一件落着
「がっ!?」
痛みにより、悲鳴の声を上げたのは翔太ではなく、中国系征儀伝の方だった。男が握っていた刃物は地面に落ちている。右肩には闇色の短刀が刺さっていた。
「一件落着って所かな。大丈夫かい、青龍君。」
次の瞬間、痛みに悶える中国系征儀伝の体に峰打ちがヒットする。吹き飛ばされた男はそれきり動かなかった。
翔太に手が差し伸ばされる。上を見上げれば、そこには魔力切れに陥ったはずの龍夜の姿があった。
「龍夜先輩…?」
痛みに耐えながらも手を握って立ち上がる翔太。足音がするので見渡すと、数人の人影がテキパキと動いていた。黒い服を着ている。
「あれって、中国系…!?」
「いや、違うのさ。よく正体は知らないが、どうやら俺達の味方らしい。」
サラッと前髪をよける龍夜。なぜか性格が違うように見える。
「そんな事より、留美たちを助けた方が良いんじゃないかな?」
その言葉でハッとする翔太。龍夜は映像の少女を、翔太は留美を拘束する縄を解いた。
「龍夜お兄様、翔太さん。ありがとうございます!」
「留美、無事で何よりだ。怪我はないか?」
「はい。」
三人で話していると、黒い服の一人が近付いてきた。
「お久しぶりね。私の薬のお陰で皆助かったみたいだし。」
そう言いながら、目深に被ったフードを外す。
「あなたでしたか…」
そこにいたのは、夏休み前に可憐と同時期に学園を去った保険医だったのだ。そこで翔太は納得がいった。きっと、龍夜はこの元保険医の作った薬を飲んだに違いない。以前翔太や慶斗が飲んだ時も、魔力が短時間で回復する代わりに、性格が変わってしまった。龍夜の今の性格も、薬の副作用であると予測したのだ。
「さて、あなた達を学園まで送り届けましょう。そこの子は私たちが保護するわ。倉本令嬢は丁重に屋敷まで。」
龍夜の肩を借りて歩く少女。見た目は留美と似ているのだが、目隠しを外せば全くの他人であった。取り押さえられた中国系征儀伝の男が連行されていく。
「あ、龍夜お兄様…。私、魔石をとられたままなの。」
男のポケットを探ると、三つの魔石が出てきた。緑が一つに白が二つ。緑の魔石はこの男の物だろう。そして二つは留美と少女の物だ。
「魔石の持ち主なら分かるだろう。留美、一つ握ってみろ。」
留美が言われた通りに、一つの魔石を握る。しかし、首を横に振って手放した。もう一つを握ると、納得したように頷く。
「私の魔石はこっち。はい、コレはあなたのでしょ?」
留美が少女に魔石を手渡す。
「ありがとう…」
受け取った魔石をポケットに押し込んだ少女。征儀伝の一人に連れられて留美と共に出て行く。
「龍夜お兄様、慶斗お兄様はどこ?」
「あぁ、アイツは学園で戦ってるのさ。俺が指示しておいた。留美の誘拐は囮、本命は南陽学園の襲撃にあるってな。俺に掛かれば計画なんて簡単に…」
種明かしをする龍夜だったが、突然の笑い声に遮られてしまった。
「なんだい?」
「なんでもねぇよ。ただお前のナルシスト振りに呆れただけだ。一ついい事を教えてやるよ。この誘拐事件は、“囮の囮”だ。」
その言葉に、場にいた全員が怪訝な顔をした。
「まだ分からないのかよ?確かに本命は南陽学園の襲撃だ。だがな、普通校門から堂々と攻め込むか?違うんだよ。お前の弟だろ?学園に残って戦ってるのって?そいつも囮を掴まされてるんだよ。残念だったな!」
次の瞬間、緑色の魔石が壊れた。しかし、今回は魔力の暴走がなかったはず。そして、男自身もピンピンしていた。
「どう言う事だ…?」
いぶかしむ龍夜。
「早く、学園に向ったチームに連絡を!」
誰かが叫んだ。男はニヤニヤしながら連れ出されるのだった…。
「ふん!はっ!」
学園校門前では、新たに参加した三人が、弱り始めた中国系征儀伝に攻撃をしている。右手のグローブの破壊力は中国系征儀伝に匹敵し、壁でもどこでも走る一角獣のスケートボードは、どこまでもそれを追っている。二人の弱点をカバーし合う事で、確実に中国系征儀伝を仕留めていた。
「やっぱり、あの二人のコンビネーションはすごいですね…」
魔力切れに近い状態の為、安全な場所で戦いを見ている慶斗。
「しかし、大丈夫なのか?あいつらは今日始めて装甲征儀を使ったはずぢゃが?」
類の考えは尤もであり、二人のスピードと破壊力は落ちてきている。残る敵はあと二人。Sランク教師も魔獣で応戦しているのだが、命中率はあまりよくない。
「兄貴、すいやせん。かなり魔力が少なくなってまさぁ。」
「仕方ない。これも俺達の修行が足りない結果だ。」
スピードで勝ってきた中国系征儀伝は、力を盛り返し、二方向から天馬達を狙う。グローブを一つしか装備しない天馬には、同時に襲い来る二人の敵を裁くことができない。
「兄貴、飛んでくだせぇ。これじゃぁ、やられらぁ。」
「うむ。」
タイミングを合わせて二人がボードから飛ぶ。中国系征儀伝の刃物が金属でできたボードを切り刻む。
【【エクスジェンシア】】
空中で魔獣を召還。それに飛び乗る事で地面との接触を避けるのだった。だが、二人にはそこまで魔力が残されていない。一角獣が防御を、天馬が攻撃をする事で一進一退の攻防を続ける。
上空から中国系征儀伝に向って電撃の刃が降り注ぐ。突然の攻撃に慌てるが、どうにか体勢を整えた。
「誰だ!?」
「中国系征儀伝、そこまで。」
空中に浮遊する、征儀三重装甲を纏った姿があった…。
「可憐!!」
慶斗の言葉を無視して、可憐は中国系征儀伝を見据える。両手のガントレットを構えた。それに合わせるかのように、二人の中国系征儀伝を囲む様に、三体の魔獣が並んだ。総勢3体の空戦型魔獣。地上にも二人の征儀伝が降りてきた。
「ここの学園長から連絡を受けた。ここまで追い詰めてくれた事を感謝する。後は此方が引き受けた。」
それだけ言って、その征儀伝は今までに倒した中国系征儀伝の確保に向かっていった。




