第9話 見せてもらおうか、成金の性能とやらを
ひっきりなしに、私の荷物を載せたトラックが到着する。次々に家具や家電が運び込まれた。洗濯機や電子レンジといった白物家電も買い替えて良いと言われていたので、次々と新しいものを設置してもらい、古いものを廃棄で引き取ってもらう。
私の引っ越しの勢いに、さすがのエイジさんも、柴犬義父もポカンとしていた。
だってぇ、向こうの世界じゃ、ドラム式洗濯乾燥機なんて高級品、絶対に買えなかったもん! いいじゃん! 横型~! タオルとか起きたら乾いてるとか最高すぎない?
電子レンジだって、よくわからなんないけど、スチーム出るヤツ! 炊飯器だって、よくわからない技術で、ふっくらよ! 象のマークの代わりにキリンが描いてある。
大型の有機ELテレビは自室に置くつもりだったけど、なぜかこれだけは、エイジさんから「居間に置かないか!!」と力強く言われた。
仕方ないから、自室用にもう一台買おうかな~。お金あるって、素晴らしいわね。心の余裕が!!
荷ほどきも大方終わり、私は一息ついて、ベッドに腰かけた。
昨日買ったばかりのノートパソコンを開く。リンゴマークの代わりに洋ナシが描いてある。パソコンの初期設定は、エイジさんちにインターネット回線がない場合に備えて、昨日ホテルであらかたしてきたけど。
おうちの状況見ると、家電どれもレトロ感すごいし、インターネット回線なさそう。とりあえず、あとでダメ元で聞いてみるかー。いまは、取り急ぎ携帯電話のテザリング機能をオンにして、インターネットに接続した。
本当にあまりにも日本での生活と変わらないので、昨日色々と検索してみたら、渡来人というだけで、特に何かの専門家でなくても、どこの企業でも引っ張りだこらしい。
こちらの人からすると、渡来人は金脈。新たな発想をもたらす金の卵ということだろう。転移局での高待遇も頷けた。ちなみに、科学分野の専門家は、転移局に直々にお迎えが来て、そのまま要人として政府機関に就職が決まるんだって。
でも、その代わり、やはり現地の人の雇用を奪っている面もあるので、渡来人を快く思っていない人々もいるらしい。どこの世界も一緒だなぁ。
「ユズさん、夕飯に寿司か、うな重でも出前取ろうかと思うけど、どっちがいい?」
開けっ放しの扉を、コンコンと、エイジさんにノックされ、そう質問された。私はちょっと悩んで「お寿司」と答える。「了解」と言って戻っていく彼の背中を見ながら、私は家電量販店のネット通販で、同じテレビとテレビ台をもう一台ずつポチった。
◇◇◇
出前が来るまで、居間に飾ってある写真を見る。
まずは、ドラゴンと一緒に映っている家族写真。柴犬義父、エイジさんにそっくりのオオカミ頭の女性、エイジさん、それからキツネ頭の女の子。キツネは、妹さんかな。オオカミ頭の女性が、きっとお義母さんよね。
次は、一際大きな写真だ。ドラゴンに跨るジョッキーの迫力の一枚。あれ? このジョッキーもしかして……。
「それね、母さん。D-GⅠって呼ばれる最高峰のレースがいくつかあるんだけど、その一つで優勝した時の」
後ろから、エイジさんに話しかけられる。
「女性騎手なんてカッコイイですねー」
「そう? 競竜の騎手は軽い方がいいから、女性の方が多いくらいだよ。オレも小さい時は目指してたけど、成長しすぎて体重がダメでさー」
そうなんだ。でも、言われてみれば、確かに。
「その代わり、妹はDRAで騎手やってるよ」
おお、キツネ頭の妹さん、カッコイイなー。ただ、お義母さんの話題に触れてよいのか、わからなくて、少し会話に困る。柴犬義父めっちゃヤサグレれてるし、お義母さんのお姿、牧場に見えないし。
「元々は、ここ、母さんの牧場だったんだよ。母方の祖父が始めてね。母さん、作業中の事故でね、打ちどころ悪くてさ。オレ達、子どもだってツライってのに、親父飲んだくれるし、今まで結構大変でさ」
私がエイジさんの方を振り返ると、彼は微笑む。
「でも、ユズさんって、やることなすこと、わけわからんし、なんか久しぶりに楽しいわ」
へへって、彼がクシャクシャな笑顔をするので、私は軽く心の臓を射抜かれたのだった。
◇◇◇
さて、一番風呂も柴犬義父に奪われそうだったが、そこは流石にエイジさんが奴を阻んでくれていたらしく、一番風呂をいただく。
湯船につかるのは、やはり最高ですなぁ。そして、座ってゆっくり身体を洗えるのも良き。ビバ、日本式風呂。
ちょっと心配していた美容販売員に勧められたシャンプーとトリートメントもそんなに悪くなかった。洗髪は合わないと、髪の毛のウネウネがヤバイのだ。とりあえず、合うのを探しつつも、しばらくはどうにかなりそう。
風呂を出て、ヘアドライヤーで髪を乾かすと、自室に戻る。化粧水をつけながら、「洗面台に化粧水とかも置いちゃおうかなー。うーん」などと、領土拡大について知略を巡らせた。
ところで、完全に個室用意されちゃったけど、エイジさんといたしたい時はどうすればいいのかしら。夜這いされるのを待つかしら。それとも私が向こうに夜這いするのかしら。
待ってたら、永遠に奴は、夜這いに訪れてくれない気もするゾ☆
しばらく悩んでから、私は彼の部屋をノックした。
なんか眼球を左右にウロウロさせながら、やれ親父がどうとか、オレのベッドは狭いだとか、しどろもどろに言ってたので、「防音工事しましょうか? あと、私のベッド広いです」って言ったら、観念したのか「あとで伺います」と言われて、ちょっと面白かった。