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着せ替え人形

「なんだか、こんな風に暖かい気持ちで寝れるの、久しぶりな気がするなぁ。」

 甘い匂いが慶斗の鼻をくすぐる。腕が柔らかく彼の胸の辺りに回された。

「夢…?これはいくらなんでもダメな気がするのですが…。」

「私、怖いの。」

 ギュッと回される腕の力が強まる。慶斗も観念したのか、言葉で抵抗するのを止めて、寝る事を意識するのだった…。



『も、もし皆さんが良ければ、私、慶斗さんと一緒の部屋がいいです。』

 突然の同棲宣言に、全員が一瞬硬直するが、すぐに冷静さを取り繕うのだった。

『まぁ、慶斗なら大丈夫だろ。』

『そ、そうよね。前例もある訳だし。』

『私は書類の準備を…』

 だれも慶斗の話を聴こうとする者はいなかった。

『僕は、また兄ぃの所から離れなくてはいけないのですか?こんな現実、酷すぎます。生き地獄です!』

 心からの嘆きを訴えるが、時既に遅し。学園長は書類を書き始めていたし、玲奈に至っては、“お爺ちゃん、私は龍夜の部屋に住んでいい?”などと聞き始める始末である。

『僕に味方はいないのですか…?』

 悲しみに暮れる慶斗。

『よし。これで書類の準備は出来た。あぁ、慶斗君。泉君が使っていた生徒手帳は持っているかい?できれば、それをその子に譲って欲しい。』

 渋々ながらも、制服の内ポケットから生徒手帳を取り出す。かつて、可憐が使っていた物、本当ならば、慶斗は誰にも渡したくはないのだ。だが、夢が喜びながら手を差し出しているのを見て、何となく幼少期の留美を思い出してしまった。それゆえ、生徒手帳を差し出してしまう。

『ありがとう、慶斗さん。』

 早速魔石を取り出す夢。だが、慶斗は見てしまった。夢の魔石を斜めに切る様に、雷の様なヒビが入っていたのだ。

『夢さん。それって…』

『これ?私全然記憶がないから覚えてないんだ。気が付いたら、もうこんな風になってたの。』

 中国系征儀伝の仕業にほぼ間違いない。学園長室にいる全員がそう思った。命と同じ位大切な魔石、それにヒビが入っているのは、命の危険と隣り合わせと言う事。それなのに屈託ない笑みを浮かべている夢。

『夢さん…。』

 魔石の重要さを覚えているのかは分からないが、夢は心から笑っているように見えた。それが慶斗にはとても辛く思えてしまう。心の中で、絶対に守ってみせると固く誓うのだった。




「けー君、おはよう!」

 いつの間にか寝ていたらしい。慶斗は夢の声で起こされた。元々は可憐が使っていたこの部屋。今は慶斗と夢が使っている。どうやら夢は基本的に明るい性格のようで、自分の事を呼び捨てで呼ぶ様に言い、自らも慶斗の事を“けー君”と呼ぶことにした。

「おはようございます。夢。」

「朝ごはん作るから、少しゆっくりしてて良いよ!」

 リビングへ向うと、いそいそと料理を作る夢が。先程は寝ぼけていて気付かなかったのだが、ヘアゴムでツインテを作っている。

「聞いたんだ。幼馴染の子と似てるんでしょ?それなら、私はツインテールかなぁって思って。はい、冷めない内に召し上がれ!」

 運ばれてくる朝食を食べる。自分から率先して作ろうとする事から予測はされていたが、かなり腕はいいようだ。慶斗も絶賛していたし、夢も素直に喜んでいる。


 学園に着き、今日予定されているクラスアップ試験の為に、夢を学園長室まで送って行く慶斗。

「後はよろしくお願いします。夢、頑張ってください。」

 だが、学園長に呼び止められ、学園の案内をして欲しいと頼まれるのだった。その代わりに、Sランクに無条件で存続する事を許された。元々、慶斗の実力なら試験の結果はほとんど知れたものなのだが…。

「一旦Sクラスに居てくれ。スケジュールは予め君の担任に伝えてある。」

「はい。分かりました。」

 教室には他の二人が揃っており、二人の到着を待っていた。

「あ、来た来た~。」

「おはようございます。」

 挨拶をして入室する慶斗に、その後ろから慶斗の制服をチョコンと摘みながら着いて来る夢。どうやら二人は夢の存在を聞いているらしく、別に驚いた素振りも見せなかった。

「おっす、慶斗。あ、俺の事覚えてる?」

「え、あ…。はい。あの時はありがとうございました。」

 ペコッとお辞儀をする夢。

「可愛いなぁ、慶斗っち、この頂戴!」

 どうやら、凪沙は凪沙で夢を新たなコスプレの人形に認定したらしい。“駄目です!”と慌てて止める慶斗に、頭にはてなマークを出している夢。

「えぇ~。なんで~?この子なら、チャイナ服でも婦人警官でも何でも着こなせるんだから!それに、二代目メイド服の称号だって獲得できる領域だよ!?」

 騒ぎ立てる凪沙。どうしても彼女を着せ替え人形にしないと気が済まないらしい。

「あ、あの~。それをしたらけー君は喜ぶの…?」

「勿論だよ!慶斗っちなんか、メイド萌えなんだから。可憐にベタ惚れなんだよ!」

 “あぅ、そんな事は絶対ありません!”と顔を真っ赤にして叫ぶ慶斗だが、凪沙も夢も聞く耳を持っていなかった。

「わ、私やってみたい。けー君が喜ぶなら、やってみる!」

「決まりね!こっちこっち~。」

 慶斗の制止も利かず、早々と教室を後にした二人。ペタリと座り込んでしまった慶斗。因みに夏休み明けから普通に男子用の制服を着ている。どうやら何とか取り返したらしい。

「慶斗、この場合は俺はどんな言葉をかければいい?」

「ほっておいてください…」


「お待たせ~!」

 意気揚々と入ってきた凪沙。それに連れられて夢も入ってくる。

「可憐用のメイド服が少し大きくてね。代わりにこっちを着てもらったんだ!」

 少し恥ずかしげに入ってくる夢。彼女は赤い袴に白い着物、所謂巫女さんのスタイルだった。

「直ぐに夢ちゃん用のメイド服も仕立てるからね。慶斗っち、今はこれで我慢してね。でも、ツインテと巫女服の併せ技!これは今世紀最大の話題になる事間違いなし!ほらほら、夢たん。教えた言葉、慶斗っちに言ったら?」

 もじもじしている夢だが、なにやら凪沙に耳元で吹き込まれる。すると、下駄をカツカツと鳴らしながらやって来た。

「い、いい子にしないと、呪っちゃうよ!けー君…」

 慶斗の隣で翔太が撃沈した。

「けー君、似合ってる…?」

 “は、はい!よく似合ってると思いますです。”と、少々おかしな文法を使う慶斗。夢も“よかった~”と言ってピョコピョコ嬉しそうにしていた。

「これからも、けー君が喜んでくれる様に頑張るね!」

「ぼ、僕は特に喜んでは…」

「えっ!?喜んでくれないの…?」

 喜んでます。と言うしかない慶斗だった。


「よ~し、これからアップ試験に行くぞ?…椎名、またお前か…」

「慶斗っちの為ですよ。」

 泣きたいと思った慶斗だった…。

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