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剣道部のクールなエース美少女が、ネットの親友(女)にガチ恋してるらしい。……それ、女装した僕なんだけど?  作者: 秋夜紙魚
第一巻

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16/29

幕間 多田澪、三

 制服姿のまま、ベッドに寝転ぶ。

 天井を見つめながら、ふと瞼を落とした。


 浮かんでくるのは、同じクラスで、同じ部活の男の子。

 木村くんの顔だった。


「……っ、」


 頬が熱くなる。

 カッと目を見開き、体を起こして何度も首を左右に振った。


 ありえない。

 そう、自分に言い聞かせる。


 だって彼は、私の好みとは何もかもが違う。

 男の癖になよなよしていて、見た目も華奢。あれこれ理由をつけて物事から逃げる、典型的なヘタレ男子高校生だ。

 そもそも、当たり前だけど彼は……男性だ。


 ふと、携帯を取り出してSNSアプリを開く。

 トーク画面の一番上にあるユーザー名をタップした。


『まもる』


 素敵な女性だ。

 可憐で、可愛らしくて、守ってあげたくなるような人。

 だけど実は自堕落で、料理も洗濯もまともに出来ない。家では毎日ぐうたら過ごしているらしい。

 その癖、機械関係には妙に詳しい。


 何より――彼女とチャットをしていると、心がぽかぽかした。

 こんな気持ちになる相手は、他に居なかった。


 私は、多田澪は、「まもるさん」に恋をしている。

 私は身も心も女性で、それは相手も同じはず。

 それが分かっているのに、私はあの人に恋い焦がれている。


 これまでも何度か男性に告白されたことはある。

 好きだ、付き合って欲しいと。

 だけど私は、そのどれもを断ってきた。


 理由は明確には言えなかったけれど、本当は違った。

 私の心にはずっと一人の人間が居着いていて、他の人に目もくれなかっただけだ。


 そう、そのはずなのだ。

 なのに――。


 見た目が中性的だから?

 声が可憐で、男の癖にすごく可愛いから?


 理由はわからない。

 だけど私は、好きな人がいながら、別の人に惹かれてしまっているのかもしれない。

 木村葵くんという、クラスメイトの男性に。


 現実的に考えれば、その方が自然なのだろう。

 女性が好きになる相手は普通、男性でないといけない。


 少なくとも、私は自分の気持ちを「まもるさん」に伝えるべきではないと思っている。


「……」


 トーク画面を開き、文字を打とうとする。

 まもるさんと話したい。


 だけど――。


「……」


 ホームボタンを押して、画面の電源を落とした。


 好きな人に、「好きな人が出来たんだ。どうしよう」だなんて聞けるわけがない。


 自嘲する。

 硬派で一途な自分だと思っていたけど、私は案外、浮気性なのかもしれない。


 それに――。

 これから、極力まもるさんと連絡を取るべきではないのかもしれない。

 そう思っていた。


 ……数日前の事だ。

 木村くんが入部した翌日、道場での出来事。

 かおりは、あのカツラを被った後ろ姿を「まもるさん」と紹介した。


 ……私の勘違いでなければ。

 この耳が忘れていなければ、あの声の正体はやっぱり――。


「……居るのかな、本当に……」


 あり得ない可能性ではない。

 まもるさんは元々、真白高校のある地区に住んでいた。私立を離れることになったと聞いていたし、その先がここであってもおかしくはない。


 でも、まさか。


 不意に、机の上に飾ってある写真立てを見た。

 もう十年近く前に撮った写真だ。

 幼い私と、かおりが写っている。二人とも防具をつけて、満面の笑みだ。


 かおりは、幼少期からうちの道場の教え子だった。

 私の最初の「生徒」であり、二つ年上の「お姉ちゃん」みたいな存在。


 かおりは努力家だった。いつも一番に道場へ来て、練習していた。

 ある日を境に毎日、私に試合を挑むようになった。

 もっとも、彼女が私に勝てた事は一度もなくて。


 そして――。


 かおりは、剣の道を諦めた。

 後遺症の残る怪我は、交通事故が原因だった。


 私はスカートの上から、太腿の古傷をさする。

 もう痛みなんてちっとも感じないし、治療を受ければ目立たなくなると言われた。

 だけど、私は未だに残したままでいる。


「……絶対に、全国へ連れて行くよ」


 日常生活に不便がないくらいに回復したかおりの身体。

 しかし、激しいスポーツをするには耐えられない。


 去年の今頃、夕暮れの道場でかおりを見た。

 竹刀を構え、すり足をした瞬間に膝から崩れ落ち、その頬に涙が伝ったあの光景。


 あの時、決意したのだ。

 中学の頃からずっと全国大会を夢見ていた彼女のために。

 私が、彼女を全国へ連れて行くんだと。


 そのために、私は親の反対を押し切って公立高校へ進学した。

 彼女の居る、真白高校に。



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