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誘拐予告

 留美の誘拐予告状が届いた翌日、龍夜と慶斗は倉本家の屋敷へ再び赴いていた。呼んだのは留美の父親。一室で爺も含めた四人が話し合っている。

「犯行予告はいつですか?」

「9月1日、午前10時だそうだ。」

 予告状には、“倉本留美を9月1日午前10時に誘拐する。警察でも何でも呼ぶといい。だが、此方は征儀伝だ。決して安心できないことをご忠告しよう。”書かれている。今日はまだ8月の上旬。予告日まで一ヶ月近くはあるのだ。しかも、犯人は自分を征儀伝だと明かしている。その上、自ら警察を呼ぶことを推奨している。

「留美には話したんですか?」

「いや、無駄な心配をさせる訳にはいかないからな。秘密にしようと思う。」

 その答えにホッと安堵する慶斗。彼としても、妹分の留美には負担を掛けたくないのだ。今頃彼女は自分の部屋で勉強でもしているのだろう。

「もしかしたら気付いていると思うが、私が君達を呼んだのは他でもない。幼馴染として、留美は君達兄弟に信頼を置いている。二人で留美を近い所で護衛して欲しい。頼む。コレばかりは二人にしか頼めない。」

 無論、二人に断る理由はない。幼馴染の危険を分かっていながら見過ごす訳にはいかない。そして、二人は征儀専門の学園で学ぶ学生。神童兄弟とも呼ばれる二人は、護衛にするには十分な能力を持っている。

「あ、でもその日って、僕達の学園が始まる日ですよね?」

 慶斗言う事は確かだ。いくら二人でも学生と言う身分がある以上、学園に戻る必要がある。だが、そこは龍夜の“学園長に掛け合う”と言った意見で解決される事となった。

「ですが、警察の協力も必ず仰いでください。出来るだけの防衛線を張るんです。」

「勿論だ。既に警察には事情を説明してある。」

 本来なら、征儀伝を相手にする場合、征儀伝の味方を付けるべきなのだろう。だが、法律上、征儀伝同士がその様な組織を作る事は禁止されている。よって、世間に公にならない程度で、一般市民から征儀伝の有志を募るそうだ。

 しかし、相手が本当に征儀伝なのであろうか?もしかしたら、征儀伝の名を語る一般の人間が正体だとも考えられる。そして、犯人の目的が最大の謎だ。留美の父親に個人的な恨みを持つ者かも知れない。ただ目立ちたいと言う迷惑な理由かも知れない。だが、決定的なものは見つからないのであった。


「今日はこれでお開きにするとしよう。君達の都合さえつけば、こんな家でよければ、毎日でも遊びに来てくれ。留美が大歓迎するよ。では、私は仕事に戻る。車を準備をしてくれ。」

「はっ、かしこまりました。」

 相談事が終わり、二人は並んで廊下を歩く。

「慶斗、後はお前の自由だ。俺は家に帰ろうと思う。」

「僕は折角なので、留美に顔を出して行こうと思います。…兄ぃ、留美を狙ってる征儀伝ですが…。」

「俺も言おうと思っていた。中国系征儀伝の可能性が否めない事はない。」

「えぇ。どちらにしろ理由は分かりませんが、もし本当に中国系征儀伝が留美を狙ってるなら、もっと警戒しなくちゃいけませんね。」

 やがて、二人はそれぞれ玄関ホールや、留美の部屋へと慣れた足取りで向い始める。

「留美は、僕が絶対に守って見せます。」


 留美の部屋の前で平静を装い、ドアをノックする。

「留美、僕です。慶斗です。入ってもいいですか?」

 すると、一瞬にしてドアが開かれて、留美が抱きついて来た。

「慶斗お兄様、遅いよ。今日も遊びに来てくれてる、って爺から聞いててウズウズしてたんだから。」

「ごめんなさい。ちょっとだけお話をしていまして。何かして遊びますか?」

「うん。立ち話も難だから、部屋に入っていいよ。」

 招き入れられた慶斗。白を基調とした壁紙の部屋は、まるで留美自身の魔獣をイメージしたかのようだった。椅子を勧められ、留美はベッドに腰掛ける。

「今誰かにお菓子とお茶を頼みますね。」

「いいえ、大丈夫です。直ぐに今日は帰りますから。」

 すると、留美は悲しそうな目をして慶斗を見始める。小さい頃はこの眼を見て何でも言う事を聞いてしまう慶斗だったが、今では慣れてしまったせいか、幼少期ほど効果はない。だが、根は留美に対して甘い慶斗。

「な、泣かないでください。留美…。」

「じゃぁ、今日は泊まってくれる?ねぇ、夏休み中ずっとこの家にいようよ。」

 留美の父親からも歓迎はされているので、泊まろうと思えば泊まれるのだが、慶斗本人が兄ぃを慕って止まない為、それは難しい決断だった。

「保留にさせてください。」

 ムスゥッと頬を膨らませる留美。視線を外した慶斗。ふと見た彼女の机には紙が何枚も散乱している。宿題をやっているようでは無いみたいだ。気になって机に近寄る。

「あ、その紙…」

「ごめんなさい。見ちゃいけませんでした?」

「違うよ。いずれ龍夜お兄様にも見てもらうつもりだったから、予め慶斗お兄様にも是非見て欲しいな。」

 手に取って、紙に書かれた内容を見る。並ぶアルファベットと記号。魔方陣の文様。

「これって…、呪文を構成してるんですか?」

「うん、恥ずかしいけどね…。留美もお兄様方みたいにオリジナルのを作ってみたの。自分の特性を活かせる様に。」

 留美の特性と言えば、多大なる集中力を用い、放った呪文の攻撃をコントロールする事にある。昨日の様に、本来直進するはずの攻撃の軌道を曲げる事までできるのだ。

「普通の攻撃を発展させて、留美に使いやすい工夫を加えてみたの。」

 確かに、龍夜ほどの知識は無いが、慶斗の知識を以って見てもそれは分かる。

「実際に練習はしたんですか?」

「秘密で何回か。でも、まだ呪文に改良が必要みたいなの。」

「僕でよかったら手伝いますよ。兄ぃほどじゃありませんが、僕も呪文の開発はしていますから。」

 そういうと、留美は目を輝かせて慶斗に抱きついて来た。

「ありがとう、慶斗お兄様。さぁ、早速練習しましょう!」

「え、今からですか!?」

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