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剣道部のクールなエース美少女が、ネットの親友(女)にガチ恋してるらしい。……それ、女装した僕なんだけど?  作者: 秋夜紙魚
第一巻

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第13話

「わたし、ずっと木村くんの事……その、すき……だったの……」 「は、はあ……」


 昼休み、校舎裏。

 遠くから聞こえる全校生徒の喧騒をBGMに、僕はフリーズしていた。


 どうやらこれは、俗に言う「告白」というイベントらしい。

 十五年の人生で初めての経験だ。


 しかも、目の前の女子生徒はめちゃくちゃ可愛い。


 大きな瞳に、小さな顔。

 ゆるいウェーブのかかった明るい茶髪のショートヘアがよく似合っている。

 百人の男子に聞けば、九十九人は「可愛い」と即答するレベルの美少女だ。


 僕は気持ちを落ち着かせようと、後頭部をかいた。


 どう断ろうか。


 だってそうだろう。

 この人は「ずっと好きだった」なんて言っているけれど、中学校は違うし、今のクラスも違う。

 名前だって知らないし、話した記憶も……。


「……あ、部活見学迷ってた」

「え?」


 思い出した。

 この子、剣道部の見学に行ったあの日、掲示板の前に居た子だ。

 確かに二言三言かわしたけれど……いやいや、あの会話の中に僕を好きになる要素なんて一ミリもないはずだ。


 そんな相手に「好き」と言われても、「はい僕も」とは言えない。

 僕みたいな陰キャへの告白なんて、どうせ罰ゲームか何かのドッキリに決まっている。


「あ、その……」


 じとっ、と上目遣いで見つめてくる彼女。

 僕は視線を逸らしながら聞いた。


「と、とりあえずさ」

「はいっ」

「……名前、教えてもらってもいいですか?」


 彼女はきょとんと首を傾げたが、すぐにぱあっと笑顔になった。


「あ、うん。そうだよね!」

「えっと、一年四組の柴石華琳しばせきかりんって言います」

「あ、はい。ありがとうございます」


 さて、どう切り出そうか。

 考えあぐねていると、向こうから身を乗り出してきた。


「その、答えを聞いても……いいです、か?」


 どうやらお姫様は、イエスかノーか、明確な言葉をご所望らしい。

 僕は意を決して、頷いた。


「あ、うん。ごめんなさい」

「あ、はい! それじゃあ今日からよろしく――え?」

「え?」

「あ、いやその……今、なんて――」

「あ、うん。ごめんなさい。その、キミとは付き合えない、です」

「……」


 柴石さんは、しばし無言で固まり。

 次の瞬間。


「あぁん?」


 眉尻を下げ、ドスの効いた低い声を上げた。


「へ?」

「付き合えない? このあたしと?」

「え、あ、ひっ」


 鬼の形相で詰め寄ってくる柴石さん。

 思わず後ずさると、背中が壁にぶつかった。


 ドンッ!


 逃げ場を塞ぐように、彼女の膝が僕の太腿の間に割り込む。

 そして、彼女の手が僕の学ランの胸倉を掴み上げた。


 あまりのギャップに、恐怖よりも驚きが勝る。


「え、えぇえ……」

「……入学して以来、二桁以上も告られてる超絶美少女のこのあたしから告白してやってんのに、あんたは断るって、そう言うの……?」

「あ、えっと……は、はい」


 僕が震えながら頷くと、柴石さんは愕然とした顔をして、ふっと手を離した。  両手をだらんと下げ、俯く。


 沈黙。

 さすがに置いて逃げるわけにもいかず、気まずい時間が流れる。


 すると不意に、彼女の口から不穏な音が漏れた。


「……ふっふ、ふっふっふっふ……」

「し、柴石、さん?」

「っ、木村葵!」

「は、はい!」


 バッと顔を上げた彼女は、人差し指を僕の鼻先に突きつけた。


「絶対、あんたを振り向かせてあげるから! その時になって『好きになりました』なんて言っても、もう遅いんだからっ!」


 捨て台詞を吐き捨て、柴石さんは去っていった。

 嵐のような人だった。


 後に残されたのは、呆然と立ち尽くす僕一人。


 ……どうやら、とんでもなく面倒なフラグを立ててしまった気がする。


   ◇ ◇ ◇


 教室へ戻って席に着くと、すぐに佐助が寄ってきた。 こいつ、いつも僕の近くに居るけど他に友達はいないのか。 まあ、僕も人のことは言えないけれど。


「どっか行ってたん?」

「あー、うん。ちょっとね」


 このモテ男に「ラブレターをもらった」なんて言おうものなら、『俺もよくもらうわ』とナチュラルにマウントを取られかねない。しかもこいつは無自覚だからタチが悪いのだ。

 そのくせ、『俺ってモテないから』なんて平気で言う。

 佐助の嘘つきめ。


「午後一の単語テストの予習するから」

「おっ、そうだな。俺もしとくか」


 適当な理由であしらうと、佐助は素直に自分の席へ戻っていった。


 僕はポケットから、さっきの便箋を取り出した。

 丸文字で書かれた名前。ピンク色のシール。

 いかにもファンタジーな代物だ。僕の人生で、もう二度と拝むことはないだろうレアアイテム。


 早くしまってしまおう。

 そう思ってリュックに入れようとした、その時。


 手が滑った。


「あっ」


 便箋はヒラリと宙を舞い、床を滑っていく。

 そして、ある女子生徒の足元でピタリと止まった。


 彼女も気づいたらしい。

 白い指先が便箋を拾い上げる。


「……」


 多田さんだった。

 彼女は便箋の裏表をじっと見つめ、ゆっくりと立ち上がった。

 僕の席まで歩いてくると、無言で差し出してくる。


「はい」

「あ、ありがとう、多田さん」


 受け取ろうと手を伸ばした瞬間、彼女がポツリと言った。


「これ、ラブレター?」

「……え、っと……」


 ド直球な質問に言葉が詰まる。

 否定するのも変だし、肯定するのも恥ずかしい。


 僕が答えあぐねていると、多田さんはふいっと顔を背けた。


「……ま、どうでもいいけど」


 冷たい声で言い捨てて、彼女はスタスタと自分の席へ戻っていった。


「……」


 なんだか、ムッとした。


 別に僕と多田さんは付き合っているわけじゃない。

 彼女が言う通り、僕の恋愛事情なんてどうでもいいことのはずだ。


 だけど。

 そんなに興味なさそうな態度、取らなくてもいいじゃないか。


 胸の奥に刺さった小さな棘が、チクリと痛んだ。



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