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魔力発散

 完全に気絶している翔太を寝かせながら、龍夜は先程の事を思い出していた。呪文さえ知らない筈の留美が、一発で装甲征儀アルマライズを使用したのだ。彼女の魔獣、天使の羽がそのまま装着された留美は、音速越えではないかと言うスピードで翔太を救出した。そんな前代未聞な事を行った彼女は、慶斗に寄りかかって休んでいる。どうやら魔力を使い過ぎているようだ。


「留美、さっきは翔太を助けてくれてありがとう。」

「慶斗お兄様に褒められて嬉しいよ。」

 龍夜がそんな二人の所へ近寄ってきた。

「留美、どうやって装甲征儀アルマライズを使った?疲れてる所悪いが、コレだけは教えてくれ。」

 やはり呪文を開発した本人として気になるのだろう。留美は口を開いて喋り出した。

「あの時、翔太さんが見た事のない呪文を使ってたから、興味が湧いたんだ。“魔獣を犠牲にして武器を得る”って事は、その時感覚的に分かったんだ。それで、何となくだけど、翔太さんが落ちた時に“私がさっきの呪文を使えば翔太さんを救える”って思ったんだ…」

 この時、改めて留美の洞察力の高さと、初めての征儀の技を使いこなすと言うセンスの高さに感服する二人だった。その言葉を契機に、留美は眠り込んでしまう。魔力消費は、基本的に自分の休養によって回復させるしか方法がない。眠ってしまったのも、征儀伝としての自己防衛本能からだろうか?

「慶斗、留美を休ませてやれ。今日は帰ろう。俺は青龍を起こしておくから。」

「はい。」

 その後、爺に留美を任せ、翔太を叩き起こす。危うく彼を死なせてしまう所であった事を詫びる慶斗。だが、翔太自身は特に何とも思っていないようで、逆にピンチを留美に助けられて面目丸潰れだった。


「そうだ、青龍にお前のあの技について教えたか?」

 帰り道。翔太と別れた後で、龍夜が思いついた様に言う。“あの技”と言われ、少し思案していた慶斗。やがて、それがアルマライズの上で翔太を吹き飛ばした魔法攻撃だと理解したようだ。

「あっ、まだ彼には言ってませんでした。もしかしたら翔太は、僕が中国系征儀伝だと思ったかもしれませんね…。」

「俺の推論だが、無属性呪文ノー・ティポを参考にしたんだよな?」

 龍夜が確認を求める様に聞いてくる。慶斗もうなずいた。そう、先程のあの技は光属性の攻撃ではない。以前、龍夜のクラスメイトである中里類が使った“モルディス”と同じく、属性を利用した攻撃ではないのだ。ヒントは慶斗の瞳が赤く染まった事にある。

 翔太を吹き飛ばしたあの衝撃、あれは純粋な魔力を発散し、得られたエネルギーをぶつけただけの物。人を吹き飛ばす為に、慶斗は一瞬だけ魔力を大量に開放したのだ。彼だからこそできる豪快な技である。

「純粋な魔力の開放。コレは中国系征儀伝との戦いに使えるかもしれないな。例えば、魔力を弾丸の形に…。いや、既に属性攻撃の領域に入っているから無理か…。」

 早速悩み始めた龍夜。そんな兄を見て慶斗は苦笑い気味だ。やはり変わらない、そしてこれからも兄は変わらずに居てくれるだろうと。

「そう言えば兄ぃ。」

「どうした?」

「魔獣合成なのですが、改良は進みましたか?良ければ僕がお手伝いします。兄ぃと僕は征儀の系統が違いますから、夏休み中に練習できますよ?」

 慶斗のクラス決定試験に置いて初披露された呪文、魔獣合成ユニルス。多大な魔力消費が問題となり、今の今まで使う事はなかった。呪文の改良も、中国系征儀伝の出現の為に、龍夜が装甲征儀アルマライズを優先させたので、進んでいない。アルマライズの魔力消費の問題だが、魔力密度を上げて消失を防ぐ事で魔力消費を抑えている。つまり、長時間魔力を注ぐのではなく、短い時間でそれなりの量の魔力を練り固める。それは壊れにくくなって武器として練成されるのだった。“魔力の練り加減”が重視されるのも、この為である。

「やっぱり、合成に使用する魔力密度を上げるのですか?」

「いや、武器と魔獣の大きさは桁外れに違う。それでは消費量の問題は解決しないんだ。だが、ある程度の見当ならついている。考えてみれば、簡単な話だったよ。」

「えぇ!?合成魔獣ユニルスが使えるんですか?流石は兄ぃです!」

 キャッキャとしてはしゃぐ慶斗。まだまだ彼も子供だった。

「もう少し熟考する必要があるけどな。夏休み中に終わらせるつもりだ。それが終わったら、二人で使ってみよう。」

「はいです!」



 二人が家につく頃、留美の住む倉本家の屋敷に一通の手紙が届いた。届けたのは飛行タイプの魔獣に乗った征儀伝。この様に、現代社会には征儀伝の力が活用されている仕事もあるのだ。爺がその手紙を開けて読む。留美の父親宛の手紙は、爺が一度目を通すことが義務付けられている。場合によっては小型の爆弾さえ仕込まれている可能性がある為だ。今回の手紙は特に不審な点は無く、丁寧に折られた手紙を開いた爺。いつもならサッと目を通して、不要なダイレクトメールならゴミ箱へ直行させている。しかし、爺の表情が明らかに変わった。わなわなと体を震わせ、直ぐに主の元へと電話を掛ける。


「どうした?」

「倉本様!大変でございます。留美お嬢様の誘拐予告が!」

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