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彼女との再会

 夏休みも中盤に差し掛かる頃。Sクラスである龍夜や慶斗は、もう少しで学園に戻る事を考えなくてはならない時期になっていた。そんなある日の事である。


 ここは慶斗の部屋。限りなく絞られた音が鳴る。ドアが開いたようだ。無駄なく開けられた隙間から入ってきた影。再び極力抑えられた音が鳴り、ドアが閉められた。影はだんだん慶斗に忍び寄る。静かに寝息を立てて寝ている慶斗。彼は気付きそうにない。ベッドに乗り、慶斗に跨る。そして首元に手を伸ばす…。




「やっぱり可愛いぃぃ!」

 グフェっとあり得ない声を上げる慶斗。涙目になりながら自分のお腹の上でジャンプする存在を見極めようとした。

「凪沙!?」

 影の正体は凪沙であった。驚く間も無く、摺りつかれる。

「夢がいないから、ずっと寂しかったんだよ~。」

「ちょっと、凪沙。離してください!息が詰まります。それより、どうやって入ってきたんですか?」

「玄関から入って来たんだよ~。」

 

 漫才の様な一連の事が起きた後、無理矢理凪沙を部屋から追い出した慶斗。朝食を取ろうとリビングへ向ったのだが…。

「兄ぃ、これはどう言う事ですか?」

「俺も分からない。」

 そう返す龍夜の膝上には、玲奈がさも当然の様に座っている。慶斗の両親もニヤニヤしながら自分の席に座っている。そして、凪沙はと言うと…。

「慶斗っち。朝ご飯が冷めちゃうよ?」

 慶斗の席に座って、慶斗の分の朝食を食べていた。因みにカレーである。目の前の光景がシュール過ぎる為、唖然として硬直している慶斗。色々突っ込む所はあるのだが…

「朝からカレーは重いです。」

 全員が“突っ込みそっち!?”と言ったのであった。

 

 さてさて、気を取り直して慶斗が凪沙に質問を始める。

「なんで来たんですか?しかもこんな早くに。」

「会いたかったからだよ。」

「では、既に僕とは会ったので、帰ってください。また学園でお会いしましょう。」

「それは無いよぉ。折角慶斗っちのパパママにお泊りの許可貰ったんだから。」

 思わずスプーンを取り落としてしまった慶斗。カクカクしながら両親を見つめる。

「留美ちゃんを怒らせない程度にな。」

 斜め上44度位を行く返答に、慶斗は言葉に詰まってしまったのだった。



「慶斗っち、次はこれこれ!」

「もう、止めてください…」

 “買い物に行こう!”と言われ、引きずられる様にしてやって来たコスプレショップ。当てては置いて、当てては置いての繰り返しで、服の山を大量に作っていた。最早店員の迷惑など考えていない。

「う~ん。やっぱりミニスカートは外せないよね。フリルも付いていた方が良いし、猫耳とかも基本装備だね。」

 真剣な面差しで何か呟いている凪沙だが、慶斗にとっては有害極まりないことは必須だ。やがて、気に入った服が無かった為か、服の山を放置して店を出てしまった。

「さて、夏休み明けからの課題もできた事だし。頑張らなくちゃ。そうだ、慶斗っち。何か奢るよ。アイスでいいかな?」

 “そんな、僕が奢りますから。”と言う慶斗を制して、適当な店でアイスを購入。歩きながら食べていた。今日のこんな不幸な出来事を悲しむ慶斗だが、その原点を鑑みた時、ふと可憐の顔が思い出された。今朝、彼女はこう言った筈だ。“可憐がいなくなって寂しかった”と…。

「ねぇ、凪沙。凪沙は可憐がいなくなって寂しい?」

「え?うん。そうだね。おもちゃが一つ減っちゃったし♪」

「真面目に答えてください。君は可憐の友達のはずです。何とも思わないんですか?」

 その言葉に黙り込んでしまう凪沙。慶斗は願っていた。自分以外にも可憐の突然の失踪を嘆き、彼女の無実を信じている人間がいる事を。だが、再び喋りだした彼女の言葉は…

「私は特にいなくなった事については何も思わないよ。」




 慶斗は愕然とした。世界は彼が思った以上に冷たかったのだと。

「だって…、私たちの目の前にいるんだから。」

 改めて耳を疑った。凪沙の指差す方向を見れば、夏休み前に見慣れた顔があった。無表情に顔を固め、一点を集中するようにだけにした視線。紛れも無い、あれは泉可憐本人である。…一つだけ相違点を上げるとすれば、メイド服を着ていない事だろうか。アイスを放り投げて立ち上がった慶斗。

「凪沙、僕ちょっと彼女を追いかけます。彼女と話がしたいんです。」

「私も行くよ、慶斗っち。だって可憐ったらメイド服着てないんだもん!」

 走り出す二人。早足で人ごみの中を歩く可憐に追いつくのは至難の業ではあったが、二人は何とか声の届く範囲までやって来る。

「可憐!!」

 慶斗が叫ぶと、一瞬だけチラッと二人を見やる。だが、彼女は速度を緩めず、更に加速したのだ。しかし、二人としても追い駆けるのをやめる訳にはいかない。一生懸命に彼女の背中を追った。

 二人が追いついたのは、可憐が裏路地の行き止まりに入った時だった。いや、もしかしたら二人を逆に誘い込んだとも考えられるのだが…。

「朱雀慶斗、凪沙…。」

「可憐、どうして急に学園を去ったんですか?あれでは本当に、可憐が中国系征儀伝だと言った様な物です!僕は可憐の言葉を信じています。だから、ちゃんと無実を証明したいんです!」

「そうだよ、可憐。メイド服はいつでも着なくちゃ。」

 凪沙の言い分がずれているのだが、慶斗は気にしていなかった。彼の必死の説得を、無表情な顔で受け流す可憐。

「上からの命令は絶対。今もあなた達を危険から遠ざける為にわざと誘導した。」

「危険?どう言う事ですか?まさか中国系征儀で…」

 そこまで言いかけた時、足元が振動した。まるで地震でも起こった様な感覚だ。

「可憐、これって…」

「コレは中国系征儀伝ではない。ただの征儀伝。私にこれ以上近付かない事を推奨する。近く私は指名手配される。私の関係者である事は避けた方がいい。」

 そう言って、可憐は二人の間をすり抜けようとした。

「可憐。僕は信じるます。だって、君が言ったんですから。」

 だが、可憐は慶斗の言葉を無視するかのように、体を宙に浮かべて去って行ってしまった。

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