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装甲! アルマライズ

「とうとう4人目の被害者だな。」

「うん。巷ではクラッシャーなんて呼ばれてるみたいですね。」

 クラス決定試験から1ヶ月と少しが経とうとしていた。龍夜の言う通り、生徒手帳に内蔵された3Dマップの需要が少なくなって来た頃の話である。あの試験の当日の夜から、一定の間隔で殺人事件が起きているのだ。一週間に一度、征儀伝が殺されている。死因は魔石を壊されると言う最悪の手段。同じような死因が続いた為、警察も連続殺人事件として捜査に乗り出したのだ。特例として、護身用に男でも魔獣召還認められたほどである。しかし、犯人の手がかりが掴めず、捜査は難航していると言う状況。

「スペイン系が3人、ギリシア系が1人。何か意味があるのでしょうか?」

「無い。これは中国系征儀伝の仕業。近い将来の活動を暗示している。」

「だからさ、中国系ってどう言う意味なんだよ?」

「言ったら信じる?」

 慶斗の疑問に、無表情なメイド服の少女、可憐は真っ直ぐ黒板を見つめながら答えを返す。入学当初より幾分かは口数が多くなった彼女だが、あの日から謎の存在、中国系征儀伝の事ばかり話そうとするのだった。

「もう、可憐ッたら不思議ちゃんだね!」

「中国系なんて、見た事も聞いた事もないからなぁ…。」

 凪沙と翔太は、特に聞く耳を持っていなかった。具体性が無さ過ぎるのだ。誰もその様な存在を見聞きした事も無く、教師は真正面から否定する。唯一慶斗は、考え込む表情をしているのだが…。

「ただ言える事は一つです。ここは征儀伝が集う学園。クラッシャーなどと呼ばれている殺人犯が狙うなら、ここの学生は格好の獲物です。気を付けなくてはなりませんね。」

 征儀伝のみが狙われる事件の最中、確かに慶斗の言う事は正しかった。これまでに南陽学園の生徒が狙われていないのは偶然なのだろうか?

「よーし、今日も授業するぞ。」

 担任教師の入室によって、一時的にお喋りは中断された。

「中国系征儀伝は必ずいる。だって…」

 可憐の呟きに、隣に座る慶斗でさえも気付くことは無かった。


 それから一週間が経った。放課後となり、慶斗も帰り支度を始める。龍夜との取り決めで夕食は交代制で作る事になっているので、慶斗は今日早めに帰らなくては行けなかったのだ。

「慶斗っち~。一緒に帰らない?」

 声を掛けて来たのは凪沙だった。自己紹介において、可憐のメイド服は自分が着せたと言った女子である。面白い事好きな彼女は、勝手なニックネームを入学の翌日につけていた。慶斗は“慶斗っち”、翔太は“しょうたん”である。

「ごめんなさい。今日は僕が夕食当番なので、早めに帰らないと兄ぃに怒られるので。」

「え~。折角面白い事考えたのに~。そうだ、私のお姉ちゃんに頼んで、夕食は作ってもらうからさ、買い物付き合ってよ。」

「お姉さんが、いるんですか?」

「うん。詳しく言えば従姉妹なんだけどね♪二学年だよ。」

 最終的には了承してしまった慶斗。翔太が少しニヤニヤ顔で見送っていたのが気になる。相変わらず可憐は無表情だったのだが…。

 さて、街へ繰り出した二人。凪沙に引き摺られるように連れて行かれる慶斗。慶斗がいくら行き先を尋ねても、“いいからいいから”で返されてしまう。

「着いたよ~。さぁ入ろう!」

「ちょっと待ってください。ここって何のお店ですか!?」

「ん?コスプレ衣装のお店だよ?今日は、慶斗っちが明日から着る服を買いに来たんだ。う~ん、執事服よりは可憐とお揃いでメイド服が似合うかもね~。」

「凪沙さん、止めておきましょうよ。僕は男ですし、メイド服なんて似合いませんから…。」

「レッツ、トライ!」

「嫌です~!」

 ジタバタする慶斗を押さえ込んで、凪沙は無理矢理彼を店の中へと連れ込む。10分後、南陽学園の制服をはだけさせて、慶斗が店を飛び出してきた。その後を凪沙が追いかける。

