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安全さんの安全良し!  作者: 猫羽ねむる
第1章 安全なダンジョン
6/65

安全さんは専門店に行く

お待たせしました。

 

 私は今、ダンジョン専門店八百万(やおよろず)の看板を掲げたビルの前にいる。

 まさかダンジョン専門店がこんなにも大きなビルだとは、と入り口の前で立ちすくんでしまったが時間も勿体ないしそろそろ入ろう。


「いらっしゃいませー。」


 さてさて初心者用の防具はどこかな?


「何かお探しですか?」


 キョロキョロとしていたらさっきの挨拶をしてくれた店員さんが声を掛けてきてくれたようだ。


「初心者用の防具を探してまして。」


「初心者用の防具ですね。女性用と共用の二種類あるんですがどちらをお探しですか?」


 ダンジョン装備に男性用とか女性用とかあるのか、全部共用だと思ってた。


「女性用でお願いします。」


「女性用ですね。ご案内します。こちらへどうぞ。」


 案内してくれている店員さんの後ろを歩きながら店内を観察しているとどうやら1階は初心者向けのダンジョン装備や魔道具、もしくはお手頃な消耗品しか置いてないように見える。


「こちらが女性用のダンジョン防具のコーナーになります。なにか気になる点がございましたらお近くのスタッフにお声かけください。失礼します。」


 案内してくれた店員さんはそう、伝えると入り口ヘと戻っていった。

 さて、どんな防具があるのかな。


 早速、ショーケースを見てみることにしたのだが・・・・・。

 女性向き防具は機能性を兼ね備えながらもかわいさや美しさをアピールするデザインで素敵なんだけど高い。

 お金に余裕が無い今、安全のためとはいえ上着一枚に20万円は流石に出せない。

 デザイン性は無くても良いから安くて機能的な物が欲しいんだけど・・・・残念ながらここには私の求める物は無いようだ。


「一応共用の装備も見てみるか。」


 余り期待しないで共用装備のコーナーへ移動してみた。

 う、う~ん。ここも似たような物が多いな。

 おっ、このアンダーウェアはよさそうかな?服に下に着込んでいるだけで防御力が5も増えるのか。

 ちょっと欲しいなとお値段を見る。

 そのお値段は上下セットで50万円。


 ・・・・・・これは無理。諦めてダンジョンに行くか。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「こんにちは。」


「こんにちは。どうしたんですか、そんなにげんなりしちゃって。」


「・・・・・双葉さん。ダンジョン装備って高いんですね。」


「なるほど、午前中に専門店へ行ってきたんですね。」


「えぇ、苗新駅前のダンジョン専門店八百万に行ってきたんですけど値札を見て目玉飛び出ましたよ。」


「ふふ、値段に関してはどこで買っても似たような物なので諦めてください。」


「はぁ、やっぱりそうなんですね。」


 幸い、この裏山ダンジョンで装備が無くても安全であると聞いているのでゆっくりお金を貯めて買いますかね。


「ところで、私のピコピコハンマーって普通に買うとどれくらいするんですか?」


「そうですね、攻撃力は1ですが気絶10と不壊が付いていることを考えると、どれだけ安く見積もっても50万円は下らないですね。」


「50万。」


「えぇ、50万です。」


「ほぇ~、タダのおもちゃにしか見えないアレが50万だとは。ダンジョン装備ってすごいんですね。」


「安全さんのアレの場合は武器自体の性能としては20万円で買えるレベルなんですが、不壊が珍しいので50万円の評価が付いているんです。」


 はぁ~不壊が無くても20万、やっぱりダンジョン装備は高いね。


「もしご不要になりましたら是非、探索者協会にお売り頂きますようお願い申し上げます。」


「了解です、それじゃあ着替えてダンジョンに行こうと思ってるんですけど誰か来てますか?」


 そう尋ねると双葉さんは端末で確認してくれる。


「今は、午前中から1パーティーが潜られてますね。」


 ついに来たかー。どうしようかな、今日はこのまま帰ろうかな。


「男女二人組のパーティーでダンジョンボスのアイテム狙いで周回をするそうなのでそれほど警戒する必要はないかと思われますが、安全さんはどうしますか?」


 ボスが落とすアイテムが欲しくてそう言う事をする人がいるとは聞いたことはある。

 まぁ、ダンジョンボスを狩ってるなら1階にいる私が会う可能性は低いか。


「う~、いつかは通る道です。潜ってみます。」


「承知しました、お帰りは昨日と同じ17時で宜しいですか?」


「はい、17時でお願いします。」


「かしこまりました、気をつけていってらっしゃいませ。」


「行ってき・・・・ます。」


 この後、いつも以上に念入りに指さし確認をしてからダンジョンへ向かうのであった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 私以外の人がいるダンジョン。

 普通のことである事は分っているのだが可能な限り気配を消し、異音を絶対に聞き逃すまいと神経を尖らせながらトレジャーポイントを確認しに行こうと歩き出した。

 勿論、道中で見つけたモフモフ毛玉はもれなく魔石へと変えて行くつもりだったのだが、なんだかダンジョンの様子がおかしい。

 モフモフ毛玉との遭遇率が低すぎるのだ。

 ただ遭遇率が低いのは単純に先に潜った探索者が狩ったからかもしれない。そう考えつつも警戒を強めながら進んだ先で見つけたのは一塊になって震えているモフモフ毛玉達だった。


