最悪の兆し
2話 最悪の兆し
「 ———よし!nay、さんは、あえと、あそこのマネキン、を!」
俺は屋上の銀色に輝くタンクに謎にしがみついているマネキン二名を指差した。
くそ、もうちょいカッコよく言いたかった。それと、nayって呼び捨てで呼んでも良いのか?
「おっけー指揮官!nayって呼んでねぇー!」
そう声がした途端、nayは疾風の如く屋上を蹴りタンク近くのマネキンに近づく。まるで心を読まれた様に呼び捨てを許可された。
「おい指揮官!俺の指示は?」
俺の横に一人の男の存在を感じた。
横を向くと、メガネをつけた香和がそこに居る。メガネをつけていても違和感がない。逆に元々こうだったんじゃないかと思うほどに似合っていた。
「え、ええとー、じゃあ、あそこで将棋してる自販機を、」
俺が指差す先には、屋上に一般的な大きさの将棋を広げ、
普通に将棋してる自販機がいた。
図体(自販機)の中心部の横から腕が出ており、思ったよりミニサイズな手と指でちょこちょこと駒を動かしていたのが、少し可愛らしいと思ってしまった。
笑えてしまう状況かもしれないが、もう慣れたし、これからどんどん増えていくのだろう。
「ラジャー」
それだけ言って香和は俺の横から姿を隠す。流れる様な速さで自販機へと辿り着くところだけは見えた。
二人が戦闘しているのを見ていたいが、もう一人重要人物がいたので、其方へ気を向ける。
「それで、私への指揮はどうなんだい?ロ リ コ ン指揮官」
ぶん殴りたくなる。このお姉さん。
「ロリコン、じゃなくてロボコン、です!じゃああの、あそこで相撲してるナン達を、」
俺が指差す先には、相撲らしく取っ組み合いしているナン達だった。ナンなので人間とは異なり、生地は曲がってたり押し潰されたりしている様子が確認できる。
「はぁーい」
バレッツは気だるそうに歩き出す。スピード感がない出撃だが、実力には俺のなりに期待している。
―――で、俺は何をすれば良いんだろう。
一応ハイテク銃は手元にある。それに、このハイテク銃は研究者に俺専用に作られた者だ。
戦いだってやろうと思えば出来るし、指揮官の俺だって戦っても、、、、。
「どうも、戻ってきた」
「早くない!?ですか!?」
予想外の速さで帰ってきたのは香和。平然な顔で帰ってきて、少しばかりの安心感が生まれる。
遠くに目を向けて見ると、綺麗にへこたれた自販機がそこに居る。鎖の形が凸凹になって残されている。
俺は、俺の指揮は間違ってなかった。と自分に言い聞かせた。
「タメでいいぞ。あと、バレッツさんの事、見ておいた方がいいんじゃないか?」
見ておいた方が、?
感情混じりにnayが居る方向を向く。
「おーいロリコン指揮官!私の美麗な戦闘を見届けて欲しいな!」
、、、うん、もう諦めようか。
バレッツはタンクに自販機を右足で押さえつけて、左手にはへこたれた自販機の二の腕が握られていた。
もう決着がついている様に思えるが。
そうふと思った瞬間。
火山灰の様なものが、さらに胡麻の様な小ささに割れ始め、バレッツの周りを浮遊している。
違和感を持つ頃には、バレッツの体は動いていた。
バレッツは俺の方向に歩き出し、自販機から5メートル程離れた所で歩みを止めて、
バレッツを追いかける事もなく自販機のそばで浮遊していたそれが、沸々と煙を出し始め、奮い出す。それは何かの予兆に見えた。
ボボボン!
