよ!」


 別府さんは勢いよく否定し、僕の方を見た。

 僕も頷く。


「うん。助けてくれたのも、多田さんだ」

「そうです!」


 僕ら二人を交互に見た多田さんは、また瞳を潤ませて言った。


「……ありがとう」


 その笑顔を見た瞬間。

 僕の胸は、トクンと高鳴った。



**************************************



応援コメント、レビューが励みになりますので、お時間があれば是非。


☆評価もお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