「待ってよ慶斗っち~!」

「嫌です!そんな服は着たくありません!」

「絶対似合うはずだから~!!」

 辺りもすっかり暗くなり、いつの間にか人通りも少なくない道に入り込んでしまった二人。先を走る慶斗がふと足を止めた。それに追いつく凪沙、ガッチリと慶斗をホールドする。

「凪沙さん、気を付けて下さい。嫌な感じがします。…伏せてください!」

 二人が地面に伏せた瞬間だった。頭上を何かが横切った。ヒュンヒュンと言う音を奏でて、それは弧を描いて闇に吸い込まれていく。

「…外したか。」

 闇から現れたのは、黒マントをすっぽりと被った人型だった。以前女性を襲った影の片割れであるが、慶斗達は知る良しも無い。影は戻ってきたブーメラン型の暗器を袖にしまう。

「誰ですか?」

「クラッシャー、と言えば分かるかな?」

 その言葉にハッとする慶斗。凪沙でも笑顔を消し、真面目な顔になる。

「お前らは南陽学園の生徒か。ならば征儀伝。征儀伝は死、在るのみ。」

 その言葉と共に、男の右腕から淡く緑色の光が灯った。次の瞬間、影がすごいスピードで迫ってくる。一直線に慶斗達を狙うつもりなのだ。しかし、凪沙が慶斗を弾き飛ばし、彼女自身も反動を利用して避けた為、怪我を負う事は無かった。

「凪沙さん。行きますよ。」

「うん。」

【【エクスジェンシア!】】

 魔方陣が展開され、その中からエンジェルと鹿が現れる。しかし、二体の魔獣を前にしても、影は薄気味悪く笑うのだった。

「無駄だ。そんな巨体で俺を追えると思うのか?」

 次の瞬間、再び高速で突進を仕掛ける影。慶斗が光の壁でバリアを張って応戦するが、横に回られてしまう。そこを凪沙が自身の魔獣で攻撃しようと試みるのだが、影は降り注ぐ氷の弾を時には避け、時には素手で砕いて身を守ってしまう。

「素手で魔獣に太刀打ちできるなんて、信じられないです!」

「喋ってる暇は在るのかな?」

 いつの間にか、影は二人の背後に回りこんでいた。手には先程の暗器が握られており、完全に息の根を止める事が伺える。影は遊んでいたのだ。わざと魔獣と戦い、そしてそれに飽きたのか、契約者の方を狙うようにしたのだ。

「魔石を渡してもらおう!」

 その言葉と共に突っ込んでくる影。銀色の刃がキラリと鈍く光った。魔獣で太刀打ちする時間は無い。慶斗と凪沙が諦めかけたその時だった…。

【アジェット・デ・ルエーノ】

「何っ!?グオァ…」

 横から影に突進した巨体。雷を纏う狼だった。

「あれって!」

「凪沙、朱雀慶斗。怪我は無い?」

 現れたのは可憐だった。偶然にも通りかかったらしい彼女は、魔獣でクラッシャーからの攻撃に横槍を刺したのだ。

「くそっ、舐めやがって…。【召還!】」

 さっきより右腕からの発光が強くなった。影がマントの袖を捲くると、そこには腕輪とそれに嵌る緑色の宝石が見えた。次の瞬間、魔方陣が展開され、その中から魔獣が姿を現す。蛇の首を持った亀だった。幻獣の“玄武”にそっくりである。

「あれって、魔獣じゃないですか!?でも、呪文が僕達と違ってます…」

「アレが中国系征儀伝。その内の一人。油断しないで。」

 可憐の言葉に身を引き締める慶斗と凪沙。中国系征儀伝の魔獣、いや、幻獣と言った方がいいだろうそれは、異様な雰囲気を湛えていた。

【我主幻獣命、滅対象内以風牙!】

 スペイン系、ギリシア系とは程遠い呪文を唱える影。幻獣が口から風の刃を飛ばしてくる。さながら、“風の牙”だ。

【エスクード・デ・ブライヤー!】

 すかさず慶斗がバリアを張るが、第三文だけの呪文詠唱のせいか、簡単に破られてしまう。相殺されたのが不幸中の幸いだろうか?