広がっていく爆発音が、俺の無いはずの鼓膜を最大限に震わせる。
炎色で染まる視界の中、必死にバレッツのいる方向に視界を向け、集中した。
———俺って、こういうのが好きなんだ。
ある戦士は戦場に背を向けるが、バックでは爆破やら斬撃やらが飛び交い爆破し、かっこいいシーンになる。
よくアニメやゲームにある、超絶ロマン感じるあのシーンが、俺の目の中に存在していた。
「ほら、カッコイイでしょ?」
自信満々で天真爛漫な笑みが、バレッツの顔に描かれていた。
♢
ブチッ
「あああー!!!今良いところだったのにー!何で消したの!?」
「VRゴーグルで観察するぐらいなら、モニターでリアルタイム視聴&制裁準備で良いかと。」
「はあ、いつも制裁の事しか考えてない、」
「当たり前です。我々の本分はそれですから。」
ベータ国際+ビルから1区離れた、
天枢学系超学園、と言うかなり大規模な学園でその会話は繰り広げられていた。
見た目はざっくりいうと西洋風。周りの都市さと相対しているが、領地が広すぎて案外違和感はない。
白と黒を基調にしたシンプルで心地よい内装をしていて、童話をイメージしたであろう洒落たデザインの黒色カーペットと壁際に吊るされたランタンが、白一色の孤独的な雰囲気を救っていた。
「じゃあ何?今すぐ出撃しろっていうの?私まだ朝ごはん食べてから少ししか経ってないよ?」
「姫様の仰る通りです。今すぐに出撃しましょう。”ゲートの平和を守る為”です、一瞬でも見捨てる事等許されません。」
「、まだパジャマ何だけど。服が汚れても良いの?」
「いえ、それはいけません。お着替えしてから行きましょう。姫様の可愛らしい柚色のボブ髪が燃えてしまったら、執事には切腹の道しか残されて———」
はいはい、と一人の女性に姫様と呼ばれた柚子色髪の少女は言い、茶色の木製クローゼットから灰色の戦闘用アーマースーツを取り出した。それを執事が過保護に手伝う。
革製の灰色と白のチェックがついた可愛らしい制服が、真っ黒としか言えないローファーと共に大理石の床にずり落ちる。
執事の助けがあった為か、お着換えタイムは一分もしないで終了した。
「、、、はい、お着替え完了。今日は早めに着替えられたわ!アンタに勝つ日が来るかも。」
「それは無理です。」
と執事の一人の女性が即答する。
臀部まで続く長い黒髪に、いい加減に星やハートのピンセットが添えられている。
服装は白いシャツに黒色のブレザー、肌色が見当たらない黒色ズボン。身に纏っているものはどれもシワも見当たらない。執事としては胸が張れる外観をしていた。
執事はごちゃごちゃの制服を優雅に畳みながら、
「姫様のお着替えは毎回執事が手伝ってますから。一人でできる様に頑張りましょうね。」
「むきー!"アイツ"に制裁したら喧嘩よ!」
「やる気で出てきた様で。それでは行きましょう。」
♢
「すっげぇ、」
俺は思わず感嘆を漏らす。
「バレッツ君凄ーぃ!」
「ハッハッハ!この技は自信作だからね!」
バレッツは自慢げに両手を腰に添え、絵に描いたような笑みを浮かばせていた。
灰が舞う中、何故か雰囲気だけは温まりきっている。
「、、、あいつら気楽だな。」
だが香和だけは、明後日の方向を見つめていた。
「―――何か、嫌な予感が、、、」
どうも、赤松です。
一番最初のあとがきですね。よろしくお願いします。
今回は、早々謝罪になります。この作品のキーワードに、VRゲーム、と記されていますが、この作品にVRゲームの要素は関わっていません。初投稿早々、読者の方々を騙す形になってしまって、申し訳ありませんでした。
このあとがきを書き終わったら、自分はキーワード設定変更に移ります。
楽しい話をします。
そろそろ、夏休みに入りますね!夏ですよ皆さん!青空も超元気です。夏も、この作品を心楽しみにしてくれる方がいたら、私は喜ばしく感じます。
これで終わりますが、最後に。
とても楽しい夏を!! さようなら!