同窓会
同窓会中、佳奈が私が小説を書いていることを、みんなの前で話した
既に全員酔いが回っていて、幾人かが茶化すように私のことをセンセー! と呼んだ
私は苦笑いを返して、一旦お手洗いに避難することにした
戻ると、あの…と誰かが話しかけてきた
見ると、俯きがちであまり顔は見えない
兄を亡くしたと言っていた子だと、いつかのことがリンクする
でも、名前は思い出せない
あー…と言ってると、加藤です、兄のいなくなった加藤由美子と名乗る。
私はお兄さんが大好きな加藤さんね、と答えるが、由美子は少し辛そうな顔をする
「ごめんね、茶化すつもりじゃなかったの。ただ覚えてるよ、と言いたくて…」
「いえ…」
「えと…それで…?」
と聞くと、加藤さんも小説を書いているのだと言う
ただ兄を殺した人のことも知りたくて、兄と同じ会社に就職したのだと
「それで今、少し迷ってるんです…正直、兄がどこの部署だったかも分からないし、周りの方に聞いても知らないみたいで…
このまま、兄を追いかけ続けるのか。時間を全て大好きな小説に充てるのか…」
私は加藤さんと空いている端の席に座り、うんうんと頷いた
「私は…正直、兄貴のことがそんなに好きじゃなかったの。だから加藤さんの気持ちには寄り添えないかもだけど…
加藤さんが大好きなのは、小説とお兄さんとのことで…今のお仕事自体が好きでないのなら、辞めてもいいんじゃないかって思う」
加藤さんは、パッと俯けていた顔をあげた
私は続けた
「もし、私の大切な人が…私のせいで誰かを恨んでいたら、ちょっと悲しいと思う
それより毎日楽しくしてくれてた方が嬉しいんじゃないかな、って…」
加藤さんは、また俯いて、そうだよね…と呟いた
それからこちらを見て笑った
「残念なことに周りの人たちは、いい人ばかりなの。お兄ちゃんを殺したのはこの人たちかもしれないって思うのに…
でも、そうだよね。うん。楽しさに罪悪感を感じる必要ないよね…」
私は、その言葉がズキリと突き刺さるのを感じた
兄貴がいない平穏な家族を演じることに罪悪感を感じていることを思い出した
加藤さんは携帯をポケットから取り出した
「ねぇ、投稿アカウント教えてよ」
私は笑顔を作って、アカウントを教えあった
「最近は低浮上で…実は、あんまり書けてないの」
私が口にすると、加藤さんは心配そうな目を私に向けた
私は無理やり笑顔を維持する
「私ね、小説でもっと有名になりたくて、大きな企業と契約したり、それこそドラマ化とかアニメ化とかそんなのに憧れてて…」
「自費出版とかじゃダメなの? SNSで発信して、それで有名になった人もいるよ?」
私はふるふると首を振る
「個より大きなものに認めて貰いたいんだと思う、何故か分からないけど…」
加藤さんは複雑そうな顔をした
「変なこと言うけど…親に認めて貰えなかったことの反映とか?」
私は、え…? と彼女を見やった
加藤さんは慌てて、目の前で両手を振った
「ううん、何でもないの。忘れて」
私はぼんやりと、兄貴のことばかりだった実家の状況を思い返し、思わず彼女と連絡先も交換していた