【ボーラ・デ・イーロ!】

【アジェット・デ・ルエーノ】

 凪沙と可憐の攻撃が幻獣に迫るが、氷の弾は首で、狼の突進は硬い甲羅で受け止めてしまった。

「弱い。まだまだ弱いな。いくら征儀を学んでいるからとは言え、相手にもならん。それに、戦い方も綺麗ごとを並べただけだ。本当の戦い方を教えてやる。」

【我主幻獣命、滅対象内以豪風!】

 幻獣が勢いよく回転し、巨大な竜巻を発生させた。それは魔獣ごと慶斗達を吸い込んでしまう。竜巻から吐き出され、三人が壁や電柱に激突してしまった。凪沙にいたっては気絶してしまう始末である。影の言った、“本当の戦い”の意味。それは、魔獣だけでなく、契約者さえもまとめて葬り去る事だった。基本、南陽学園の生徒同士の模擬戦においては、魔獣と魔獣を戦わせる。つまり契約者を狙う事は無いのだ。

「他愛も無い。今夜は三つの魔石を壊すことになる。明日は世間が騒ぐはずだ。殺しの規則性が変わるんだからな…。」

 既に三人の魔獣は消えてしまっている。慶斗と可憐は必死になって再び召還しようとするが、うまく魔力を練る事ができない。

「まずはこの女からだ。寝てる間に死んでもらおう。魔石ではなく、首を切られてな…」

 影が狙ったのは凪沙だった。しかも魔石を破壊するのではなく、首を切ると言っている。殺し方さえ変わったのだ。影がすっとあの暗器を取り出す。銀色に光る三日月形の刃物を。

「止めてください!彼女を殺さないで!」

 慶斗の必死の叫びも虚しく、影は一歩、また一歩と凪沙との距離を縮めていく。

「死ね、征儀伝!」

【主が命令する。】

「ん?」

 影が刃物を振り上げた時だった。誰かの声が聞こえた。そして、暗闇の中から誰かが走ってくる。

【力の一部を契約者に譲渡しろ。アルマライズ!】

「兄ぃ!」

 現れたのは、龍夜だった。手には闇色の刀を握っている。それを振りかぶって影に斬りかかった。影は自分の刃物でそれを弾き返し、バックステップで後退する。

「大丈夫か?俺がコイツの相手をするから、お前らはこの女子連れて逃げろ。」

「はい!」

 凪沙を慶斗と可憐が担ぎ、安全な場所へと運んでいく。影はそれを特に追う事は無かった。

「なかなかジェントルマンじゃないか。手負いを追わないなんて。」

「お前と遊んだ方が、楽しいと思っただけだ。」

 次の瞬間、銀色の刃と漆黒の刀が火花を散らした。リーチの差では龍夜が勝っているが、振り回すスピードに置いては影が勝っている。それでも龍夜は攻撃を受け止め、反撃を返すのだった。

「なかなかやるじゃないか。名前を聞いておこう。」

「朱雀龍夜。」

「あぁ。呪文を開発する天才学生か。こんな所でお会いできるとは、身に余る光栄。こちらも名乗るのが礼儀だが、生憎名乗る名前は持ってないのでね。まぁ、強いて言えば中国系征儀伝と言った所か。」

「やはり学園長の言う通り…」

「首領の最も恐れる人物の事か。まぁいい。今日は引く事にしよう。」

「おっと。そういう訳には行かないから!」

 今度は龍夜が刀を振るう。影も負けずに攻撃を受け流す。一旦距離をとった二人。再び接近し合い、互いの武器をぶつけ合う。影の武器が吹き飛ばされた。続いて影のわき腹に峰打ちがヒットする。体勢を崩し、地面に倒れこむ影。そこに光が差した。

「そこの二人!動かずに大人しくしなさい!」

 どうやら警察の人間のようだ。それを見て龍夜は刀を杖に膝をついてしまった。影の絶好のチャンスに見えたが、警察の応援が来ては不利な状況。魔石を淡く発光させ、夜空に飛び上がって逃げてしまった。

「っ…。意外に魔力食うな、この技…。」

アルマライズ→数話後に解説予定。征儀を具現化して武装する、征儀伝の物理的手段。


中国系征儀伝→いまだ謎が多い存在。魔石の色は緑。魔獣を召還できる上、人間離れした運動能力を持つ。(魔獣を素手で相手にできるほど。)

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