激熱展開真っ最中。
ビリビリビリッ
と、目の前には大型テレビぐらいのスタンガンが、俺の頭、デジタル時計を直視し、着々と腹立つ速度で向かってきている。
「まずは頭をスタンガンで感電させ、後で頭から全身に水を被ってもらいます。あとはまたスタンガンでビリビリ、と。」
その執事の一言一言に、俺による何気ない殺意が込められていることが感じられた。サイコパス過ぎること言ってるこの執事。
そしてそのスタンガンの持ち手を必死に右肩に乗せ、引き攣った顔で俺の頭ををビリビリってやろうとしてるのが、ムカつくほど可愛らしい姫様って人。
人って呼ぶのも嫌気がさすほどヤバい事をしている。この人達。
そして俺もヤバい。何でこんな状況で人の事観察してるんだよ。どうしよう俺死ぬじゃん。
椅子に座って、足首から首元まで縄できっっっちり結びつけられてる俺の体は、動こうとも動いてくれない、ギギっと頼りない音を立てるのみだ。
ああ、誰か助けに来てくんないかな。
「ふ、、、ふんっお前、今更誰か来ないかな、って願ってるだろっ、それは、ふうふう、無謀な、考えっだ。」
姫様は息の篭った声を必死に絞り出している。このスタンガン、こんなに重いのか?
———俺は正直諦めている。
転生するなら、、、ファンタジーがいいな。都市とかトラウマになっちゃったかも。
冒険者になって、ギルドを作って、お金を稼いで、お酒を飲んで、ゴブリンと戦って、、、。
そんな平凡なファンタジー世界を、俺は謳歌したい。そう理想を語っていると、
「姫様、もうぼーんと、投げてしまう勢いでいいのでやってしまいましょう。」
「やろうとしてる!でも、、、重いんだよこれぇ、」
この二人の会話が怖くてたまらない。ぼーんってなんだよぼーんて。
俺のカメラははっきり横に流れる電力を映している。それは徐々に近くなり、
———あ、死ぬやんこれ
まって、ちょっとまって、。
本当にちょっと待って欲しい。迫り来るスタンガンに意味なき要求を出す。周りを見渡したいが、頭を動かすと、時計の端が電流に当たって一発アウトなので何処も向けない。
「あと少し、、、っあと少し」
いやあと少しじゃん———
「お、にいちゃーん!!こんにちはー!!」
窓張りのガラスが盛大に割れ、ぶちまけられるのを俺は見た。そして主人公の様に空中にガッツポーズのまま、そこに映っていたのは、
———俺の実の妹。ラクピーだった。
「ら、ラクピー!?」
俺は呆気なく大声で放つ。
ラクピーー!俺の愛しの妹、、、シスコンになってしまうな。だが、
本当にありがとう!!救いに来てくれたのか!
「はあい!?なんだおめー!?」
「邪魔者が来ましたね。」
この二人の発言はどうでもいいんだ、助けが来た!助けが来たんだ!
「お兄ちゃんが死にそうだから助けに来たよー!お姉ちゃん達———早めにくたばりやがれゴミが!!!」
その発言を最後に、ラクピーは地面に着地する。
「ゴミが!?今ゴミっていいましたのこいつ!?」
「相手はやる気の様です。ぶち殺しましょう」
ああ、これが俺の妹の悪いところなんだが、ラクピーは感情が強くなってる時は、凄い口調が変わるんだ。悪口の幅も広がる。、、、執事の発言も見逃せない。
「てめえら何勝手に俺の兄貴殺そうとしてんだよ面貸せやゴラァ!!」
と、ラクピーは相変わらずの言動で桃色のライトセーバーを右手にぎゅっと握り、
俺の方に一直線に向かってくる。
「お兄ちゃん!今解放するよ!———糞てめえらは引っ込んどけ!」
解放、と言う言葉を聞き俺は解放された気分になる。まだされてないのに。
「おらっ!」
ライトセーバーからは中々鳴らない、チャキンっという音で俺を結びつけていた縄は、胸から引き裂かれた様に分かれた。
ふわあっと舞う数々の縄の先端が、俺に勝ちを謳った。
「待て!やめろ小童!!」
姫様はそう一直線に俺の方に走り出す。
申し訳ないが、俺は全力で逃げる。
だが、何処へ逃げようとしているのか自分でも分からない。唯、ラクピーの後をついて行っているだけだ。
———ちょっとまてよ。
ここの先、、、なんもなくないか!?
なんて晴天!"窓がない"からはっきり見える!
「あそこから飛び降りようお兄ちゃん!行けるよね!」
飛び降りる!?
ラクピーに中々の力で手を引かれる。
妹に手を引かれたなら———行くしかないか。
俺の本能が叫ぶ!そのまま行けと!
それにしても処刑場は大きい。今全力で走って、目的地も見えているのに、手の届かない場所に感じる。でも走るしかない。走れ俺!!
「待て!行くな!おい!頼む!」
「姫様!その先は危険です!」
「だめだ!行かないと、また、失敗になる!もう失望されたくないんだ!!」
「っですが!!」
背中からこんな会話が聞こえる。微かな罪悪感が俺の心の中に湧き出てくる。だがそれは、一瞬だけの出来事だった。
「行くよ!お兄ちゃん!」
———飛んだ。
足が踏み場を無くし、赤子の様にジタバタ動く。何もかも安定していない。
「凄いよ兄ちゃん!すっごーい景色が綺麗!」
「、、、景色、か。」
地平線の先まで続きそうなビル群が、俺の掌の中にあるのでは、と思わせる程見渡せる。
———こんなに綺麗だったんだ。
飽きる程見てきたこの景色は、俺の心を魅了する程、透き通っていたんだと、今更教えられた。もっと落ち着いた場面でこの感情を味わいたかった。と微かな後悔が頭をよぎるが、そんなことはどうでもいい、と振り払う。
ビルのガラスは雲一つない青空を反射して、絶体絶命の俺らに、今、こんな空だぞ、と見せつけている様だった。
完璧に魅了されちゃったかもしんない。この空に。
そんな時、感じたんだ。
青空達が、こんなクソッタレな世界の救いだと。
「お兄ちゃん!いい感じの所悪いけどもうちょっとで地面だよ!どうする?」
、、、え?
なんも考えないまま飛び降りたの?
足先からビリッとした痛さが、波紋の如く広がる。
どうしよう。俺は下へとんでもない速さでスクロールしていく視界に危機感を抱く。気づけば、地上の店の看板の文字が分かるぐらいには落ちてきてる。簡単にいうと絶体絶命だ。
「えっあっどうしよう!?えっちぬの俺」
「大丈夫だよー!知らんけど」
我が妹!知らんけどじゃない!責任とれ!!
あ、地上の人達にはなんと思われているのだろう。撮影とかされてんのかな。だめだ。変なことしか考えれない。青空に魅了されていた俺の心は何処かへ飛んで行った。
そう頭ん中がぐちゃぐちゃの時。
『ロリコン指揮官!!!』
安心感のある声が、重なってそう呼ばれた。俺をこんな名前で呼ぶ奴らは、あいつらしかいない。
二度目の救世主が、来た。
最後まで読んだくれて本当に有難うございます!
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