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完全合成

 地面を一蹴りした強盗犯が、一直線に突っ込んでくる。その速さは先程の凪沙の攻撃を上回るものであった。

【エスクード・デ・オスクリード】

【エスクード・デ・ブライヤー】

【エスクード・デ・ルエーノ】

【エスクード・デ・イーロ】

 四人が同時に属性の盾を張る。闇、光、雷、氷。それらが一直線に並び、強盗犯を迎え撃つ。

「でやぁぁぁっ!」

 だが、加速度までも活かして特攻してくる強盗犯は、一枚一枚の盾を破ってくる。そして、最後の氷の盾が破壊されたと同時に、鹿型の魔獣に体当たりをした。まるで氷が砕けるかのごとく、凪沙の魔獣は消滅してしまう。かなり魔力を消費したのか、崩れ落ちてしまった凪沙。もはや戦闘所ではなくなってしまった。

「凪沙!」

「余所見ができる状態か?」

 凪沙に駆け寄ろうとした玲奈。彼女に向って突進する強盗犯。

【バレ・デ・オスクリード】

 玲奈と凪沙を守ろうと、龍夜が後ろから追撃を仕掛けるのだが、それさえも弾き返してしまう。

【ライオ・デ・ブライヤー】

 続けて光線が飛んでくる。慶斗のエンジェルが放ったものだった。こればかりは弾く事が出来ないと悟ったのか、強盗犯は上空に飛ぶ事で避けた。

【アジェット・デ・ルエーノ】

 雷を纏った鷲が、強盗犯に突っ込んでいく。そのスピードは中国系征儀伝の速さに匹敵するものだった。逃げられないと悟ったのか、方向転換をして鷲型魔獣を迎え撃つ。拳を握り固め、後ろへ送る。そのまま突き出した。

 一瞬電流が流れたように見えたが、玲奈の魔獣も消滅してしまう。


「これはすげぇ。中国系征儀伝になるとこんなに力が溢れるのか…」

 自分のした事が信じられないと言う風に喋る強盗犯。

「そう言えば、お前は朱雀龍夜とか言う奴だよな?天才学生の。あの方がお前ら兄弟をいたく気に入ってたぞ。詳しく言えば、お前ら二人の魔石をな。」

「どう言う事だ?」

「俺が知るか。だがな、お前らの魔石を持ち帰れば良い事は知ってるんだよ。だからよ、魔石を寄越せ!」

 上空から二人に突っ込んでくる強盗犯。

【【アルマライズ!】】

 この呪文は本来、この時の為に作られたもの。闇色と純白の刀を居合い切りの構えで持つ二人。突っ込んできた瞬間に峯打ちにするつもりなのだ。

 斜め上の方向から強盗犯が突っ込んでくる。そして、二人が刀を振りかざした。

「馬鹿だな…。峰打ちにしようなんて、考えが甘すぎる。」

 なんと、強盗犯は二人の刀を素手で掴んでいたのだ。そのまま圧し折らんとばかりに力を強める。


【【アルマライズ・セグ】】

 二人が二本目の刀身の短い刀を取り出す。それで腕を狙った。今度は本当に刃を使っている。強盗犯もこれには利いたのか、刀が腕を切り落とす前に後退した。二本の刀を構える二人、余裕な笑みの強盗犯。再び3人が衝突した。

 刀を振るい、クロスさせて防御をする慶斗。斬撃の合間に蹴りを入れる龍夜。そんな二人を相手にしても、強盗犯は両手両足を器用に使いまわし、攻撃を防いでいた。だが、全てを防げるわけではなく、所々に切り傷も付いている。

「はっ!」

 突然慶斗が短刀を投げつけた。縦回転するそれを、側面から蹴って対応する強盗犯。だが、そこに一瞬の隙が出来た。龍夜がすかさず、腹に峰打ちを入れた。

「ぐっ…」

 ジャンプして後退する強盗犯。

「やはり近接戦闘では手数に理があるか…」

【エクスジェンシア!】

 魔方陣が展開、サイ型魔獣が現れる。しかし、その姿は先程より変わっていた。異様に首が伸び、四肢にも棘が生えている。もはや怪物と表現した方が良い物になっていたのだ。異様なその姿に二人は眉をひそめる。

