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疑惑Θ ドルミル

 “模擬場破壊事件”から数週間が経った。普通の学校らしく、夏休みもある南陽学園は、その夏休みを数週間後にして生徒達が浮き立っている様子。Sクラスも例外ではなく、夏休みの予定を話し合っていた。

「慶斗たちはどうするんだ?夏休み中。」

「僕と兄ぃは一度家に帰ります。両親にも久しぶりに顔を出さなくてはならないので。翔太はどうするんですか?」

「俺もそんな所だな。」

「私はね、カレンちゃんと慶斗っちに似合いそうな服を探したり、作ったり…」

 “結構ですよ、凪沙。”と速攻で返事をする慶斗。どうやら、凪沙は今だ懲りていない模様。しかし、あの事件の日に何が起こったのだろうか?それは誰も知る事がなかった。

「泉さんは?」

「特に予定はない。あなた達に話す義理もない。」

 いつもの事ながら、冷ややかな返事である。“もう、秘密好きなんだから!”と騒ぐ凪沙。しかし、慶斗と翔太は悩んだ様な顔をする。人見知りが激しいとしては、可憐と言う女子はそれなりに人と話す。まぁ的外れな回答が多いのは置いておくとしよう。しかし、人と関わりたくないといった感じなのだ。その上、時々どこかへ消えてしまう事もしばしば。凪沙でも詳しくは知らないと言う。

 慶斗たちが顔を見合わせていると、スッと可憐が立ち上がった。無言で教室を抜けだそうとする。それを追って慶斗たちも教室を出た。

「あれ~?慶斗っちどこ行くの?」

 それを二人が人差し指を口に当てて遮る。理由を説明している暇が無い。しかし、凪沙もついてきた。どうやら、彼女の中ではこの行動が“面白い事”と認定されたのだろう。

 壁を背にして、柱の陰に隠れながらも可憐を追う。どうやら彼女には気付かれていない模様。三人は更に後を追う。そして、着いた先が…

「なんだよ。トイレか…」

 可憐の目的地、それは化粧室だった。残念そうな顔をする翔太。これ以上後を追う必要もないと思ったのか、三人は教室へ戻って行く。しかし、化粧室の入り口から三人の立ち去る姿を確認する可憐の視線には、誰一人気付くことは無かった。


「あぁ!腹減った!」

 午前中の授業も終わり、全員で食堂に向っている。この時も可憐の挙動には注意を払っているのだが、特に怪しい所は無い。

「あっ、私図書室に行かなくちゃ。ゴメンね、可憐ちゃん。慶斗っち、しょうたん。バイバ~イ」

 そう言って突然何処かへ向かって行った凪沙。

「椎名も本読むんだな。」

「それは偏見ですよ、翔太。」

「そう言えばさ、どうしてお前は急に椎名を名前で呼び始めたんだ?」

「え、えっと。それはですね…。ひ、秘密です。」

 なにやら顔を赤くする慶斗。それを見てニヤニヤする翔太。慶斗が慌てふためきながら昼食を促したので、その話は一旦お流れとなった。

「いただきます!」

 適当に注文した物を食べる二人。可憐は一人離れて座っていた。慶斗が誘ったのだが、“いい”の二文字で拒絶されしまった。慶斗も深追いをはよくないと思ったのか、それ以上は誘わなかったのだが…。

「お、慶斗に青龍。ここ座っていいか?」

 来たのは龍夜だった。彼も自分の昼食を持っている。二人は龍夜を大歓迎した。昼食を食べながら、最近の学園での出来事を話したりしていたのだが…。

「なぁ、あそこに座ってる泉だけどさ…」

 視線だけで彼女を見やる龍夜。そのまま話を続けた。

「あいつ、時々奇怪な行動してないか?」

 席を立つ可憐。食器を戻して食堂を出た所で凪沙が現れた。可憐を見つけるなり、可愛いを連発する彼女。対して可憐はいつもの無表情だった。慶斗達も慶斗達で、時々いなくなる事、人と関わりを持とうとしない事を話した。少し考え込んでから、龍夜は切り出した。

「お前らには話しておくべきだと思う。これはまだ推論でしかないが…。俺は、泉可憐が中国系征儀伝。またはその手先じゃないかと考えている。」

 龍夜の持論に二人は驚いた。龍夜は話を続ける。

「以前の戦いを見ていて不思議に思ったんだ。彼女は色々征儀伝としての限界を超えている。装甲征儀アルマライズをした上での魔術の使用。最終的には魔獣を素手で倒した。もし、中国系征儀伝の身体能力向上をアルマライズに置き換えれば、泉可憐の戦い方は中国系そのものだ。」

 確かに納得できない事は無い。もし可憐自身が中国系でないとしても、何かしらの施しを受けている可能性がある。

「泉が、中国系征儀伝の仲間…」

「待ってください!兄ぃ。泉さんは、僕と凪沙が本物の中国系征儀伝に襲われた時に守ってくれたんです。彼女自身も怪我を負いました。」

 あの事件の日、確かに泉はピンチを救った。慶斗の言う通り、彼女も怪我を負ったが…

「お前の話を聞く限り、泉は相当都合のいい時に現れたんだよな?」

「はい…。僕らが完全に押されてる時でした…」

「タイミングが良すぎるとは思わないのか?」

「偶然ですよ。きっと。それに泉さんも押されてました。」

「それが仕組まれた演技だとしたら?」

 龍夜の言い分はこうだ。中国系征儀伝と結託している可憐は、あらかじめの打ち合わせ通りに動いていた。そしてあの日、慶斗達を助けると見せ掛けた演技をしたと言うのだ。確かに筋が通る話である。今のところ龍夜は慶斗と翔太と学園長にしか話していないが、広められば、完全にその話は信じられるのだろう。なにせ、“朱雀龍夜”の言う事なのだから。慶斗達は何も言い返せなかった。一生懸命龍夜の見解の穴を探そうとしたが、見つからない。

「俺は泉の事を調べてみる。お前らも気になる事があったら、俺に教えろ。じゃぁな。」

 空になった食器を持って、龍夜は立ち去ってしまった。

「あれあれ~?なんで暗い顔をしているのかなぁ~?」

 龍夜と入れ替わりに来たのは、図書館から戻ってきたらしい凪沙だった。その手には、自分の昼食を載せたトレーを持っている。

「え、いやいや。特に何でもないですよ、凪沙。あれ?本は借りなかったんですか?」

 慌てて取り付くろう慶斗。図書室帰りなのに本を持っていない事を指摘すると、“気に入ったファッション雑誌が無かったんだ。折角可憐ちゃんと慶斗っちの新しい服の参考にしようと思ったのに♪”と返される。背中に旋律の走った慶斗は、それ以上その話題を続けるのをやめた。そして、今さっき龍夜が話した事も言うべきではないだろうと。付き合い方はどうあれ、凪沙は可憐の友達である事には変わりないのだ。今は話すべきではないだろうと思う慶斗と翔太であった。

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