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追跡〆 コレル

「はい。計画は順調です。朱雀龍夜ですが、呪文をいくつか開発する以外は特に。はい、仰せのままに。」

 電話を切る少女。人気のない廊下の片隅で小さく話していた。計画は順調、龍夜についても話しているようだ。

「泉さん?」

 ふと聞こえた声。振り返ると、そこにいたのは慶斗だった。不思議そうな顔をして可憐を見つめている。

「どうしたんですか?誰かに電話でも…」

「あなたには関係ない。」

 その場を早足で立ち去ってしまう可憐。いきなり慶斗に話し掛けられたのにも関わらず、表情一つ崩さず、無表情を貫き通していた。彼女の後姿を見る慶斗。しかし、彼女の背中は何も語ってはいなかった。



 放課後のこと、ほぼ全員の生徒が帰った中で、夕日の差す校舎を可憐が歩いていた。前だけを向き、廊下の一番奥だけを見つめて歩き続ける可憐。その後ろをつける人影があった。朱雀龍夜、慶斗の兄その人だ。昼休みに可憐を疑うことを慶斗に話し、尾行することに決めたらしい。

「どこへ行くつもりだ?この先にあるのは…」

 1年以上をこの学園で過ごした経験を頼りに、龍夜は可憐の目的地を絞る。各学年、各クラスの教室には用がないだろう。あるとすれば…

「保健室か?」

 そこで龍夜の記憶が繋がる。一ヶ月ほど前の、最初のSクラス有志の警護組織が始めて集まった時、慶斗が倒れた為、保健室へ連れ込んだ。その時に、可憐が奥の部屋へ行くと言う奇行を起こした。保健室と可憐に何の関係があるのだろうか?

「もしかして、保険医も中国系征儀伝の…」

 龍夜の頭に嫌な予感が横切る。そうなると、この学校にはそれなりの数の中国系征儀伝かその仲間がいる事となる。可憐が時々失踪するのは、その様な仲間とコンタクトをとる為だと考えれば納得がいくのだ。

 龍夜の予想通り、可憐は保健室のドアを叩いた。中から保険医が出てきて、彼女を招き入れる。可憐は保健室の中に入ってしまった。急いで保健室のドアに耳を当てるが、奥の部屋に入ったのだろうか全く会話が聞こえない。意を決した龍夜が保健室の中に入りこむ。誰もいない保健室、やはり二人は奥の部屋なのだろう。その部屋に続くドアに耳を当てた。

「はい、これ。」

「確かに受け取りました。」

 短い会話だった。椅子を立ってドアに近付く音。龍夜は焦った。いくらなんでも話が短すぎる。これから保健室を出るのは時間的に無理。振り返り、身を隠す場所を探した。薬品棚が目に入る。その陰に隠れる事にした龍夜。

 しばらくして保健室のドアが閉じられる。しかしだった。

「誰かいるんでしょ。さっさと出て来なさい。」

 保険医の声だった。龍夜は内心舌打ちをしながらも影から出てくる。あのまま隠れていた所で、事態は好転するとは思えなかったからだ。

「またあなたなのね?今度はストーカー?稀代の天才が聞いて呆れるわね。それに、あの泉って娘も、あなたの追跡には気付いていたのよ。」

 会話が異常に短いのは、自分をつけている存在を知っていたから、と今更になって気付く龍夜。いつでも身構えられるように、生徒手帳に手を伸ばした。

「怖い顔ね。武器で私に襲い掛かるつもりかしら?」

「一つ聞きます。泉可憐とあなたは、どんな関係なんですか?生徒と保険医では済まされませんよね?わざわざ放課後になってから来るんですから。」

 中国系征儀伝と言う言葉は使わない龍夜。相手を逆上させてしまう可能性もあるからだ。保険医も一つため息をついた。

「私だって知らないわよ。秘密がある事は認めるけどね。」

 顔をニヤリとさせる。“妖艶”と言う言葉が似合いそうなその笑みは、大抵の男なら見とれてしまいそうだった。しかし、龍夜は自分の中にある疑いを更に強めるのだった。

「俺はこれで帰ります。失礼しました。」

「じゃぁね。天才君。弟を大切にするのよ。それに、一つ忠告しておくわ。正義感が強いのはいい事だけど、あまり深くまで首を突っ込む事には感心しないわよ。」

「龍の首が長いのは元々ですから。」

 自分の名前と己の魔獣にかけて言った冗談なのかは分からないが、龍夜の目は諦めないと物語っていた。保険医も“あら、面白いジョークね”などと言っている。二人はその言葉を以って、それぞれの方向へと向っていったのだった。



 どこかの路地裏。征儀伝の遺体を足元に二人の影が立っていた。その近くにはガラス質の粉がばら撒かれている。

「おい、何故また征儀伝殺しやってるんだよ。“あの人”に迷惑が掛かる。」

「いいじゃねぇかよ。力が使いたくてウズウズしてるんだ。」

「そんな私情で計画を乱すな。我々はあの人に選ばれた存在。それが計画を踏みにじるな。」

「そう硬くなるなって。」

 この二人、実を言えば中国系征儀伝である。今夜も殺しをしていたらしい。

「んで、“あいつ”はどうなってんの?最近姿見ないけど。」

「あいつは我らの中で一番力を与えられている。今は情報収集をしながら、計画の始動を待っている。」

 “あいつ”と呼ばれた存在が誰なのか。それは誰にも分からない。しかし、彼らよりも力を持っている事が伺える。将来、スペイン・ギリシア系征儀伝の脅威になりうる事は必須だろう。



「また、この感覚…。薬、飲まなくちゃ…」

 胸を押さえて蹲る少女。やっとの事で棚から薬のビンを取る。またもや薬としては規定量以上の量を出した。それを一気に飲み込む。痛みが引いてきたのか、立ち上がってベッドに座る。

「私はこのままでいいのかな…。本当に辛いよ…。この薬だって止めたいのに、もう、一生止められない…。計画が終わったら、私はどうせ用済み。私、本当にどうすればいいの?」

 自問する少女。自然と涙が溢れてきた。枕を抱きかかえて嗚咽を留める。だけど、いつまで経っても涙は止まりそうにない。ギュッと枕を抱きしめて横になる。その内眠ってしまったのか、彼女はスヤスヤと寝息を立て始めた。しかし、目に浮かぶ涙は留まる事を知らないのであった…。

はい。ここで伏線をもう一つ回収しました。物語の第一話の一番最初に電話をかけていた少女、覚えていますか?正体は可憐でした。え?分かってた?そうですか…


時々出てくる別な“少女”。毎回薬飲んでいますね。これも伏線です。今回は泣いていました。安易に可憐だと決め付けるにはまだ早いかも…


新しい伏線。“あの人”と“あいつ”。どうやら、“あの人”とは中国系征儀伝の首領的な立場だと思われます。そして、“あいつ”とは誰なのか?今は情報収集を行っているそうですが…。しかも、中国系征儀伝の中でも強い力を持っている。今の所ぴったり当てはまるキャラといえば…


そのほかにも、この話の真相に近づくヒントや鍵がいくつか置かれています。次回、薬を飲んでいる少女の正体が分かるかも…(ニヤリ)


そう言えば、可憐ばかり疑ってますけど、それなりに他のメンバーだって怪しいんですよ?それでは、次回の投稿をお楽しみに…

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