征儀? フェーゴ
今回、伏線を一つ回収します。第一話で、ビルの屋上にいた謎の影です。
生徒手帳に搭載された3Dマップを見ながら、ランク教室を目指す慶斗たち。学園の二年生である龍夜曰く、“学園で3ヶ月も過ごしてれば、生徒手帳は魔石を嵌める以外用途が無い”そうだ。それでも新入生である慶斗は、近未来的科学を使ったこのカード型の生徒手帳が気に入っているようである。やがてSランク教室へと辿り着き、ドアを開いた。
「すいません。遅れました。」
「遅れました。」
「お、来たな二人とも。席に着け、色々やる事もあるしな。」
指定された席に座る二人。慶斗の隣は、あの狼型魔獣を使役する無表情な女子だった。
「それじゃ、自己紹介からするか。俺がこのクラスの担任だ。これからよろしくな。さて、4人しかいないが出席番号順に行こう。まずは泉可憐。」
立ち上がったのは慶斗の隣の女子だった。すっと立ち上がり、誰の顔を見るでもなく、黒板を見つめて喋りだす。…何故かメイド服を着ているのが気になる慶斗と翔太であった。
「泉可憐。服装に関しては気にしないで。」
そして着席。しばらく沈黙が続いたが、それを破る者がいた。可憐とチームを組んでいた女子である。
「はいは~い!私は椎名凪沙だよ~。征儀のタイプはギリシア系で、属性は氷。可愛い物と面白いことが大好きです!因みに可憐のメイド服は、私が着せました~!だって無口メイドって萌えない?以上です、ありがとうございました~。」
また沈黙が訪れる。どうやら可憐は凪沙のおもちゃにされてるらしい。一つの疑問を解決した所で、担任が“次は朱雀、頼む”と言った。
「朱雀慶斗です。ギリシア系の征儀で、光属性です。兄ぃの弟だから出来ると思われてるみたいですが、実際全然強くないので、よろしくお願いします。」
「青龍翔太だ。スペイン系風属性の征儀を使う。これからよろしく。」
こんな感じで自己紹介の時間は終わったのだった。
「さて、授業を始めるか。」
授業、と言っても今日はクラス決定試験がメインの為、慶斗達は特に筆記用具を持ってきていない。だが、内容は征儀伝なら知っている内容ばかりなので、簡単な復習と言う感じだった。
「さて、征儀と魔力は同じ物だとは知っているはずだ。それを用いて自分の魔獣を召喚する。それが出来る者が“征儀伝”と呼ばれる訳だ。さらに、征儀には2つの種類がある。スペイン系とギリシア系、この二つの見分け方がわかる者は?」
「征儀伝が生まれながらに持っている“魔石”の色です。ギリシア系が白、スペイン系が黒です。また、魔石は征儀伝の命と直結しており、壊されれば死に至ります。」
翔太が答える。担任教師は一度頷いてから話を続けた。
「そうだ。さらに、そこから細かく征儀は分類される。自己紹介にもあったように、属性と呼ばれるものだ。属性の種類を答えられるものは?」
誰もが黙ってしまう。属性は5つあり、更に特殊属性もある為、なかなか全てを覚えるのは大変なのだ。
「風、炎、氷、金、雷が一般的な征儀伝の属性。光と闇属性の征儀伝は少ない。また特殊属性も幾つかあり、確認されている限りでは、暴力と鏡。」
可憐が淡々と答える。しかし、その声には全くと言っていいほど感情が込められていない。
「上出来だ。朱雀達の決勝戦の相手、天馬の属性が暴力に属する。暴力と相性がいいのは金属性だ。あのコンビは理に叶ってると言えるだろう。さて、次だ。つい最近、と言うか、たった数時間前に覆された理論がある。異なる系統についてだ。元来、異系統の征儀同士は相性が悪いと思われてきた。だが、技を併せるだけなら相性は良くなる時がある。そして、その概念は今日それは完全に覆された。俺の目の前にそれを証明した人物がいる。」
即ち、慶斗と翔太だった。やはり慶斗は畏まってしまうのだが…。
「この話は置いておこう。次は呪文についてだ。呪文は三文からなる。」
そう言って、ホワイトボードに教師が書き始めた。
“主の命令により、炎の弾丸を放て。バレ・デ・フェーゴ”
と書かれている。どうやら教師自身の呪文の一つらしい。
「コレは俺の攻撃呪文だ。第一文で魔獣に攻撃の発動を伝える。第二文で攻撃の具体的内容を告げる。そして、一番重要なのが第三文だ。これは三音節で出来ている。第二音節の“デ”は全征儀伝共通だ。第三音節は自分の属性を表している。第一音節は、第二文と意味が同じだ。よし、テストをしよう。それぞれ自分の呪文の第三音節を書き出してみろ。」
4人がそれぞれマジックを持って、ホワイトボードに書き記していく。“ブライヤー”“トルメンタ”“イーロ”“ルエーノ”。それぞれ慶斗(光)、翔太(風)、凪沙(氷)、可憐(雷)の物だ。
