表情∞ アグン
昨日の宣言どおり、期間限定かもしれませんが、再び毎日投稿をさせていただきます。実を言えば、まだ始まっていない夏休みの話は、私のストックでは終わってるのです。たぶんですが、2週間は毎日投稿を続けられるのではないかと?
空中を滑る様にして、可憐が龍夜に迫る。既にガントレットを構えている。龍夜も刀を二本に増やし、攻撃に耐えようとした。可憐の太刀筋を見極め、そこに刀を入れる。力は龍夜の方が強いため、一度受け止めてしまえば弾くのは簡単だった。そのまま龍夜が追い討ちを掛けようとする。しかし可憐も空中を自由自在に動き、龍夜の攻撃を当てさせない。龍夜の刀をガントレットで受け、蹴りを入れる。
「はぁっ!」
蹴りを避け、直ぐに二刀流で可憐に刀を振り下ろす。しかし、可憐はガントレットでそれを挟み込むように絡め取った。
「引っかかった。」
電流をガントレットを通して電流を流す。観客席は唖然とした。人間相手にあれを使えば、龍夜が感電死する可能性がある。まるで、可憐が龍夜を殺さんとする勢いだ。
「甘いな。俺の属性は闇。電撃はあまり通じないんだよ。」
刀を握る龍夜は涼しい顔をしている。闇が電撃を吸収したため、龍夜には届いていないのだ。
「中国系征儀伝との決着に使おうと思ってた呪文、お前に一瞬だけ使ってやる。」
【主の命令だ。力の全てを契約者に譲渡しろ。アルマライズ・エンシマ!】
呪文を唱えた途端、異常が起こった。龍夜の刀が消え、可憐のガントレットが疎かになる。そのままガントレットを振り下ろそうとする可憐。しかしだった、龍夜を覆う様に大量の闇が噴き出し、可憐を弾き飛ばしたのだ。征儀三重装甲も消えてしまった可憐。地面に叩き付けられる。観客は視線を龍夜に移した。闇のオーラが龍夜を覆い尽くし、闇色のローブの様になっている。そして、彼の目は燃えるような赤だった。見えないが、魔石も真紅に変わっているに違いない。魔力大量開放をしている証拠である。だが、彼は直ぐにその状態を解除した。
【エクスジェンシア!】
再びドラゴンを召喚。攻撃態勢に移る。今の可憐には身を守る術がない。
【アグン・デ・オスクリード!】
闇の矢が大量に降り注ぐ。龍夜はこの時を待っていた。ここまで追い詰められれば、可憐はボロを出し、何かしらのアクションを起こすだろうと。そして、それは中国系征儀伝との関わりを証明する、動かぬ証拠になるはずだと。
【エスクード・デ・ブライヤー!】
しかしだった。龍夜の魔獣が放った攻撃は、誰かの張ったバリアで防がれてしまう。輝く光の壁。このフィールド上において、光属性の征儀伝は一人しかいない。龍夜は観客席を見上げた。
「兄ぃ、何を考えているんですか!」
自分の横に魔獣を従えた慶斗が立っていた。魔獣を使ってフィールドまで降りてくる。
「慶斗、なんで邪魔するんだ!」
「兄ぃ、何か変です!なんで戦闘不能状態の泉さんを襲うんですか!」
「慶斗には関係ない。」
「関係あります!兄ぃは僕の兄ぃですし、泉さんは僕のクラスメートです。」
可憐が起き上がる。それを見た龍夜は刀を持ち出し、可憐に切りかかろうとする。
【アルマライズ!】
しかし、慶斗も刀を召喚し、龍夜の斬撃を受け止めた。可憐の目の前である。鍔迫り合いをしながらも、慶斗は必死で可憐を守ろうとしている。当の可憐は、魔力の使い過ぎの為か、動かずにいた。
「よせ、慶斗。そいつは…中国系征儀伝かも知れないんだぞ!」
「兄ぃ!」
思わず龍夜が叫んでしまう。それを阻止しようと同じく叫んだ慶斗の力が、一瞬弱まってしまう。模擬場の全員が驚いた。龍夜は慶斗を力任せに退かし、剣先を可憐に向ける。
「正直に言え、お前の正体は何者だ?」
「私は…、中国系征儀伝じゃない」
無実を言い張る可憐。だが、龍夜が不審点を上げていくに連れ、周囲の皆が納得した表情を見せるのだ。可憐の親友である凪沙でさえも、思いつく点があった。
「確かに、言われてみれば泉って時々いなくなるよな…。」
翔太が呟く。可憐に味方はいない様に思えた。
「僕は、泉さんを信じます。彼女が違うって言ってるんです。何で信じないんですか!」
慶斗が再び可憐の前に立つ。両手を広げて立ちはだかる。龍夜が刀を下ろした。
「ならばどうしろと言うんだ?本当にコイツが中国系だったら取り返しのつかない事になる。」
「なら、僕が責任を持ちます。僕が、彼女の無実を証明します。」
腕を掲げたまま、まっすぐ龍夜を見て慶斗が言った。睨むでもなく、面倒そうな顔をするでもない。強い意志の元、この様な行動をしているのだ。
「お前が危険にさらされる。この前決めたんだ。お前に負担を掛けないと。兄として弟を守らなくてはならないんだからな。」
「僕は大丈夫です。絶対に危険な事になんかなりません。だって、僕は泉さんを信じてますから。」
“そうかよ”と一言呟き、龍夜は刀を完全に消した。龍夜に戦う意思がないと思い、慶斗は可憐に駆け寄る。
「泉さん、大丈夫ですか?」
「うん…」
そのまま可憐に肩を貸すと、慶斗は歩き出した。皆はそれを何も言わずに見送る。分からないのだ。慶斗の言葉は正しいかもしれない。だが、完全に信じきれることができない。慶斗の様に一から十まで信じ切れないのだった。
「ちょっと、止まって…」
「あ、ごめん。大丈夫?」
「うん…」
可憐が慶斗に背を向けた。しかし、数秒で振り向いた。
「さっきはありがとう。私を信じてくれて。助かったよ、本当にありがとう。」
慶斗は少し唖然とした顔をする。可憐が、笑っていたのだ。嫌味じゃない、心からの笑顔でニッコリと笑っていた。目の前の光景が信じられないと言った感じの慶斗。そんな顔を見て可憐はムッとする。一つ一つの動作が名前の通り、“可憐”だった。しかし、それも束の間、気付けば可憐はいつもの無表情に戻っていた。
「泉さん…?」
「今のは忘れて。それに、可憐でいい。」
それ以降、可憐は全く喋らなくなってしまう。彼女を寮まで送り届け、慶斗も自分の部屋へと向った。部屋のドアを開けると、トランクが一つ、龍夜が一人。
「兄ぃ?これは何ですか?」
「慶斗、お前は自分で言ったよな?泉可憐の行いに責任を持つと。」
「はい。」
イマイチ龍夜の言っている事が飲み込めない慶斗。
「学園長に頼み込んで許可をもらった。」
一枚の紙を慶斗に見せた。それには、“朱雀慶斗を泉可憐の監視役に任命する。よって、本日付を以って、朱雀龍夜を泉可憐の部屋に住まわせる事を命ずる。”と書かれていた。
「荷物は用意しておいた。さっさと行って来い。」
さてさて、慶斗の運命はいかに?