進化☆ レクスジェンシア
慶斗のすごい呪文が…
「兄ぃに、兄ぃに騙されました…。絶対、あのくじは兄ぃの策略によるものです…。酷いです、僕は兄ぃを信じていたのに…。」
「あぁ、慶斗、悪かったって。本当にごめん。」
女子の制服で泣き崩れる慶斗。頬を紅潮させて泣く姿は、さながらの女子だった。頭を撫でながらあやす龍夜と併せれば、完璧な構図だと思うフィールドのほぼ全員であった。“ほぼ”と言うのは、可憐は無表情だったし、玲奈は慶斗に嫉妬していたし、可憐と戦った三年男子に至っては、膝を抱えてドンヨリしていたからだ。
「誰か、慶斗と対戦する相手代わってくれないか?」
龍夜のその言葉に、膝を抱えていた三年が駆け寄ってきた。もはや上級生の威厳の欠片も無い。
「いいです。僕は兄ぃと戦います。」
最後に“ふんっ”とばかりにそっぽを向く慶斗。ツカツカとフィールドの一端へ向うのう。龍夜は“ヤレヤレ”と“計画通り”の中間の表情で向って行った。
「それじゃ、慶斗。一ヶ月での成果を見せてみろ。」
「兄ぃ、絶対許しません!」
【【エクスジェンシア!】】
漆黒の龍と、純白の龍が出現する。その荘厳な姿に観衆は溜息を漏らす。無論、可憐と三年男子は除外する。
【主の命令です。全てを無形と化す革新の光を見せよ。エクスプロ・デ・ブライヤー!】
クラス決定試験で使った、あの上級征儀だった。エンジェルの放った無数の光の筋がドラゴンを襲う。
「すごいな。あの時よりも質が上がってる。」
感心しながらも、自分を守る龍夜。確かに慶斗の攻撃の質は上がっている。威力は勿論の事、攻撃範囲もだ。これが純粋に慶斗の練習の賜物なのか、怒りに任せた為ゆえなのかは誰も知ることがない。闇のオーラを盾に、慶斗の攻撃に耐えしのいだ龍夜。
【主の命令です。光の矢で貫け。アグン・デ・ブライヤー!】
再びの攻撃。次は光が収束して、多数の矢が襲い掛かる。龍夜はまた盾を構築して技を受け流す。
【主の命令です。光の弾丸で打ち抜け。バレ・デ・ブライヤー!】
続いて光の弾が襲う。連続三つの攻撃に、いくら龍夜でもきつそうな表情が伺える。心なしか盾も弱く見えている。
【主の命令です。光の速さで相手を打ち砕け。アジェット・デ・ブライヤー!】
翼を羽ばたかせ、加速をつけるエンジェル。そして一気にドラゴンに突っ込んだ。首をもたげ、闇の盾ごとドラゴンに叩き付ける。見事なまでに粉々になった盾。ドラゴンと龍夜もダメージを追ってしまった。
「おい、慶斗が龍夜先輩と互角にやり合ってるぞ?」
「妹キャラ、恐るべしだね…」
「ちっち。甘いねぇ~。」
翔太と凪沙の会話に横槍を刺したのは玲奈だった。人差し指をスッと立て、左右に振っている。
「そうぢゃき。龍の次がまだ本気を出してないだけぢゃ。」
時代掛かった口調で類も言ってきた。龍夜と一年間同じクラスで学んだ仲間だ、翔太たちより龍夜の事を知っていて当然だろう。そして、その証拠は直ぐ起こった。
【主の命令だ、闇の弾丸で打ち抜け。バレ・デ・オスクリード】
闇色の弾丸がエンジェルに向って襲い掛かる。
【エスクード・デ・ブライヤー】
第三文のみの呪文詠唱。威力は全呪文を詠唱した時より弱くなるはずだが、龍夜の攻撃を全て跳ね返したのだ。
「すごいな、慶斗。たったの一ヶ月少しでここまで成長したのか。ズルして慶斗の対戦相手になったかいがある。」
独り言を呟く龍夜。入学初日の朝に行った模擬戦では、防御と回復を中心とした奥手的な戦いだった。それが今では龍夜が故意で防御に徹してるとは言え、攻撃的な戦いになっているのだ。大きな進歩である。元々多い魔力も助け、慶斗には魔力が足りなくなる様子も見られない。
「さて、こっちの魔力が切れる前に…」
龍夜が新たな呪文を詠唱する。ここで大きな攻撃を繰り出し、慶斗に回復をさせる。その隙を狙うつもりなのだ。
【主の命令です。光学迷彩で僕らを不可視の状態に。トゥアル・デ・ブライヤー】
