街宣
最寄り駅につく頃には、日も高く、出かける人々で賑わっていた
階段前でチラシを配る人がいる
タスキを掛けた姿に、選挙でもあっただろうかと思う
だが近付くと黄色いタスキに赤い文字で安楽死と書いてあった
その文字を認識した頃、拡声器を使った声が言った
「みなさま、神さまに決められた人の寿命は40年間です!」
けして若いとはいえないその声は、だから40で死ぬことこそが幸福だと訴えかける
階段を降りて声の方を見やると、軽トラの荷台に立った、多分40は越えている女性が喋っていた
20歳で子供を産めば、成人を見届けて死ねるとか、我々は伝えるという使命のために仕方なく生きているとか、そんなことを言っている
信号も赤だったので、ぼんやりとしていると「どうぞ」とチラシが差し出され、ふいに受け取ってしまった
安楽死という言葉に、加藤さんのことがチラつく
仕事が兄を殺したと思っている加藤さん
そして、私の兄貴のことも
ぼんやりとチラシを見ると、安楽死説明会の日付と予約のQRコードまで書いてある
私はサッとチラシを鞄に仕舞うと、書くネタもないし、行ってみてもいいのかなと思った
私と私の兄貴と、加藤さんとそのお兄さん
私と加藤さんは同じく小説を書くし、何か繋げれば…何かできるかもしれない
やれることはやってみよう
ちょうど信号も青になり、私は足を踏み出した