融合? ユニルス
今回でクラス決定試験は終わりです。二日に一回の投稿と、前回宣言しましたが、すいません。前言撤回させてください。“最低二日に一回”とします。もしかしたら、毎日投稿するかもしれないし、一日に複数話出すかもしれません。少なくとも、二日に一回は投稿します。
【主の命令でさぁ!研磨されし剣よ、攻防可能な鎧を作れ!アルマ・デ・メタル】
【主が命令する。己の力で仲間を助け、相手に更なるダメージを。アポール・デ・ビオレンシア!】
決勝戦の相手、超がつくほどの高身長と、慶斗と同じ程度の身長の凸凹コンビである。慶斗達と同じく、それぞれ別系統の征儀を使うチームだ。しかもかなり前からチームを組んでいるようで、準決勝の相手より連携に磨きが掛かっている。急造のチームで編み出せるはずのない共同技を放ってくる。無数の剣が魔獣に纏わりついて、堅固な装甲となる。それをもう一体の魔獣がバックアップする戦法。慶斗達はずっと防戦一方である。慶斗の十八番のバリアでさえ、たった二発の攻撃で砕けてしまった。元々攻撃派の翔太は、防御系の扱いには慣れてなく、まるで防御になっていない状態。このままでは慶斗は兎も角、翔太が魔力切れに陥ってしまうだろう。だが、慶斗には一つ起死回生のアイデアがあった。龍夜直伝の特別な技が。
「翔太、兄ぃの直伝の技があります。失敗すれば元も子もありませんが、使いますか?」
「何もやらないで負けるより、派手にやろうぜ!」
「翔太らしいです。では、呪文を教えますので覚えてください。」
【主の命令です。光学迷彩で僕らを不可視の状態に。トゥアル・デ・ブライヤー】
光のオーラが、魔獣ごと慶斗や翔太を覆い隠す。慶斗の属性、“光”を使った虚像の効果で、ある程度の時間なら相手に場所を悟られないのだ。
「どこだ?」
「兄貴、落ち着いてくだせぇ。このフィールドからは逃げられやせん。あの併せ技を使えば何とか成りやすぜ!」
「うむ。」
【主の命令でさぁ!相手を打ち負かす強固な球となれ!ボーラ・デ・メタル】
【主より命令する。仲間を以って敵を殴り飛ばせ。ペガル・デ・ビオレンシア】
兄貴と呼ばれた男子の召還した魔獣が、もう一人のアルマジロ型魔獣を持ち上げる。そのまま腕を振り回し始めた。円形の競技フィールドを半周した所で、その動きは止まった。いや、止められたのだ。慶斗の張った迷彩の壁で。そしてその壁も砕け散ってしまった。
「兄貴、見つけやしたぜ!」
「うむ。」
【主の命令でさぁ!研磨されし剣よ、攻防可能な鎧を作れ!アルマ・デ・メタル】
江戸っ子口調の身長が低い方の男子が、最初に使った技を繰り出してくる。棘の生えた魔獣は、一直線に慶斗達へ向っていった。
【主の命令だ。疾風で対象を射抜け!バレ・デ・トルメンタ!】
しかし、結界を破壊したと同時に、内側の翔太が呪文を詠唱。魔獣に疾風の弾を浴びせ、後退させることに成功した。
「準備はいいですか、翔太?」
「いつでもOK。」
慶斗達は同時に呪文の詠唱を始めた。
【主の命令です。光を司りし魔獣よ、疾風の力を受け入れてください。】
【主の命令だ、風を司りし魔獣よ、光の力を受け入れろ。】
【【ユニルス!】】
次の瞬間、慶斗のエンジェルと翔太の蝙蝠が溶け合い、銀色の球体となった。そして中から首や手足、尻尾が出て来る…。白銀色の超巨体、蝙蝠の様な四枚の漆黒の羽…。しかし、それは使い古された様にボロボロである。盲目の頭を掲げ、フィールド内に響き渡る声で鳴いた。唖然とする目の前の二人。歓声を上げる周囲の観客。慶斗がチラッと見やると、龍夜が親指を立てていた。稀代の天才、朱雀龍夜が考え出した、今までの魔獣の理論を覆す業、“魔獣合成”。異なる系統の魔獣同士のみが出来る特別な儀式。まだ理論しか完成していないはずだが、慶斗と翔太によって証明されたのだ。
「慶斗、これマジでやばいぞ…。魔力がどんどん吸われてく…。」