「よし、分かっているな。呪文の第三文だけでも技は発動できる。威力は劣るが、緊急時にはいい有効手段となっている。覚えて置くように。」
「先生。」
手を挙げたのは、なんと可憐だった。ピッと真っ直ぐ伸ばされた腕は確実に地面と90度の角度をなしているに違いない。
「なんだ泉?」
「中国系征儀伝について教えなくてもいいのですか?」
無表情を崩し、一瞬だけニヤリとした可憐。教師はギクッとなったが、直ぐに冷静を装う。
「何だ?中国系征儀伝とは?今の授業で言ったように、征儀の種類は二種類。スペイン系とギリシア系のみだ。」
きっぱりと言い切る教師。だが、可憐は更に続ける。感情の込められていない声がやけに響く。
「“認められている”のはその二種類で確かです。ですが、“認められていない”征儀伝がいるとしたらどうでしょう?」
「これで授業は終わりだ。泉は適当な事は言わないように。他の生徒も信じてはいけない。今日はこれで終了だ。明日からは普通の授業に入る為、筆記用具を持参するように。」
教師は教室を後にした。これで解散らしいが、可憐以外の三人は可憐を見る。あの凪沙でさえ笑顔を消し、頭にはてなマークを浮かべている。
「泉さん、中国系征儀伝って何ですか?」
慶斗が代表して可憐に聞く。
「何でもない。帰る。」
可憐は席を立って教室を出た。凪沙もその後を追い始める。
「帰るか、慶斗。」
「そうですね。帰りましょうか。」
残った二人も寮へと戻るのだった。
夜、ほとんどの人が寝静まった頃、南陽学園から少し離れた場所でその事件は起こった。
「あなた達は何者なんですか!?」
一人の女性が追ってくる二人の影から逃げる。頭から爪先まで黒いフード付きマントを羽織っており、顔もよく見えない。女性は必死で逃げるが、何時の間にか路地へと追い込まれてしまった。
「ひぃひぃ…。こ、こうなったら…。【エクスジェンシア】!」
この女性、実は征儀伝である。彼女が学生の頃は、まだ南陽学園がない頃だったので、特に魔獣を召喚し戦闘をすることもなかった。胸元に下げていた白い魔石の嵌ったペンダントが光り、白鳥の魔獣が召喚される。魔獣は契約者を守るように地面に降り立った。
【主が命令します。氷で相手の動きを封じよ。オブヘルト・デ・イーロ!】
白鳥が羽ばたき吹雪を巻き起こす。生身の人間相手に征儀を使うのは法律で御法度とされている。だが、女性に限っては、正当防衛としての威嚇・牽制程度なら使っても罪に問われないのだ。今この女性も吹雪を巻き起こして足元を固定しようと考えてのことである。
しかしだった。脚を氷付けにされる直前、二人の影は上空へジャンプしたのだ。しかも人間の常識では考えられない程の高度である。既に飛んでいると言っても過言ではない。予測範囲を大きく超えた相手の行動に驚く女性。それは影にとって最大のチャンスだった。上空に見えない物体でも在るかの様に、空中から加速して地面へと向う。ミサイルのように突っ込んでくる2つの影に、女性はバリアを張って対応する。しかし、いとも簡単に破られる始末であった。一つ目の影がバリアを破壊し、二つ目の影が魔獣に対当たりをした。相手が魔獣なのか人間なのか、はたまたそれ以外なのかは定かではないが、たった一発の攻撃で相手の魔獣を消滅させたのだ。いくら女性が魔獣による戦闘経験を積んでいないからと言っても、影が強すぎる。
「ひぃ!?え、エクスジェ…」
再び魔獣を召喚しようと試みるが、影が素早く動き女性の喉を締め上げた。地面から体が浮き、脚をバタつかせる。それでも影は気にする事はなかった。更にもう一体の影が、女性の胸元に下がるペンダントを引き千切り、魔石を取り外した。女性は投げ捨てられ、喉を押さえる。だが、魔石を取られた事に気付き、影を見る。
「だめ、返して…」
「やだね。だってこうするんだから!」
魔石を拳で握ると、パキンと言う音がして白いガラス質の粉が風に舞った。影の一体が女性の魔石を粉々にしたのだ。征儀伝にとって魔石を壊してしまうのは死と同義。“あっ”と言う小さな悲鳴と共に、女性の体は崩れ落ちるように倒れた。
「任務完了。」
「待って。まだコイツ、使えるから。」
影の一体が女性の亡骸に近付き、マントの袖を捲くる。現れたのははめ込まれた宝石だった。形や大きさを見る限り、どうやら魔石のようだ。しかし、その色はエメラルドの様な緑色をしているのだった。
【我主幻獣命、写彼魔姿鏡。模似】
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