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剣道部のクールなエース美少女が、ネットの親友(女)にガチ恋してるらしい。……それ、女装した僕なんだけど?  作者: 秋夜紙魚
第一巻

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第8話

 女子剣道部の活動場所は柔道場だ。

 専用の道場はないものの、そもそも我が校には柔道部が存在しないらしく、実質的に彼女たちが占領しているらしい。


 扉を開けると、フローリングの上に置かれた畳から、裂帛の気合いが響いた。


「めぇええ!」


 竹刀と竹刀がぶつかり合う、乾いた音。

 剣道着に身を包んだ二人の生徒が、激しく打ち合っている。


 どうやら、ちょうど一本が決まった瞬間だったらしい。

 二人は礼をして、同時に面を取った。


 技を決めた方の生徒を見て、僕は息を呑んだ。

 手ぬぐいで前髪を上げ、玉のような汗を流すその凛々しい姿。

 クラス委員長の、多田澪さんだった。


「見学? ごめんなさいね、うち、男子部はないのよ」


 呆けていた僕に、声がかかる。

 振り向くと、青い体操着を着た上級生が立っていた。


「え? あ、いえ。その、マネージャーの募集を見て」


 僕が答えると、先輩は「まあ!」と目を輝かせた。


「今年もダメかもって諦めてたの! 私、マネージャーで三年生の松原かおり! 体操服持ってる? あ、でも更衣室が一つしかないから……とりあえず時間を決めて――」

「ちょ、ちょっと待ったっ! け、見学に来ただけですからっ!」


 ぐいぐい来る松原先輩に圧倒され、僕は慌てて後ずさる。


「あ、ごめんね! 私ったら、嬉しくて取り乱しちゃった」

「い、いえ……僕も、誤解を招く言い方でした」


 そんなやり取りをしていると、道着姿の多田さんが近づいてきた。


「……木村くん?」

「あ、多田さん」


 タオルで汗を拭いながら、多田さんは怪訝そうな顔をする。


「あれ? 澪ちゃん、知り合い?」

「……同じクラスです」

「そうなんだー。もしかして、これな関係?」


 松原先輩が小指を立ててニヤリと笑う。

 多田さんは即座に「違います」と否定した。


「またまたぁ。マネージャー志望の男子なんて怪しいと思ったんだよね。しかも澪ちゃん狙い?」

「違いますって。というか木村くん、マネージャー志望って……本気?」


 多田さんの鋭い視線が突き刺さる。


「えっ」

「誰が目当てか知らないけど、辞めた方がいいよ。女子の部活に男子が入るなんて、居心地悪いだけだから」


 冷たい言葉に、少しムッとした。

 まるで僕が不純な動機で来たみたいじゃないか。


「そんな言い方しなくてもいいだろ。別に下心なんてないよ」

「男子なんて、みんなそんなものじゃない?」

「偏見だよ」

「どうだか」


 睨み合う僕らを見て、松原先輩が茶化すように言う。


「おやぁ? 木村くんはうちの部の娘たちじゃ不満だと?」

「へ? あ、いや……そういうわけじゃ……」

「ほら、やっぱり!」

「あーもうっ、社交辞令だってば!」


 肯定も否定も地雷になる状況に、僕は頭を抱えた。


 見渡せば、柔道場には僕らを含めて五人しかいない。

 これで全部員だとすると、随分と小規模だ。


「……先輩。お茶、なくなっちゃった」


 奥から声がかかり、松原先輩が「ごめん、すぐ行く!」と走っていく。

 残された僕と多田さんの間に、気まずい沈黙が流れた。


 多田さんはエナメルバッグから水筒を取り出し、一口飲む。


「……ま、どうせ入るつもりなんてないだろうから、見学が終わったらすぐ帰ってね」

「いちいち棘があるなぁ。僕が隠れた剣道の達人だったらどうするんだ」

「ありえない」


 僕の冗談は、羽虫を払うように一蹴された。


「男のくせにそんな線の細い身体で。どうせスポーツ経験もないんでしょ?」

「ぐぬぬ……」


 図星すぎて言い返せない。

 悔しいので、苦し紛れの反撃に出る。


「でも、多田さんだってすごく細いじゃんか」

「……そんなことない。筋肉ばっかりで、女の子らしい肉付きは皆無だし」

「……そう?」


 僕の視線は自然と、彼女の豊かな胸元へ――って、いかんいかん!

 慌てて首を振る。


「どうかした?」

「な、なんでもないよ!」


 危ない。

 やっぱり女子剣道部のマネージャーなんて無謀だったか。

 面倒くさそうな予感しかしない。


 適当に切り上げて帰ろう。そう思った時だった。


「そういえば多田さんって、経験者?」


 他の部員と比べても、彼女の動きは段違いに見えた。

 多田さんは「まあね」と短く答える。


「小さい頃からずっとやってるから。実家、道場なの」

「へえ」


 実家が道場。

 その言葉に、ふと「レイくん」を思い出した。

 彼の実家も道場だったはずだ。剣道一家って意外と多いのかな。


「剣道は経験が物を言うから。才能や努力も大事だけど……試合勘とか、培ってきた時間が一番の武器になるんだ」


 真剣な眼差しで語る彼女は、普段の冷たい態度とは違って、なんだか格好良かった。

 嫌味がない。本当に剣道が好きなんだと分かる。


 多田さんは「さて」とタオルを巻き直し、竹刀を手にした。


「それじゃ、さっさと帰っててね」


 彼女が練習に戻るのを眺めていると、背後から気だるげな声がかかった。


「……およ、どうした木村。こんな所で」


 担任の竹瓦先生だった。

 相変わらずやる気のない様子で、よっこらしょと床に座り込む。


「先生って、もしかして」

「ん? ああ、俺ぁここの顧問だよ。前任がいなくなって押し付けられたんだ。ついてねぇよな」


 聞いてもいないのに愚痴り始める先生。

 部活の顧問はブラックだと聞くけれど、生徒の前でここまであからさまに言う大人がいていいのだろうか。


「先生って、剣道経験あるの?」

「うんにゃ……ん? ってかお前、敬語使えよなー。ま、いいけど」


 先生はポケットから煙草を取り出しかけ、屋内だと気づいて舌打ちをした。


「それじゃ、俺ぁトイレ行ってくるから。見学なら、もっと肌の露出が多いクラブにするんだな」

「なっ、ぼ、僕にそんな邪なつもりなんてっ」


 先生はヒラヒラと手を振り、喫煙所へ消えていった。


「ふふ……変わった先生でしょ?」


 お茶汲みから戻った松原先輩が苦笑する。


「まあ、担任だから知ってましたけど」

「でもね、ああ見えて不思議な人だよ? 時々、妙に説得力があること言うし」

「……そうですか?」


 僕にはただの無気力教師にしか見えないけれど。


 それからしばらく練習を眺めていた。

 竹刀の音、気合の声、汗の匂い。

 なんだか懐かしいような、不思議な感覚。


 気づけば日は暮れ、下校時刻が迫っていた。

 僕は立ち上がり、帰ろうとして――ふと、あることに気づいた。


 あれ? そういえば、なんで「マネージャー募集」なんてしていたんだろう。

 部員は少ないし、松原先輩ひとりでも回せそうなのに。


 その疑問は、翌日。

 予想もしない形で解消されることになる。



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