「僕も少しきついですね…。一気に型を付けましょう。」
【主の命令です。対象に…!?】
呪文を唱えようとした瞬間、合成魔獣が地面に倒れ伏したのだ。そして体の末端から、キラキラとした粒子に変わって行く。どうやら理論上は可能の魔獣合成だが、実際には厳しい技のようだ。
「慶斗、回復を!」
【リポネルス!】
急いで慶斗が回復呪文が唱えられるが、それは叶わなかった。ほんの少しだけ粒子化が収まるが、依然として魔獣の崩壊が止められない。このままでは失格となる可能性がある。
「僕は、兄ぃとの約束を…」
その言葉を最後に、慶斗の意識は深く深く堕ちていくのだった。
「大丈夫か、慶斗?」
龍夜の声に呼ばれ、慶斗がベッドの上で目を覚ました。隣では翔太が今だ眠っている。白い壁に白い天井。どうやら保健室のようだ。
「兄ぃ、僕は…」
「すまない。魔獣合成の呪文は、まだ改良の余地が有るみたいだ。結果的には成功だったが、魔力の消費量が相当激しいみたいだな。お前を実験台にしてしまった。本当にすまない。」
頭を下げる龍夜。彼は慶斗なら合成魔獣の理論を証明できると推測していた。なぜなら、理論の完成時点で問題だったのは、魔力の消費量。呪文の質に関しては常人離れした龍夜だが、魔力の保持量は人並みなのだ。そこで目を付けたのが自分の弟、慶斗。慶斗は戦闘でこそ龍夜に負けてしまうが、魔力の保持量は異常なのだ。本人は気付く様子は無いが…。しかし、その慶斗でも合成魔獣は負担だった。
「兄ぃ、謝らないでください。僕こそ謝らなくてはいけません。兄ぃとの約束、Sクラスに入ることは出来ませんでした。ごめんなさい…。」
「あぁ、その事か。学園長から配属クラスの決定通知を預かってる。勝手に開けた。Sクラス合格おめでとう。」
一瞬慶斗がポカンとした顔をする。その顔には、“トーナメントで優勝できなかったのに、何故ですか?”と書かれている。それを悟ってか、龍夜は話を切り出した。
「別に優勝する必要は無いんだよ。確かにトーナメントで良い順位に入れば配属クラスだって良くなる。だけどな、勝ち負けだけが審査対象では無いってことさ。」
龍夜が言うには、“連携の良さ”や“使う征儀のレベル”も審査対象なのだ。それを見極める為にチーム戦を組んで試験を行う。即ち、史上初の合成魔獣をやってのけた慶斗達に対する審査ポイントは非常に高かった事になる。
「でも、決勝戦の相手だって連携が凄かったです。」
「あぁ、天馬のコンビか。学園長もSランクに入れたがってたが、当人達が拒否したんだよ。“あのコンビに完全に勝てたら、Sランクに呼んでくだせぇ”って言ってた。んで、Sクラスは第二ブロックの優勝者を含めて4人だってさ。確かにこの学園は少数精鋭だから納得が行く。…さて、お前らも十分ん休んだろ?俺は教室に戻る。間違えずにSランクの教室に行くんだぞ。勿論青龍を連れてな。あぁ、それと。今日は帰り遅くなるから適当に晩飯食っておいてくれ。」
それだけ言い残して、龍夜は去って行った。
「兄ぃはまた玲奈さんとですか。」
そう呟きながらも、慶斗は翔太を起こそうとする。魔力が慶斗に比べて少ない翔太は、今だ眠りながら魔力回復に努めているようだった。
「あら、起きたのね?」
白衣を着た女性が入ってくる。保険医だろうと気付くのにそう時間は掛からなかった。慶斗が事情を説明すると、なにやら怪しげな薬を取り出し、翔太に飲ませ始める。
「元気100倍、ショウタマ~ン!」
どうやら回復は終わったらしい。だが、心なしか頭がパーになっているようだ…。“直ぐ元に戻るわ”と言う保険医の言葉を信じて、慶斗は半ば翔太を引き摺るように保健室を後にするのだった。Sランクの教室を目指して。
解説
・ユニルス→スペイン系とギリシア系の魔獣を合成させる呪文。慶斗の兄、龍夜が考えた。ただし、魔力消費量に問題あり。