双剣! モルディス
今回も戦いばっかり。
「まぁ、気を取り直していくか。んじゃ次は…」
龍夜が引いた二枚の紙。“青龍翔太”と“中里類”だった。呼ばれた二人は前に出る。龍夜の掛け声で二人は召喚呪文を詠唱した。
【【エクスジェンシア!】】
お互い黒の魔石が発光し、黒い魔方陣を展開する。そこから召喚される翔太の蝙蝠に、類の鮫。
「へぇ、氷属性ですか?」
「いぃや、お前と同じ風属性ぢゃ。」
「奇妙な組み合わせですね。」
「よく言われるぢゃき。」
鮫型の魔獣で風属性。翔太の言う通り、奇妙な組み合わせである。しかし、魔獣と属性は生まれつき決まっており、生きている間に変更する事ができない。その為、時たま類の様な征儀伝が現れるのだ。だが、その様な征儀伝は基本的に魔力で劣ることが多い。類もその範囲なのだが、Sクラスにいると言う事は…
【主の命令ぢゃ、対象を吹き飛ばす竜巻を成せ、トルナ・デ・トルメンタ!】
鮫型魔獣がその場で急速回転し、竜巻を作り上げる。
「先輩がその技なら、俺も!」
【主の命令だ。対象を吹っ飛ばす竜巻を作れ、トルナ・デ・トルメンタ!】
蝙蝠の羽から竜巻を生成する。類の魔獣と違い、翔太の魔獣は両方の羽から作れる為、竜巻は二つとなった。合計三つの竜巻がフィールドの中心でぶつかり合い、互いの力を負かそうとする。
「慶斗。青龍には悪いが、この模擬戦は青龍が負ける。」
龍夜が己の推測を慶斗に告げた。確かに同じ属性を使うにあたって、類の方が長く征儀を扱っている。だが、先程も述べたように、類の魔力は弱い。今この時も、類側の魔獣の放った竜巻が力負けしている。
【主の命令ぢゃ、風の弾で相手を穿て。バレ・デ・トルメンタ!】
【主の命令だ、風を纏いて己を守れ、エスクード・デ・トルメンタ!】
風の弾丸と風の盾がぶつかる。しかし、クラス決定試験でも防御の甘さが表に出ていた翔太だ。いくら弱い類の攻撃でも、数発に一発の割合で攻撃を受けてしまう。苦手な防御に徹しながらも、必死にこの状況を覆す策を考えていた。
「椎名みたいに魔獣に乗るか?それともあの先輩みたいに装甲正義を使うか?」
どちらにしろ、不利なこの状態を脱出したとしても、次の攻撃で更に厳しい状況になる事は必須だ。だからと言って、この状態を続けたとしてもいずれは負ける。
「どちらにしてもやられるなら、足掻くか。それが俺らしいしな。」
絶え間なく打ち込まれる弾丸、それのタイムラグを狙って飛び出した。自分の後方で風の弾丸が炸裂する。脚をとられて転びそうになったが、それでも走る。呪文を詠唱した。
【主の命令だ、突風を巻き起こせ、トルメンタ・デ・トルメンタ!】
呪文の第三文、それの第一音節と第三音節が同じ。これが意味するのは、“最弱”。征儀伝がまず手始めに覚えるのが、属性名をそのまま呪文にしたものだ。魔力消費が小さいが、攻撃威力は皆無。しかし翔太はそれを逆に利用した。呪文詠唱と同時にジャンプする。魔獣の作り出した突風に乗って、翔太は一直線に類の方へ突っ込む。その速さに風の弾は追いつく事ができない。
【アルマライズ!】
続いて装甲征儀を発動する。今だ突風に乗る翔太の手に、十文字槍が握られた。
【主の命令ぢゃ、敵に喰らい付け、モルディス!】
「何!?」
今までに無い呪文詠唱の仕方。通常なら、呪文の第三文には自分の属性を表す単語が付くはずなのだ。風属性の征儀伝なら“トルメンタ”という様に。
「なるほど。類のやつアレを使ったな…。」
「うん。アレですね、兄ぃ。」
「アレって何?」
頷き合う朱雀兄弟に、問いかける凪沙。
「“無属性呪文”です。」
慶斗が質問に答えた。無属性呪文、慶斗もこの呪文の開発には関わっていたので、よく知っていた。いや、類の為に開発したと言っても過言じゃないだろう。これは文字通り、属性に関する攻撃ではない。この呪文発動時は、魔獣その物の力が決め手となる。魔獣の大きさは一概に5m程度。しかし、魔獣自体の攻撃力は違う。類の魔獣は属性との組み合わせが、そこまでいい物ではない。その為、魔獣自体の攻撃力を上げたのだ。よって、他の征儀伝の魔獣より素早い動きが可能となっている。
「でも、しょうたんのバリアに勝ってたよね?あの先輩。」
「あいつはヘラヘラしてる様に見えるが、影で相当な鍛錬を積んでるんだ。」
人は見かけに寄らずというが、彼によく合う言葉だ。
一直線に突っ込む翔太。それに喰らい付こうとする鮫。中国征儀伝の様な肉体的チートスキルは使えない為、槍をつっかえ棒に危機を逃れる翔太。地面に降りた。
【アルマライズ】
類も翔太のように装甲征儀を発動する。類の武器は、鮫の歯を模した双剣だった。翔太も落ちてきた槍を拾い、構えた。
リーチの長さで類を追い詰めようとする翔太。それを双剣で器用にはじく類。確かにリーチの長さでは翔太が有利だ。しかし、振り回しに難があるのは事実。攻撃も何時の間にかパターン化されてしまう。
「せいやっ!」
上から槍を振り下ろす翔太。重さも含めた攻撃だ。だが、それを類は双剣をクロスさせて受け止めた。
「甘い、攻撃のパターンも魔力の練り加減もぢゃ!」
双剣で槍を軽くはじき、槍を蹴り上げた。バランスを崩してよろける翔太。その隙を見て、類が双剣を構えて突っ込んできた。慌てて槍の持ち手でガードし、バックステップで逃れる。
「喧嘩では負けないつもりだったんだけどな…」
弱気になる翔太だが、類は攻撃の手を緩めようとはしない。両手の双剣で変則的な攻撃を出してくる類。防戦一方の翔太。両腕を横に開くように双剣で切り裂く。先程のように持ち手でガードするが…
「嘘ッ、やばいっ!」
双剣によって槍が三つに切られてしまった。驚きのあまり動けなくなってしまう翔太。類が首筋に双剣を当てられ、勝負は付いたのだった。
・呪文の第三文の、第一・第三音節が同じ場合、最弱の呪文となる。しかし、人間相手には効果大。例:トルメンタ・デ・トルメンタ(風属性)
・無属性呪文は、属性の魔力攻撃ではなく、魔獣自体が攻撃をする。可憐の魔獣(狼型)などが行う突進攻撃があるが、あれは属性の魔力を纏っている攻撃なので違う。




