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銀行強盗

 可憐が去った後だった。突然凪沙の携帯電話が鳴る。ディスプレイに表示されたのは“お姉ちゃん”の文字。即ち、玲奈である。凪沙が通話ボタンを押す。

「どうかしたのお姉ちゃん?」

「大変なの。今龍夜と銀行で学園の支払いに来てたら…あぁっ!」

 突然悲鳴を上げる玲奈。怒号も聞こえる。そして電話は切れてしまった。

「凪沙、何があったんですか?」

「お姉ちゃん達が危ないよ、慶斗っち!行くよ!」

 手を引かれ、あれよあれよと言う間に引き摺られていく慶斗だった。


 凪沙の勘でやってきた場所には、やたらと人ごみができている。更には警察までも出動しているらしい。人を掻き分け、先頭まで出てきた。どうやら銀行強盗が押し入っているようである。何を思ったか、慶斗は立ち入り禁止ロープを潜ろうとしていた。勿論の事、彼は警察官の一人に止められてしまう。


「離して下さい。僕の兄ぃがこの中にいるんです!」

「何を言っているんだね。警察に任せて君は下がっていなさい。これはただの強盗事件じゃないんだ、征儀伝が関わっている。危険だから下がっていなさい。」

 きっと、この警察官は征儀伝ではないのだろう。強盗犯と言うのも相まってか、かなり危険視している。時々あるのだ、この様に征儀伝が問題を起こすと、それをネタに色々騒ぎ出す人間が。一部だけの人間に宿る力を嫌い、事件があるごとに征儀伝を悪く言う。人間とは身勝手なもので、龍夜のように都合のいい事が起これば褒め称え、今の様に害を為せば、簡単に掌を反して文句を言い出す。きっと、この警官もそんな人間の一人なのかもしれない。

「征儀伝だから危険だって言っているんですか?」

「当たり前だ。意味の分からない力を使って犯罪を起こすなど、言語道断だ。征儀伝でない犯人が複数いるが、征儀伝の奴が幻術でも使ったのだろう。」

 やはり、征儀伝の事をよく知らない者がいるのも問題であろうか。慶斗は、征儀が直接的に人間を支配できない事を知っている。彼はポケットから、スッと一枚の金属カードを取り出した。白い魔石の嵌るそれ、南陽学園の生徒手帳だ。

「南陽学園Sクラス、朱雀慶斗と言います。征儀伝が危ないと言うなら、僕達征儀伝に対処させてください。」

 隣でも凪沙が生徒手帳を取り出している。警官が唖然とした顔をしている。周囲の野次馬も、“南陽学園”とか“朱雀”と言う名前で色々思い出したに違いない。ザワザワと騒がしくなった。

「駄目だ。君らの様な学生を危険な目に合わせる訳にはいかない。増援が来たら突入作戦を開始する。それまでの辛抱だ。」

 もっともらしい事を並べて説得しようとする警官。だが、慶斗の目は据わっていた。

「一度電話を受けました。その様子では、僕の兄ぃ達は魔石を取り上げられています。大勢で突入された時に誤って魔石を壊されたら、兄ぃは死んでしまいます。それなら、僕が兄ぃの魔石を取り戻します。僕の兄ぃ、朱雀龍夜なら、この状況を何とかしてくれるはずです。」

 一気に言い終わると、やはり“朱雀龍夜”の名前が利いたのか、野次馬からも慶斗達に任せるべきだと言う意見が出始めた。だが、警官も負けてはいない。

「君自身が捕虜になる可能性がある。そんな事をしたら話をややこしくするだけに決まっているじゃないか。」

「僕に考えがあります。…もういいです。兄ぃが危ないのに話なんかしてられません。どいてください。」

「子供の癖に生意気な事を言うんじゃない。おい、この二人を現場からつまみ出…」


【アルマライズ】

 警官が言葉を終える前に、その喉元に刃が突きつけられた。

「もう一度言います。僕に行かせてください。」

 周囲からも“行かせてやれ!”とか“自分の職を失うのが怖いだけだろ!”などと叫ぶ声が聞こえる。警官も黙って道を譲るように避けた。

「ありがとうございます。凪沙、僕が合図するまで待っててください。合図をしたら…」

 耳打ちをして、慶斗は銀行の入り口を見た。

【エクスジェンシア】

 体長5m程の純白のドラゴンが現れる。驚く者、ため息を漏らす者などがいるが、慶斗はそれに構わず呪文を唱えるのだった…。



 所変わって、銀行内。後ろ手に縛られた銀行員や客。その中に龍夜も含まれていた。睨む彼の視線の先には、首元にナイフを突きつけられた玲奈の姿もある。玲奈を抑える覆面を被った強盗犯の他にも、銃などを構えた者が多数いる。そして、時たま地下から重く響く音が聞こえてくるのだった…。

「くそっ、玲奈さえ人質にとられてなければ…。」

 珍しくもここまで龍夜が追い詰められているのは、偏に玲奈が人質にとられている事にある。当初、直ぐにアルマライズで片付けようとしたのだが、それより一瞬間早く玲奈を盾にされたのだ。その後は強盗の言う通り、魔石は渡してしまった。今は彼に打つ手はない。

「せめて魔石を取り返せれば…」

「魔石があればいいんですね?兄ぃ。」

 ふと聞こえた弟の声。辺りをそっと見回すが、姿は見えない。だが、トリックが分かったのか、顔をニヤリとさせた。

「来たな、慶斗。」

「はい。遅くなりました。兎に角兄ぃの魔石を取り返せば良いんですね?誰が持ってますか?」

「玲奈を人質にとってる奴だ。ジャケットのポケットに入っている。」

 小声で必要最小限の情報を伝える龍夜。それ以降、誰も龍夜に話しかける者はいなくなってしまった。だが、次の瞬間玲奈の首にナイフを当てている強盗が崩れ落ちたのだ。どうやら慶斗の仕業らしい。白目を剥いてピクピクと痙攣している。


「慶斗の奴、あんなに力が強かったか…?」

 しかし、どう見ても不自然である。一撃で大の大人を倒すなど、慶斗にはほぼ不可能。まして、龍夜の予想では慶斗は呪文で光学迷彩を使用しているはず。姿が見えないのは未だ呪文が発動しているから。即ち、他の攻撃呪文は放てないのだ。

 バタリと強盗が倒れる。玲奈も隙を見て逃げ出してきた。隣に慶斗が現れる。

「あれは、慶斗じゃないよな?」

「はい。僕じゃありません。」

 再び強盗を見る。強盗が寄りかかっていた壁、そこから黒いガントレットが顔を覗かせていた…。

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