光のオーラを発生させて、魔獣ごと慶斗の姿を覆い隠す。クラス決定試験の決勝戦において使った技。あの時は暴力と金属性の征儀伝に物理的力で負けてしまったが…。
「なるほど。だが、俺の属性は闇。この意味がわかるか、慶斗?」
【主の命令だ。周囲を闇で包み込め。コーティナ・デ・オスクリード】
ドラゴンより闇が吐き出され、フィールドを闇で覆う。観客である翔太達は見た。闇の中で唯一キラキラと光る半球状のもの。慶斗の不可視迷彩である。
「そこか、慶斗。」
【主の命により、全てを飲み込む闇を見せろ。フィナーレ・デ・オスクリード】
再び闇が吐き出される。しかし、今の闇は攻撃的だ。全てを飲み込もうとばかりに高速で進み、不可視の迷彩の壁を壊さんとばかりに穿つ。そして、ヒビが入り始めた。しかし、まだ闇の攻撃の威力は衰えない。これが生徒最強の征儀伝、朱雀龍夜の力なのだ。いくら魔力をつぎ込んだ壁とは言え、魔力の密度の差では劣る。闇が晴れた時には肩で息をする慶斗の姿があった。
「や、やっぱり兄ぃのその攻撃は、強いです。」
【リポルネル…】
その時を待っていたとばかりに、龍夜が再び呪文を詠唱する。龍夜としても、魔力の量に余裕がないのだ。ここら辺で決着を付けないと龍夜が負けてしまう。
【バレ・デ・ブライヤー!】
龍夜は耳を疑った。確かに慶斗は回復の呪文を唱えていたはず。しかし、突然聞こえてきた慶斗の声は、完全に攻撃呪文だったのだ。
「意図的に呪文をやめたか…」
呪文の詠唱を終了せず、新たな呪文を詠唱した。慶斗は龍夜の考えを読んでいたのだろうか?とにかく、龍夜は不意打ちの攻撃を盾を作ることで防いだ。咄嗟の判断でここまでできるのは、流石は龍夜と言うべきか…。
「ちっ、魔力量が計算外に減った…」
これでは次に放とうと考えていた攻撃ができない。しかし、まだ負けたと決定した訳ではないのだ。勝機はまだある。
「兄ぃ、絶対許しません…。僕は騙されたのですね?しかも、人前で玲奈さんとイチャイチャして…」
「お、おい…、慶斗?」
龍夜でも、慶斗の変わり様には驚かざるを得ない。雰囲気が違うのだ。下をうつむいて喋ってる筈なのに、声がよく響いている。光属性の征儀伝なのに、ドス黒いオーラを放っているように感じるのだ。
「許さないです!」
カッと慶斗が顔を上げる。龍夜を始めとして、フィールドにいる全員が驚いた。慶斗の瞳が赤く染まっているのだ。スッと魔石のはまる生徒手帳を取り出す。白かったはずの魔石も真紅に染まっていた。
「僕の考えた呪文、兄ぃに使います。」
【主の命令です。その姿を変え、契約者の下に再降臨せよ。レクスジェンシア!】
轟音が響き渡った。そして、慶斗の魔獣に変化が訪れる。エンジェルドラゴンが完全な二足歩行で立ち上がったのだ。まるで人間の直立歩行をするかの様に。そして、巨大な翼で体を覆いつくした。一瞬眩く光り、翼が開かれた。そこには、あの長い首はなく、その代わり中世ヨーロッパの騎士の様な仮面を被った姿、そして人間と同じような腕、その両手には慶斗が装甲征儀を行った時に出現する刀が握られていた。人間と同じようなフォルムを持つが、龍の尻尾が生えている。
「竜人?」
翔太が呟く。確かにその呼び方がピッタリな姿である。その姿は龍夜のドラゴンの大きさを超え、上から見下ろしている。
【主の命令です。対象を切り刻む光の刃を…】
その途端、慶斗が倒れた。意識が途切れた為、召喚された竜人も消えてしまう。全員が慶斗の周りに集まった。龍夜が起こそうと試みるが、起きそうにない。顔面は蒼白であり、呼吸も浅い。
「保険医の所へ連れて行くぞ!」
最近一日一話の投稿をしてきましたが、やはり、最初に取り決めたとおり、二日に一回の投稿にペースを戻そうと思います。私のもう一つの小説、PRICELESSと一日交代で投稿です。では、また明日の投稿をお楽しみに。その日から二日一回のペースに入ります。