【アジェット・デ・フェーゴ】

 炎が噴出し、突進してくる怪物。これでは二人に魔獣を召還する時間が無い。龍夜が刀を投げつけるのだが、硬い皮膚には効いていない様だ。それぞれ左右に避け、ギリギリで危機を脱する。

「慶斗、いいか?俺が一時的に足止めをする。その間にお前は回復に努めろ。それが終わったら、一気に型を付ける。」

「はい。」

 龍夜の意味する事が分かったのか、慶斗は直ぐに返事を返した。

【【エクスジェンシア】】

 二人が魔獣を召還する。

【リポルネルス】

 慶斗が回復呪文を唱えた。その前に立ちはだかる龍夜と魔獣。これが終わるまで、彼を守らなくてはならないのだ。

【主の命により、全てを包み込む闇を見せろ。コーティナ・デ・オスクリード】

 闇が広がる。直接的な攻撃力は皆無に等しいが、相手を混乱に陥らせたり、惑わすフィールドを作り出すことが出来る。予測どおり、相手は龍夜の位置が把握できていないようだ。

【コルト・デ・オスクリード】

 切り裂く闇の刃が襲い掛かる。場所が特定出来ていない以上、攻撃を回避することは出来なかった。まともに受けてしまう。

「そこか…」

 強盗の洞察力の良さに、龍夜は焦りを隠せなかった。たった一度の攻撃で、こちらの場所を正確に特定したのだ。これも中国系征儀伝としての能力なのだろうか?

【アジェット・デ・フェーゴ】

 一直線に突っ込んでくる魔獣。避ける事は容易いが、それでは回復中の慶斗に攻撃が否応なしに当たってしまう。

【トラーマ・デ・オスクリード】

 再び闇の罠を仕掛ける。崖でもどこでも良い、出来るだけ長く相手を遠ざけたかった。

「同じ手が二度も通用すると思うな!」

 その言葉と共に、怪物が闇の盾を横から破壊した。直線で突っ込むことで効果を発動するその罠は、避ける、壊す事をすれば簡単に破られるのだ。そのまま突っ込んでくる魔獣、龍夜は驚きと焦りの余り、バリアさえも張ることが出来なかった。

【エクスプロ・デ・ブライヤー】

 突然、地面が爆ぜた。いや、違う。直接地面に叩き付けられた光の爆弾が爆発したのだ。


「お待たせしました。兄ぃ。」

 どうやら回復が終わったらしい。龍夜の横に立つと、スウッと深呼吸をした。

「準備はいいか、慶斗。」

「はい。」

 相手がまだ戦闘不能の状態の間に、二人は声を揃えて呪文を発動した…。



【主の命令です。光の魔獣よ、闇の力を受け入れよ。】

【主の命令により、闇の魔獣よ、光の力を受け入れろ。】

【【ユニルス!】】

 二体の魔獣が白と黒の光に変わり、混ざり合う。銀色の光の球となった。ちょうど到着した警官達の話に拠れば、それは銀色の太陽の様だったと言う。強盗犯の魔獣が起き上がり、再び攻撃をし掛けようとする。だが、そこには二体の魔獣はいなかった。

 黄金に輝く体、白と黒の翼が生えている。長い首の先端には、三つの目が睨みをきかせる顔があった。これが、慶斗と龍夜の合成魔獣、“光と闇の黄金龍(ダークネスエンジェル)”である。


「なんだよ、これは…」

 強盗の驚きと焦りの混ざった表情を他所に、二人は同じ呪文を唱え始める。しかし、それに少しの差異があった。

【主の命令です。対象を穿つ光の弾を放て。バレ・デ・ブライヤー】

【主の命令により、対象を穿つ闇の弾を放て。バレ・デ・オスクリード】

 それぞれの翼から、二つの属性の技が放たれる。光と闇、相対する二つの属性が、お互いを相殺する事無く相手の魔獣に降り注ぐ。ただえさえ慶斗の上級征儀を直に受けているのだ。フラフラになりつつある。

