秘策£ トラーマ
さて、クラスアップ試験を間近に控えた両クラス。
「いくらSランクって言っても、五人掛かりなら倒せるだろ。」
「そうだよな…」
「しかもさ、あっち美少女三人だろ?チラリズム、はぁはぁ…」
明らかに気持ちが悪い組だ。しかもやはり慶斗を女子だと勘違いしている。Dランクの教師に呼ばれ、フィールドに出てきた。この戦闘では、下級ランクの生徒が対戦相手を選べるのだ。
「お前ら、あの4人の中で誰にするんだ?」
「黒のメイド服、はぁはぁ…」
どうやら、選んだのは可憐のようだ。因みに今の慶斗は白を基調としている。可憐もフィールドに出てきた。
「それでは、始めなさい。」
【【【【【エクスジェンシア!】】】】】
【アルマライズ】
合計五体の魔獣が現れる。しかし、やはり可憐はガントレットを装備するのだった。見慣れない技に一瞬驚くDクラス生徒だが、相手が自分たちに比べたら貧弱な武器しか持っていない事に安堵する。コレなら勝利は確実だ、と。しかしだった…。
【トラーマ・デ・ルエーノ】
ガントレットをフィールドの床に刺した可憐。すると、雷が地面を走った。地上タイプの魔獣が三体いた為、まともにその攻撃を受けてしまう。だが、完璧な攻撃技では無い為か、魔獣は消滅していないが。
「なんだよ、あの技…。」
「そんな事より、俺達も力を合わせるぞ。」
「そしてパンチラ、はぁはぁ…」
この五人チーム、風属性と炎属性がそれぞれ二人と、雷属性がいる。しかも全員がスペイン系。即ち、同系統の為、技を合わせれば高い攻撃力を誇るのだ。
【【…デ・フェーゴ!】】
【【…デ・トルメンタ!】】
【…デ・ルエーノ】
同時に五人が呪文を詠唱する。暴風が吹き荒れ竜巻と為す。炎の弾丸がそこから弾き出された。追撃とばかりに雷が可憐を襲う。Dクラス生徒も、慶斗たちも完全に可憐が負けたと思った。
突然、竜巻が内側から引き裂かれた。炎の弾丸が跳ね返される。咄嗟の判断でバリアを張るDランク生徒たち。中から出てきたのは、無傷の状態の可憐。ガントレットを顔の前で交差している。なんと、あの合わせ技をやり過ごしたのだ。唖然とするDクラス生徒たち。凪沙は凪沙で拍手喝采だ。なにやら叫んでいるが、無視した方が身の為である。
「弱い技が合わさった所で、特に問題はない。」
自分達の技が、たった一人に破られた事に驚きを隠せないDクラスチーム。しかし、可憐にとってはチャンス。一気に間合いを詰めてジャンプ。一体の魔獣にガントレットの爪を立てた。魔獣は消えてしまう。今回の試験のルールに則り、その魔獣の契約者は失格となった。
「なるほど…」
「どうしたんですか?翔太。」
顎に手を当てて、何かを悟ったような翔太。慶斗が問いかける。
「いや、どうして泉が装甲征儀を使ったのか、それに納得がいったんだよ。」
「?」
「今日の試験は、魔獣が消えればその場で失格。だから最初から対多数の魔獣戦は避けたんだ。」
ここで慶斗も納得がいった様な顔になる。アルマライズで敵を仕留め、後から魔獣で攻撃をする。それなら自分が失格になる可能性も低くなる。未だ相手の攻撃をガントレットで受け止め、反撃する可憐。更に相手の魔獣を一体仕留めた。これで残るは三体となる。
「なんだよ、生身で魔獣の相手をするなんて…」
「あれがSランクの実力…」
「スカートの絶対領域、ハァハァ…」
舐めて掛かった事を後悔するDクラス。作戦を変えたようだ。可憐を中心に三人が包囲する。どうやら撹乱作戦のようである。三方から可憐を狙う。ガントレットで前方からの攻撃は受け流せたが、三方は難しいようだ。それぞれ炎、風、雷の攻撃が襲い掛かる。
【エスクード・デ・ルエーノ】
ガントレットから放出された雷が、球体となって可憐を包み込む。全てのDクラスの攻撃は弾き返されてしまった。自分の技を打ち返され、そのまま食らってしまうDクラス。一気に雷属性の生徒の所まで走った。首筋にガントレットを当てる可憐。
「あなたの負け。降参しなさい。」
「こ、降参です…。」
とうとう三人目も失格にしてしまった。残るはあと二人。
【エクスジェンシア】
ここに来て、初めて可憐が魔獣を召還した。スペイン系を象徴するかのような黒い毛並みを持つ狼。牙を剥き出しにして威嚇している。
【主の命令、雷の弾丸で相手を貫け、バレ・デ・ルエーノ】
地上型魔獣に雷の弾丸が襲い掛かる。必死で防御するDクラスだが、やがてヒビが入り始め、そして砕けた。黄色く輝く光弾が魔獣に襲い掛かり、その姿を消した。
【主の命令。雷纏うその牙で対象を砕け。モルド・デ・ルエーノ】
可憐の魔獣が牙に雷を纏い、助走をつけて宙に飛んだ。狙うは最後の天空魔獣。恐怖で動けない契約者のせいで、魔獣はその攻撃を避けることができなかった。首筋を噛み、一瞬にして魔獣を消滅させた。
「勝者、Sクラス、泉可憐。」
「チラリズムがぁ…」
などと言っている馬鹿はいたが、可憐は対多数戦闘で勝利したのだ。しかも、魔獣を使わず、龍夜でもそう長時間は使えない装甲征儀を使用した上でだ。彼女もまた、慶斗と同じように魔力保持量が高いのだろうか?
「やはり、泉は中国系征儀伝に加担している…」
遠目から可憐の試合模様を見ていた龍夜。疑惑が確信に変わった瞬間だった。自分にもできない装甲征儀での技、何より、Dクラスと言えども一度に複数の攻撃を受けたのにも関わらず、無傷でいるのが不自然だ。いくらガントレットの武器が攻防に優れた物とは言え、限度というものがある。何より、魔獣を素手で倒すと言う荒業、中国系征儀伝と同じであった。
「少し調べる必要があるな…」
龍夜はその場を後にした。