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剣道部のクールなエース美少女が、ネットの親友(女)にガチ恋してるらしい。……それ、女装した僕なんだけど?  作者: 秋夜紙魚
第一巻

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第15話

 翌日の放課後。柔道場の扉が勢いよく開かれた。


「やほー! まーくん!」


 元気溌剌とした声と共に現れたのは、柴石さんだった。

 その瞬間、多田さんの表情が能面のように凍りつく。


「……」

「あ、っと。木村くんの彼女さんですか?」


 事情を知らない別府さんが素朴な疑問を投げかける。

 僕が否定しようと口を開くより早く、柴石さんが僕の腕をガシッと掴んで宣言した。


「そうでーす!」

「もういいから、そのノリ!」


 僕は別府さんと、奥で耳をそばだてていた堀田先輩に事情を説明した。

 冤罪を晴らすためとはいえ、ややこしいことになった。


「はあ。木村くんって、モテモテなんですね」

「……ハーレム?」


 二人の生暖かい視線が痛い。


「――あの」


 低く、威圧的な声。

 多田さんが柴石さんの前に立ちはだかる。

 圧倒的な身長差。見下ろす多田さんと、見上げる柴石さん。


「なに?」

「……部外者は出ていってもらえませんか?」


 丁寧に取り繕った拒絶の言葉を、柴石さんは「はんっ」と鼻で笑った。


「建前はよそうよ。あたしが気に入らないだけでしょ」

「……」


 バチバチと火花が散る。一触即発の空気。

 不意に、柴石さんがニヤリと笑った。

 悪戯を思いついた子どものような顔だ。


「ならさ、勝負しない?」

「勝負?」


 柴石さんは別府さんが持っていた竹刀を奪い取り、切っ先を多田さんに向けた。


「剣道。あたしが勝ったら、もうここに居る事をとやかく言わないで。逆に、もしあたしが負けたら、木村くんにべたべたするのは止めてあげる」


 自信満々な態度。

 昨日の練習を見て、自分なら勝てると踏んだらしい。


 だが、昨日の多田さんは実力の片鱗も見せていない。


 多田さんは迷わず頷いた。


「いいよ」


   ***


 余っていた道着を着込んだ柴石さんは、手慣れた様子で素振りを繰り返していた。

 かなり堂に入った構えだ。経験者であることは疑いようがない。


 審判役の堀田先輩がポツリと漏らす。


「……あの子……強いよ」

「そうなんですか?」


 堀田先輩が頷く。

 強者が強者を見抜く直感だとしたら、柴石さんは相当の手練れなのだろう。


 一方、多田さんは開始線の近くで正座し、じっとしていた。

 準備運動もそこそこに、静かに目を閉じている。


「えらく余裕じゃない」

「いいから」

「っち、泣きを見ても知らないわよ」


 僕を巡る(?)野良試合の火蓋が切って落とされる。

 剣道の試合は三本勝負。二本先取した方が勝ちだ。


「始めっ」

「きぃあああああああああ!」


 堀田先輩の合図と同時に、この世のものとは思えない奇声を上げて柴石さんが突っ込んだ。

 見事な継ぎ足で一気に間合いを詰める。狙いは右小手だ!


「てええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!」


 ――決まった。

 そう思った瞬間だった。


 パァンッ!


 乾いた音が響き、柴石さんの動きが止まる。


 多田さんの竹刀が、正確に彼女の面を捉えていた。

 それも、片手一本で。


「面ありっ」


 堀田先輩の声に、柴石さんは呆然としている。


「……え? は?」

「早く戻って」


 多田さんに急かされ、彼女はふらふらと開始線に戻った。


「今のって……」

「……いや、僕にもさっぱり」


 困惑する僕らの背後から、低い声がした。


「小手抜き片手面だ」


 振り返ると、いつの間にか竹瓦先生が立っていた。


「小手を打たれる瞬間に手を引いてかわし、そのまま左手一本で面を打ったんだ」


 先生は胸ポケットの煙草をいじりながら、眉間に皺を寄せる。


「女子剣道で片手面はあまり使われない。力が弱く見えて、一本になりにくいからな。だが……今のは文句なしだ」


 あの細腕で、重い竹刀を片手で振り抜き、打ち勝ったのだ。

 圧倒的な身体能力と技術。


「始めっ!」


 二本目。

 柴石さんは焦っていた。竹刀を握る手に力が入りすぎている。


「き、きえええええええええええ!」


 再び突っ込む柴石さん。

 小手狙いと見せかけて、大きく振りかぶる。面だ!


 しかし――多田さんは閃光のような一撃で、相手の竹刀を打ち落とした。

 体勢の崩れた柴石さんの面を、正確に捉え、残心を決める。


「……綺麗」


 別府さんの声が漏れた。

 芸術的ですらある一撃だった。


「面ありっ。勝負あり!」


 多田さんが面を外す。汗一つかいていない。

 一方、柴石さんは顔を真っ赤にして震えていた。


「あ、あんた何者よ! 中学の大会で多田なんて名前、聞いたことないわよ!」

「ご生憎様。わたし、中学では剣道部に入ってなかったから」

「っ!?」


 高校デビューの初心者に負けたと思ったのか、柴石さんのプライドはズタズタだ。


「お、」

「お……?」

「覚えてろよこんちきしょー!」


 彼女は道着のまま、捨て台詞を吐いて逃げ出した。

 嵐が去った後の静寂。


 僕は呆然と、多田さんを見つめていた。

 強い。そして、悔しいけれど格好良い。


 ふと、多田さんと目が合った。


「……」

「ど、どうかした?」


 彼女は無言で手を差し出した。


「ん」

「え?」

「……水」

「あ、はい!」


 慌ててスポーツドリンクを渡す。

 一息に飲み干す彼女に、竹瓦先生が声をかけた。


「普段から片手面の練習をしてるのか?」

「特には。……昔、お爺ちゃんに上段を教わった時に少し。小手抜きは咄嗟の判断です」

「……なるほどな」


 先生は顎に手を当て、品定めするように多田さんを見た。


「……振りの鋭さ、体さばき、度胸。確かに一級品だ。……ただ、全国はお前が思っている程、甘くないぞ」

「っ、わたしの力が足りないと?」


 多田さんが色めき立つ。

 先生はくるりと背を向けた。


「実力は申し分ないさ。だが――」


 背中越しに、冷たい言葉を投げかける。


「お前の剣は、焦っている。その焦りが、お前から全国への道を遠ざけるだろうよ」

「……ッ」


 先生はそのまま出ていった。

 残された僕たちは、誰も多田さんに声をかけられなかった。


 彼女の横顔が、あまりにも悔しそうに歪んでいたから。



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