「慶斗、一気に行くぞ。改良したからって言っても、今の状態は、やはりきつい。」

「分かりました。上級征儀を発動します。」

 クラス決定試験において、魔力量が問題視されたこの呪文だが、夏休みを利用した龍夜の改良により、数段使いやすくなっている。

 一つ目の改良点としては、魔獣自体の大きさである。以前の呪文では二体分の魔獣より大きい、超が付くほどの大型であった。だが、通常の魔獣の大きさである5mに統一することで、大幅に魔力使用量をカットしたのだ。

 二つ目は魔力経路の可変性。以前は二人の征儀伝から等しく魔力を送っていた。だが、それでは魔力保持量の少ない征儀伝に負担が掛かる事になる。それが転じて魔獣合成ユニルスの限界時間が短くなる事に直結していた。だが、龍夜の改良によって、より保持量の高い征儀伝から多くの魔力を送るように変更したのだ。つまり、今は慶斗が大量に魔力を送っている状態である。

【主の命令です。光よ、対象を貫け。】

【主の命令により、闇よ、対象を縛り上げろ。】

【【オスクリード・デ・ブライヤー】】

 合成魔獣ダークネスエンジェルから闇のロープが現れ、相手の魔獣をきつく縛り上げる。そして、口から無数の光の棘が吐き出され、体全身に隙間無く打ち込んでいった。のた打ち回る魔獣、しかし、その後直ぐに消えてしまうのだった…。

「く、そ…」

 魔力を練る事が出来ないのか、倒れ伏したまま動かない。警察が駆けつけ、手錠を掛けるのだった。


「終わったな…」

 座り込む二人。しかし、先に倒されてしまった二人を思い出し、慶斗と龍夜は凪沙と玲奈の所へ駆けつける。

「玲奈!」

「凪沙!」

 抱きかかえると、二人とも眠っていた。どうやら疲れたらしい。よくあんな状況で寝れた物だと、半ば呆れた顔で見る二人。

「強盗犯は確保した。協力を感謝する。」

 先程の指揮官が話しかけてくる。慶斗が言葉を発しようとしたのだが…。


「うぐっ…、うぎゃぁぁぁぁっ!」

 突然誰かが叫び、全員がそっちを振り向く。

 強盗犯だった。白目を剥き、体を激しく痙攣させている。警官達が必死で押さえつけるのだが、止まろうとしない。よく見れば、胸ポケットの辺りから緑の光が漏れているのがわかる。

「どうしたんだ?」

「兄ぃ、あれって、魔石が暴走してるんじゃないんですか!?あの変な薬で。」

「厄介な薬だな…。」

 強盗犯に近付き、魔石を探り出した。強烈な緑の光を放つ魔石がそこにあった。

「兄ぃ、どうすれば良いんですか!?」

「どうするも何も、魔石の暴走なんて聞いた事も見たことも無い!無闇に手を出して傷つけたら、こいつの命が無いぞ!」

 しかし、光は増すばかり。それに連れて男の痙攣も激しくなっていく。そして…




 魔石が破裂するようにして壊れた。まるで内側から爆発するかのように。次の瞬間、その男は糸の切れた人形のように力なく事切れてしまった…。

今回、初めて完璧なユニルスに成功しましたが、それについて解説を少々。


1、合成魔獣の大きさが半分以下になりました。

 →魔力消費を抑えるため。(普通の魔獣と大きさは変わりません。元々が大きすぎたのです。)


2、魔力の伝達回路が可変式になりました。

 →魔力保持量の多い征儀伝から優先的に魔力を送るため。(今回の場合、魔力保持量の多い慶斗が大量に魔力を送っています。比で言えば、7:3でしょうか。)




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