16.元の世界への帰還ー02
16.元の世界への帰還ー02
「でもさ~…俺たちが元の世界に戻った今、あっちの世界は
どうなるんだろうな?」
純が教室の窓から夕日を眺めながらふとそんなことを言う。
「え?」
不思議そうに純を見つめる私。
「俺たちが元の世界に戻ってきたってことは、もうあっちには
勇者がいないってことじゃん? まあ、魔王ももういないんだけどさ。
でも、もしもまた魔王みたいなやつが現れたらあっちで生きてるみんなは
どうすんのかなって、ちょっと思ってさ」
夕日を見つめたまま純が話す。
「それは…。そもそも、魔王がまた復活するとも限らないし…。それに、
別の勇者をまた召喚するのかもだし…」
少し考えながら純の話に返す。
「それもそうなんだけどさ~。もう俺たち何も力ないじゃん。もう向こうの
みんなの助けになれないんだなって思うとさ~なんか…」
「純、ここは『あっちの世界』じゃないよ?」
純の言葉の途中でそうすぐに返した。
すると純はじっと私を見つめるとふと笑って
「あ…そうだよな、そう…。うん、わかってる。こっちの世界じゃないって」
でもそう言う純はどこか寂しそうな気がして…。
「もしかして純…またあっちの世界に行きたいの?」
ふとそんな言葉を純に投げかける。
「…っ?!」
私の言葉に目を丸くして純が少し止まる。
「あ…いや、そうじゃ…ないんだけどさ。向こうでの経験も
色々あったじゃん? 王様に召喚されて、魔物退治して…旅して回って…
魔王も倒してさ。それで、俺たち成長して…。」
懐かしそうにそう話す純はどこか楽しそうで…。
「私は、平和なこの世界…好きだよ?」
自分の席だった机を撫でながらふとそう呟く。
「もちろん、俺だってこっちの世界の方が大切だ。 家族も友達もこっちに
たくさんいるし、こうして戻ってこられたことも、すごく嬉しく思ってる。
でもさ、なんかここにいるとあっちの世界にいたことが、
まるで夢の出来事のように感じられちゃってさ…
現実味なくなってきちゃうっていうか…」
そうやってあっちの世界の話をする純はやっぱりどこか寂しそうな
感じがして…。
純は、またあっちの世界で魔物倒したり、ドラゴンに乗って
空を飛んでみたりとかしたいのかもしれないな…。
ふとそう思う。
「あ…悪い、こんな話。せっかく戻ってきたんだもんな。しんみりするとか、
ないよな、ない!」
苦笑いして紛らわそうとする純。
「ねえ~? 久々にみんなで下校しようよ~」
晶たちとワイワイ話していた衣織がこっちを向いてそんな誘いをしてきた。
「あ、あぁ、そうだな! うん、みんなで帰ろう!」
純が笑顔で衣織に答える。
「うん、そうだね。今は帰ろう…みんなで、自分たちの家に。」
私も頷くと、夕暮れ時の教室を出て、みんなで久々の下校をした。




