自作自演ノーベル医学生理学賞
私は今、大学の研究室にいる。
今まで研究の功績を残してきたため、個室を与えられている。
私は机に肘をつき、両手を組み合わせて顎をのせている。
背後の窓の外では、黒雲が雷鳴を轟かせている。
部屋の中には、ノーベル医学生理学賞を授与されることを祝いに来た後輩たち。
「先輩! いよいよ今日はノーベル医学生理学賞授与式ですね!」
「リスペクトしてます!」
色々な言葉が飛び交う中、私は目を見開き、言葉を紡ぐ。
「ああ! いよいよこの日がやってきた!」
その瞬間、落雷がぴしゃりと落ちた。
「俺の研究成果の、『TS細胞』の論文が認められた! まさに医学会。いや世界の常識を揺るがすことだろう……」
そして、教授や後輩たちに授与式を見守られつつ、俺は一躍有名となった。
テレビ記者に取材をされる。
「どのようにTS細胞を発見したんですか?」
「いや、発見というか、この身をもって証明した感じですね」
「なるほど、聖さんは、元々男性でしたよね。今は女性の身体になっていると。生活に困ったりしませんか?」
「生活に困りですか……まあありますが、お恥ずかしい話なので、秘密ということでお願いします」
取材も終えて、疲労でぐったりとした。だが、目的は果たした。
私は家に帰り、兄の部屋のドアを勢いよく開けて、突撃した。
お恥ずかしい話の秘密とは、引き籠りを続けている兄である。
「お兄ちゃん! これでお兄ちゃんの約束通り、社会復帰せざる負えない状況にしたからね。俺……じゃなくて、あたしが今度は引き籠りになるから。お兄ちゃんは、TS細胞のせいで、男に戻ったってことで。あたしが今までお兄ちゃんの代わりに大学言ってたんだから、今度はお兄ちゃんが行ってよね。論文のネタができたでしょうが!」
兄妹による、『ノーベル医学生理学賞の研究成果の自作自演』。全ては引き籠りの兄を引き摺りだすための計画。
「い、いや、それは言葉の綾であってな。まさか本当にやるとは思ってなかったんだが……」
「グダグダ言っていないで、準備をしなさい!」
私は兄が包まっていた布団を剥ぎ取る。そして、一言。
「明日からはお兄ちゃんが大学に言って、TS細胞で、女性の身体になってしまった身体から、また男性の身体に戻たっていう、次の論文を書くんだからね!」
渋々と動き出す兄。そんな兄の成長に、目が少しウルッとしてきた。雛がやっと巣から飛び立とうとしている瞬間を見ているようだ。
そして、今後の私はというと、兄が引き籠り生活をしていたことをうらやましく思っていた私は、引き籠り生活を満喫した。
読んで頂きありがとうございます。
日課(週課?)の練習作品です。
引き籠りの兄を社会復帰させるために、かなり大胆なことをした妹。
行動力が恐ろしい……。