17.夕暮れ時の二人
17.夕暮れ時の二人
夕暮れに染まった街並みの中をみんなと一緒に下校する。
…懐かしいな。
公園で無邪気にサッカーで遊ぶ子供たち…
クレープを美味しそうに食べながら恋バナをする女子高生たち…
電話をかけながら急ぎ足で歩くサラリーマン…
塾帰りでハンバーガーを食べながらふざけ合う男子中学生たち…
今日の晩ご飯の話をしながら手を繋いで帰る親子…
久々に見るその『召喚される前の現代日本』の風景に、
懐かしさと様々な感情が押し寄せてくる。
「懐かしいな、この風景」
純が私の隣に並び、ふと、そう声をかけてきた。
「うん、そうだね」
純と並んで歩きながら、またのんびりと懐かしい風景を眺める。
やがて広い交差点に出ると、手を振ってみんなそれぞれの帰路へとついた。
私と純は自宅が同じ方向なので、二人で河川敷の方へと並んで歩いていく。
「そういえば、純の家もこっちだっけ」
「うん。俺の家、あっち。お前は?」
純が河川敷の向こうの方を指差す。
「私の家はあっち」
純の指差した河川敷の向こうのもう少し右側を指差す。
「そっか。じゃあもう少し一緒に帰ろうぜ」
そうして純と二人、河川敷の土手をのんびりと並んで歩いていく。
夕暮れ時のオレンジ色の空が、より濃くなって河川敷を染めていく。
あっちの世界に召喚される前、純とこうして一緒に帰っていたことが
あったなと…つい昨日のことのように思い出す。
ゆっくりと歩きながら、道端に咲く草花に手を伸ばし、葉に触れたり、
花の匂いを嗅いでみたりしてみる。
「草花を見てると異世界のことを思い出すな。あっちにも色んな
植物があったよな。」
純も私に倣うように道端の草花の葉に触れる。
「さすがにこっちの世界の植物は襲ってきたり、変な液体を
飛ばしてきたりなんてしないけどね?」
思い出してクスッと笑う。
「そうだな。でも…あの魔法の森で冒険したのがつい昨日のことのように
感じる…。あの時は、お前と二人であの魔法の森を探検してたよな。
俺、あの時…」
懐かしそうに話しながら純が道端の葉っぱを指で擦ると言葉を濁す。
「うん? なぁに、純?」
言葉を途中でやめた純を不思議そうに見つめる。
「いや…あの時も、さ…お前とこうして並んで歩いてて…。
俺はその時もお前のことが…好きだったなって。はは…」
ちらりと窺うように純がこちらを見てくる。
道端の花の匂いを嗅ぐようにしながら、私はどこかぼーっと、遠くの
景色を眺めていた。
純もただ静かに黙ってじっとそこに立つ。
夕焼け色に染まる河川敷に、そよそよと柔らかな風が吹き抜けていく。
オレンジ色の夕陽が二人の顔を赤く染める。
「…お前、俺のこと…どう思ってる?」
長い沈黙の後、純が静かに口を開いた。
「…え?」
純の方を振り向く。
「あ…いや…異世界にいる時も今も、俺はいつもお前のことばかり考えてる
気がして…。でも…お前は俺のことどう思ってんのかなって…
ふと、気になってさ」
頭を掻きながら躊躇いがちに言う純。
「純とは…うーん…いつもおふざけし合ってたから…」
顎に手を当てて小首を傾げて考える。
「おふざけ…それだけ?」
「純にあまり真面目なイメージがないというか?」
純の言葉にお茶目に小首を傾げて言う。
「は…はは…。まぁ、うん…確かに俺はいつもふざけてばかり過ごして
いたもんな。いや…今もそうか。はぁ…じゃあやっぱり、お前は俺のこと…
好きじゃない…よな。…そうだよなぁ」
気まずそうに苦笑いして頭を搔く純。
「でもね…純とふざけ合うの、好きだよ」
純を見つめてそっと伝える。
「…マジで?」
「うん」
純の言葉に少し恥ずかしそうに微笑んで答える。
「…」
まるでなにか込み上げてくるものを我慢するような表情で、純が潤んだ瞳で
私を熱視線で見つめてくる。
「じゃあ…これからも俺とおふざけし合ってくれる?」
「うん…純、大好き」
目を細めてクスッと微笑むと、純にそっと口づけを落とした。
………
……
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