表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/46

名前ю トゥアル

 最初の攻撃が利いた事で騒ぐDクラスだが、やはりSクラスの翔太には負けてしまった。これが実力の差と言うべきか。

「これでSクラスの2連勝だな。そろそろ奢る腹括ったらどうだ?」

「まだだ!こっちは一勝でもすれば勝ちなんだ。お前、余裕だろ?そんなに余裕なら例え5人以上で掛かっても大丈夫なはずだよな?」

 なにやら大人気ない会話を再開し始めたSとDクラスの教師。会話だけ見れば子供の口喧嘩である。

「なんだ、その顔見ると無理みたいだな。ま、所詮Sクラスって言ってもその程度のレベルか。」

「くっ…。いいだろう、受けてやるよ。こっちの朱雀が相手になってやる。十人一気に掛かって来いよ!」

 戦うのは自分では無いと言うのに、自信満々に宣言するSクラス教師。それを聞いてニンマリとするDクラス教師は、自分のクラスに言った。

「お前ら、十人一気に掛かって来いだとよ。残った奴ら全員出て来い!」

 それを聞いたDクラス。狂喜乱舞と言う言葉が似合う顔で出てきた。Sクラスからも当然の如く慶斗が呼ばれる。やはり、いまだ女装は続いているのだが…。

「先生!僕一人で10人も相手できません!」

 慶斗が教師に反論するのだが、

「為せば成る。」

 と一蹴されてしまった。

「せめて、この格好だけでも。恥ずかしいです…」

「だめ。因みに負けたら、ずっと着てもらう約束だよ。」

 笑顔で凪沙は言うが、慶斗には死刑宣言に聞こえたと言う。しかし、慶斗は逆転の発想を思いついた。

「そうです。この勝負に勝てれば、きっと僕の制服を返してもらえるに違いありません。勝つしかありません。」

 そう呟いてフィールドへと脚を進める。既に揃っているDクラスの生徒は怪訝な顔をした。自分たちの教師からは、相手は朱雀龍夜のと聞いている。しかし、今目の前に立っているのは、メイド服を着た美少女なのだ。Dクラスの一人が口を開こうとするが、それは慶斗によって妨げられた。自分の白い魔石を嵌めた生徒手帳を取り出す。

「悪いけど、僕は勝たなくちゃいけないのです。制服を取り返すために。」

【エクスジェンシア】

 純白の龍、エンジェルドラゴンが姿を現した。慶斗の目は完全に据わっており、昨日の龍夜との試合ほどではないが、本気らしい。そんな姿にDクラスの男女10人は怯えきってしまう。しかし、何とか自分たちの魔獣を召喚した。

【主の命令です。森羅万象を無形と化す変革の光を見せよ。エクスプロ・デ・ブライヤー!】

 またもや上級征儀を撃ち放つ慶斗。光の筋が大量に降り注ぐ。広範囲に渡って被害を与えるそれは、地面で爆発を起こした。だが、一発の威力自体は低い為、一体も消滅していないのだが…。

「おい、何が理由か分からないが、ヤバイ程怒ってないか?」

「十人一斉攻撃だ!」

 Dクラスの全員が呪文を唱え始める。しかし、慶斗は冷静だった。

【トゥアル・デ・ブライヤー!】

 慶斗の十八番、光学迷彩で姿を眩ましてしまう。今までの相手には分が悪かったが、今回の相手には闇や暴力属性の征儀伝はいないので、効果は絶大だった。まったく姿が見えない相手に戸惑うDクラス。攻撃呪文も途中で止めてしまった。

「いいか、一斉に別々の方向へ攻撃を仕掛けるんだ。」

 一人がそう発案すると、全員が一箇所に固まる。それぞれの方向へ攻撃呪文を放った。

「あれじゃないか?」

 一人が放った攻撃が、空間に歪みを作ったのだ。水面を連想させるような波紋が広がる。

「よし、あれに一斉攻撃を!」

【ライオ・デ・ブライヤー!】

 しかし、一瞬にして迷彩の呪文が解かれ、光線が飛んでくる。直線的に進む攻撃で、3体の魔獣が消滅した。魔力を余計に注ぎ込んだ攻撃は、たとえ第三文のみの短縮呪文でも魔獣を破壊してしまったのだ。


「よし、これならいけるんじゃないか?」

 翔太が勝利を半分確信している。皆そうだった。あの力は何処から来るのかを疑問に思うのだが、十中八九、凪沙のせいだ。

【フィナーレ・デ・ブライヤー】

 必殺技級の上級征儀が発動される。最初に発動した技より威力は低いものの、吐き出された無数の光弾は十分に魔獣を消滅させる。残りは五体。やっと半分にきた。

「こ、こうなったら、あれを使うぞ。」

 龍夜に使用禁止を言い渡された、魔獣進化レクスジェンシアの呪文が慶斗の頭を過ったときだった。Dクラスの相談する声で現実に引き戻された。いったい、“あれ”とはなんであろうか?いや、先程の翔太の時の様に、騙し作戦だろうと思ったのだが…。

【ユニルス!】

 唱えた呪文は、なんと魔獣合成の呪文。二体ずつが引き込まれ、光の玉になった。

「まさか。兄ぃでもできない呪文を使うなんて…」

 しかし、慶斗の予想は外れ、光の玉にもならずに魔獣は弾けた。唖然とする契約者の4人。勿論のこと魔獣も消えてしまう。4人は失格となり、残るは一人。無理な呪文を唱えたお陰で、慶斗の勝利はほぼ確実になってしまった。

「行きます。僕は制服を取り返すのです。」

【ユニルス!】

 白銀に光る剣を握り、最後の相手に突っ走る。恐怖で動けない相手の首筋に剣を向けた。

「終わりですね。」

「勝者、Sクラス。」

「よっしゃぁ!」

 一番喜んでいたのは担任教師だったそうな。凪沙の対戦相手がいなくなってしまったが、本人は気にしていない模様だ。試合終了が告げられ、嬉しそうに慶斗は戻ってくる。

「椎名さん。勝ちましたよ。僕の制服返してください。」

「え?私は負けたらその格好を続けるって言ったけど、勝った時の事は何もいってないよ♪」

 硬直する慶斗。必死で勝ったのに、この処遇は酷い。

「あぁ、しょうがないか。メイド服は辞めて、このチャイナ服を…」

「また裏切られました…。兄ぃに続いてクラスメートにまで…。椎名さんは僕を笑い者にしようとしているのですね?分かりました。僕…」

【エクスジェンシア】

 静かに慶斗が呟いた。しかし、フィールドの全員の背中に冷たい物が走る。人間へと進化した時に失ったはずの本能が告げている。“逃げないと確実に死ぬ”と。

「皆逃げろ!」

 誰かが叫んだ瞬間、クラスアップ試験に参加していた全員が逃げた。

「うわぁ、おもしろ~い。」

 呑気な凪沙一人を残して…。この日、何が起こったのか、誰も知らない。ただし、模擬場が完全に壊滅していた。そんな中でも凪沙は無傷でいたそうな。騒ぎが収まるころ、凪沙が慶斗を引き摺るようにしてつれてくる。慶斗本人は気絶しており、三度保健室へ直行だった。一つ変わった事、それはその日を境に慶斗が凪沙を下の名前で呼び捨てにし始めたのだ。翔太でさえ下の名前で呼ばれたのは出会ってから1年経った頃。どんな魔法を使ったのかと聞かれるが、凪沙は“秘密だよ♪”で済ましてしまうのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