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追撃反撃

「夏休み中に大きな事件もなかった様で何より。例のニュースの心配もあるが、自身の安全を守ると言う意味でも、これから勉学に励むように。」

 9月1日、南陽学園が夏季休暇を終えた。既に前日には寮へと戻ってきた学園生徒たちは、それぞれの思い出を語り合いながら式に参加するのだった。数人見受けられない生徒もいるが、諸事情で都合がつかないのだろう。龍夜もその中の一人だった。今ここに龍夜はいない。昨日、他の生徒と相対するように自分の街へ帰って行ったのだ。

 式も終わり、それぞれが各自の教室へ向う。今日は体慣らしの意味も込めて、十時ごろの解散である。学校が終われば寮に帰ってのんびりする者、下町へ出かける者、学園に残って夏休みの成果を見せる者など様々だ。

 しかし、そんな呑気な事を考えている生徒と対照的な者達がいた。学園から寮へと続く道に立ち並ぶ黒マントの数々。夏の日差しを気にしないが如く、淡々と時を待っている。もう少しで作戦決行の時間が来る。倉本留美の誘拐はただの囮。狙いは朱雀兄弟の魔石だ。しかし、倉本留美を警護する為、彼らは学園にはいない。中国系征儀伝の一部でも、それを知ってこの作戦が無意味だと主張する者もいるが、他の一部は本来の仕事を知っており、それが最終的に二人の魔石を手に入れる事となるのを知っている。

 チャイムらしき音色が響き渡る。ガヤガヤとした喧騒が起こり、学園の生徒が出てきた。時刻は十時。中国系征儀伝が動き出す…


 所離れた龍夜達の街、とある一軒の屋敷はやけに騒がしかった。特に煩いと言う訳ではないのだが、人ごみがあるのだ。屋敷の表にはパトカーが並び、立ち入り禁止のロープを張っている。警官も構えの状態でたっている。屋敷内にも巡回中の警官がいるのだろう。守る対象の留美がいるこの部屋の前には、倉本家が集めた征儀伝が待ち構えている。そして、駄目出しとばかりに、留美には龍夜達が付き添っていた。これだけ警戒態勢を敷いていれば大丈夫だろう。だれもがそう思っていた。時刻も十時近い。部屋の前にいる征儀伝の一人が、状況確認とばかりにテレビをつけた。

「見えるでしょうか。先日の犯行予告を阻止する為、警察が厳重警戒態勢を…」

 かなり世間も騒いでいる様子。犯行予告時刻まであと数分。緊張が張り詰める。息をするのを忘れるくらいだ。

 そして、屋敷の時計が十時を指した。振り子時計がボーンと特徴的な音を立てる。時間が来たが、誰も襲撃をする気配がない。誰もが犯行は不可能だったと安心した。

『ごきげんよう、みなさん。』

 突然女性キャスターの顔が消え、黒マントを着た男が喋り出す。電波ジャック、しかも中国系征儀伝によるものだ。

『予告通り、今日十時を持って倉本留美を誘拐させていただきました。』

 誰もが硬直した。カメラがずらされ、椅子に座る少女を写す。目隠しをされているが、あのヘアスタイルは間違いなく留美と同一の物だった。

「早く、早く部屋のドアを!」

 誰かが叫び、爺が急いでドアを開ける。そこには龍夜達の姿が…。この部屋にテレビはなかったのか、龍夜が隙なく刀を構えている。留美はそこにいた。

「お嬢様、よかった…」

「どうしたんですか?」

 翔太の問いに、一人が先程の電波ジャックの事を話した。どうやら捕まっている少女は偽者らしい。混乱を招くのが目的だったのだろうか?龍夜はアルマライズを消した。

「馬鹿め…」

 突然緑色の光が輝く。驚く間も無く、留美が消えた。違う、中国系征儀伝が持ち前のスピードで留美をさらったのだ。そのまま窓に突撃し、外へと逃げる。

「留美!」

「留美ちゃん!」


 ここで相手のトリックが判明する。先程の映像は、爺に部屋のドアを開けるように仕向ける為の罠。その証拠に、テレビを点ける事を提案した人物が留美をさらったのだから。そして、誘拐犯はあの薬を使ったに違いない。

「爺やさん、俺達が追いかけます。警察に事情を説明して応援を呼んでください。」

「分かりました。お嬢様を頼みます。」

「青龍!お前の魔獣を使う。お前のスピードなら見失わずに済む!」

「はい!」

【アルマライズ!】

 蝙蝠の背に翔太と龍夜が乗る。そして中国系征儀伝を追うのだった…。


 かれこれ20分は逃走を続けている。街を外れ、工場が目立つ場所へとやって来た。

「ここら辺じゃないか?ほら、あれを見ろ。」

 龍夜の指差す方向にあったのは、中型のパラボナアンテナ。きっと、あれを使って電波ジャックを行っていたのだろう。その時だった。突然地上から砲撃がやって来る。砲撃と言っても、魔獣の光線ライオ系の呪文だったのだが…。

「決まりだな。青龍、二手に分かれて地上に降りる。」

「はい、分かりました。」

 龍夜が蝙蝠の背中から飛び降りた。それと同時に呪文を唱えて魔獣を召還する。黒い龍の背中に乗った龍夜。留美の救出の為、スペイン系征儀伝二人と中国系征儀伝の戦いが始まるのだった。

【ライオ・デ・オスクリード】

【バレ・デ・トルメンタ!】

 上空から地上に向けて、闇の光線と風の弾丸が放たれる。相手の数は総勢十人ほど。その内7人が幻獣による攻撃、残りの3人があの超絶的な身体能力を駆使して龍夜達を倒そうとしている。

「青龍!このままじゃ無理だ。旋回能力の高いお前が生身の方を追撃しろ。俺は幻獣を叩く!」

 龍夜の判断で二手に分かれる。龍夜が滞空して幻獣に攻撃を、それを狙う生身の方は翔太が相手をする。

【トラーマ・デ・オスクリード】

 幻獣の攻撃を闇の罠が吸い込んだ。次の瞬間、罠が消え、幻獣たちの目の前に出現する。避ける間も無く己の攻撃を受けてしまった。

「龍夜先輩、少し場所を借ります。後、耳塞いでください。」

「分かった。」

 翔太がドラゴンの背中に飛び乗る。

【アジッタ・デ・トルメンタ!】

 不協和音を奏でて、頭に響き渡るような鈍い嫌な音を奏でる。相手方の戦意を削ぐには十分の効果があった。

【モルディス!】

 続けて魔獣自体の能力を飛躍的に向上させる呪文、無属性呪文のモルディスを発動する。たぶん類から習ったであろうこの呪文で、空中を生身で飛び回る中国系征儀伝に体当たりを始めた。

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