幕間 多田澪、二
「つ、か、れ、たー!」
ドサッ。
部屋に戻るなり、ベッドへダイブ。
制服がしわになるからすぐに着替えなきゃいけないのに、この数分間の至福だけはやめられない。
そして、二年前から加わった、もう一つの大切な習慣。
スマホを取り出し、アプリを開く。
宛先は「まもるさん」。
送信するのは、いつも私からだ。
私のことを「男」だと思っている女の子に、毎日自分からメッセージを送るなんて。客観的に見れば、ちょっと「重い」男かもしれない。
でも、まもるさんはいつも嫌がらずに、優しく返事をくれる。
彼女はすごく可愛いし、モテるだろうから、男の扱いにも慣れているだけかもしれない。
……ううん、私の中のまもるさんに、そんな悪女なイメージはない。 彼女はどこまでも純粋で、綺麗な心を持っている人だから。
「さてと……」
今日は何を送ろうか。
いつもは剣道のことや、学校での出来事を報告している。
最近はお互いに高校へ進学したばかりだから、新しい環境の話題が多い。
「今日の目玉といえば、やっぱり――」
同じクラスの男子、木村くんのことか。
名前が「あおい」で、見た目も中性的で、今日うちの部活にマネージャーとして入部してきた変わった子。
入力しかけて、指を止める。
いや、まもるさんが木村くんのことなんて知るわけないし、知らない男の話をされても困るだけだ。
考えた挙句、『部員が一人増えたよ』とだけ打って送信した。
あとは、返信を待つだけ。
いつもなら、すぐに既読がついて、可愛いスタンプと一緒に返事が来るはずなのに。
……今日は、遅い。
というか、既読すらつかない。
「……どうしたんだろ」
少し心配になる。
でも、まもるさんにも生活がある。いつもスマホを見られるわけじゃないし、「ごめん寝てた」なんてこともあった。
あんまり心配しすぎると、束縛する彼氏みたいだ。 いや、私は女の子なんだけど。
だけど――。
胸の奥が、ちくりとする。
「お話……したいな……」
スマホを握りしめたまま、ぼんやりと天井を眺める。
メッセージを連投するのは迷惑だから、待つしかない。
そうこうしているうちにご飯に呼ばれ、私は部屋を後にした。
結局その日、私の送ったメッセージに既読マークが付くことはなかった。
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