偽作э アジッタ
対可憐との戦闘で、いくら大人数で掛かろうとも油断してはいけない事を悟った。やがて教師から次のDクラスチームが呼ばれる。挑戦相手は青龍翔太だった。
「さぁて、やるか!」
「頑張ってください、翔太。」
計6人がフィールド上に立った。
【【【【【エクスジェンシア!】】】】】
【主の命令だ。お前の力を俺に宿せ。アルマライズ!】
翔太は可憐と同じ様に装甲征儀を使用する。蝙蝠の意匠が施された十文字槍を構えた。相手も周囲を囲む。そして同時に技を放ってきた。
「ふっ、跳ね返してやる。」
【主の命令だ。全てを跳ね返す風で守れ。エスクード・デ・トルメンタ!】
十文字槍を持ちながら防御呪文を発動する。槍から竜巻が出てきて契約者である翔太を守…、らなかった。まずもって呪文が発動できなかったのだ。その為、翔太は攻撃をまともに受けてしまう。四方八方とまでは行かないが、5つの方向から雷、炎、氷、風が飛んでくる。防御呪文が発動できない今、翔太を守るものは何もない。
「ぐあっ!」
吹き飛ばされる翔太。制服の所々が焦げている。衝撃を柔らめる効果でもあるのだろうか?何とか大丈夫だった翔太。しかし、翔太が怯んだのをチャンスと見て、Dクラスが追撃をかける。
「やられるか!」
【エクスジェンシア!】
槍を消し、己の魔獣を召還する。あまりなれていない装甲征儀より、慣れ親しんだ魔獣召還を使う。蝙蝠の背に飛び乗り、追撃を避けた。相手は全員地上魔獣である為、有利な状況となる。
「やっぱりこっちの方が俺の性に合ってるぜ。」
【主の命令だ。疾風の針で相手を貫け。アグン・デ・トルメンタ】
上空から疾風の針を飛ばす翔太の魔獣。上級征儀の為もあってか、相当なダメージを負ってしまう。やはりSクラスの実力は高いと言うことだろう。その上、地上戦力ばかりの相手五人に空中を自由に動く翔太を捉える術がない。翔太の力任せの攻撃は、Dクラスの弱いシールドでは貫通してしまった。基本的に翔太は魔力の質より量で勝負している。単純明快な作戦ではあるが、この場合はそれが有利に働いたのだ。
【主の命令だ。全てを巻き上げる嵐の群れを成せ!フィナーレ・デ・トルメンタ!】
上級征儀の中でもオーソドックスな技として、『最終』を意味する“フィナーレ”を使うことが多い。これは上級征儀の中でも初期の頃からあるもので、長い年月と共に洗練され、上級征儀でありながら消費魔力量が少ない。南陽学園でも最初に教える上級征儀がコレだ。即ち、Dクラス生徒も使えると言う意味だが、威力はやはり違うのだろう。
合計10の竜巻を発生させる。それぞれ2つずつがDクラスの生徒の魔獣に襲い掛かった。左右から挟まれ、持ち上げられる魔獣。上空から落とされた。5体の内3体が消滅してしまう。残るは二体。
「さぁ、どうする?」
既に勝ったような様子の翔太。確かに翔太が優勢だが…
「お、おい…。このままだとCクラスに上がれないぞ。」
「こ、こうなったら…。我が家系に伝わる必殺征儀を使うぞ!」
なにやら相談を始める二人。翔太はスポーツマンシップに則っているつもりなのか、それをわざわざ待っていた。
【【魔獣よ分身せよ!】】
「何っ!?」
驚いたのは翔太だけじゃない。周りの周囲の観客も驚いた。さっきまで通常の属性で戦っていた生徒が分身を使おうとしているのだ。魔獣を分身させられるのは、“鏡属性”の征儀伝のみ。となると、この二人は属性を二つ使えると言うのだろうか?
「な~んてね、嘘だ!」
【バレ・デ・フェーゴ!】
【バレ・デ・イーロ!】
本当の作戦はこっちだった。使えないような技を発動しようと見せかけ、隙を誘う。その上で本来の攻撃を仕掛けたのだ。しかも弾丸を打ち出して翔太ごと魔獣を撃墜しようとしている。慌てて避けようとするが、数発当たってしまった。体勢を立て直す翔太。
「よくも騙してくれたな。」
一度サラッと髪を払う翔太。何故か前髪が後ろに撫で付けられた。それを見た慶斗は“ヒッ”と声を漏らす。
「あ、あの時の翔太…。とっても怒ってます。」
以前、中学の時に慶斗が不良に絡まれた時があった。不良はただの人間であり、その時は征儀伝としての力を使う事ができなかった。その時、翔太が素手で立ち向かってくれたのだが、逆に殴られてしまう。その後、翔太が先程と同じ行動を起こした。その後は翔太が瞬殺だったと言う。そして今は征儀を用いた戦闘の最中。何が起こるのであろうか…?
【主の命令だ。疾風の翼で破壊の音を奏でろ!アジッタ・デ・トルメンタ!】
蝙蝠の口から破壊音波を流す。その音悶絶する魔獣たち。その間に新たな呪文を詠唱する。
【主の命令だ。疾風纏う翼で突撃せよ。アジェット・デ・トルメンタ!】
上空から一気に魔獣に体当たりをする蝙蝠。魔獣の一体が消えた。その瞬間に翔太は魔獣の背中からフィールドに降り立つ。
【アルマライズ!】
再び十文字槍を召還する。勿論のこと、翔太の魔獣は消えた。槍を、状況に対応しきれない最後のDクラス生徒の喉元に当てた。
「はい、終わり。」
「試合終了!」
こうして第二戦もSクラスの勝利となったのだった。