 それを見た瞬間、あまりの数の多さに身構えてしまったがモフモフ毛玉達の様子は明らかにおかしい。

 普段ならこちらを見つけ次第体当たりをしてくるのに今は体中の毛を逆立て威嚇してきているだけでこちらに向かってくる気配は微塵もない。


 身構えた体制のままにらみ合いを始めて数十秒。どうも向こうからこちらに攻撃してくるつもりはないようだ。

 私としても人畜無害のモンスターだとは言えこの数のモフモフ毛玉に手を出す勇気は無い。

 仕方が無いので視線を外さずにじりじりと後退していき、モフモフ毛玉達から見えない位置まで戻る事にした。


 ふぅ、なんとか撤退できて良かった。早く戻って双葉さん達に報告しなきゃ。


 ダンジョンに侵入してわずか10分、今日の探索の中止を決定した安全さんは警戒を更に強めながら来た道を引き返すのであった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「あら?安全さんおかえりなさい。何か忘れ物ですか?」


 まぁ、こんなに早いとそう思うよね。


「違います。ちょっと報告があって。」


「報告ですか?ここで話せます?」


 双葉さんに先ほど見たことを報告し映像も証拠として提出する。


「なんですかこれ。天原さん、問題発生です。この映像見て下さい。」


 双葉さんは慌てた様子で天原さんの元へと映像を持って行った。


「どれですか?うわぁ、これはまた。」


「天原さんはどう思います?」


「これはおそらく・・・・・いえ、まずは本ダンジョンの方から応援を呼びましょう。」


 そう呟いた天原さんはおもむろに電話をかけ始めた。


「双葉さん。今どう言う状況ですか?」


「私も確実ではないんですが良いですか?」


「それでも情報が無いよりはマシです。教えて下さい。」


「分りました。今回、報告を頂いた異常は映像を確認する限り2つの可能性が考えられます。まず1つ目は強力なモンスターが発生した可能性。もう1つは探索者による迷惑行為の可能性です。」


「強力なモンスター、それって大変なことじゃないですか。」


 危険地帯にいたかと思うと血の気がサッと引いていく。


「大丈夫です、この裏山ダンジョンではモフモフ毛玉を怯えさせるような強力なモンスターが湧いたという記録は過去50年を遡ってもありません。なので今回は後者の迷惑行為の可能性が極めて高いのです。」


「なんだそうならそうだと早く言って下さいよ。でも例の通常よりも強い・・・・レアモンスターでしたっけ?それが湧いた可能性はないんですか?」


「あ~それは無いですね。裏山ダンジョンに出現するレアモンスターは通常種に毛が生えた程度、つまりレアであっても人畜無害なモンスターなんですよ。なんなら各階層のモンスターに交じって活動してるところが目撃されてるので怯えられるなんて事は無いです。」


 流石、裏山ダンジョン。私の見立ては間違ってなかった。どこまで行っても安全なダンジョンだなんて最高のダンジョンだよ。


「話を戻しますが、それらを踏まえて導き出せる可能性として考えられるのは威嚇系のスキルかそれに近しい効果を持つ魔道具の使用ってところですね。」


 あんな短い映像でそんなことまで判断できるんだ。やっぱり双葉さんすごい。


「補足をさせて貰うなら、間違いなくスキルです。」


 ッ!天原さんいきなり後ろから声を掛けないで欲しかったです。ビックリしました。


「驚かせましたか。申し訳ない。それで証拠はここシーンですね。明らかに安全寺さんのことを警戒していますよね?魔道具を持っていないはずの安全寺さんにこう言う反応を示していることが威嚇スキルの使用である事を裏付けているんです。」


 おぉ、双葉さんもすごかったけど天原さんはもっとすごかった。


「そろそろ、本ダンジョンから応援が来ます。二宮さんもこちら側に願いします。」


「はい。」


 双葉さんはカウンターにダンジョン閉鎖中の看板を出してからこちら側へと出てきた。さて私は帰っても良いのかな?


「申し訳ないですが、安全寺さんも残って頂いて良いですか。これから来る方達にもう一度説明をお願いしたいので。」


「了解です。」


 一応、マスクとかを付けておこうかな?


 いそいそと探索用の装備を着用しながら双葉さんの横に並ぶとなぜか二人から苦笑されたが気にしない。プライバシーの保護のためだ。


 そのまま少し待っているとダンジョン装備を装着して同じ腕章を付けた10人ほどの物々しい集団がこちらへとやって来た。


 おぉ、みんな強そうだ。ってあの人は!

 いつぞや見たイケメンのお姉様までいるじゃ無いか。


 驚愕していると先頭を歩いていたおじさまが声を掛けてきた。


「待たせして申し訳ない。今回の捕獲作戦を主導します金山(かなやま) (あかり)です。支部長はどなたですか?」


 明らかに私は除外されてるね。目線がこっちに向かないもん。

 まぁ今の私の格好だとそう言う反応でも仕方が無いよね。


「私です。裏山ダンジョン支部長の天原 龍一郎と申します。突然の召集に応じて頂きありがとうございます。」


「いえ、早速今回の件の詳細をお聞きしたいんですが。」


「詳細に関しましてはこちらの彼女に説明して貰います。安全寺さんお願いします。」


「は、はい。」


 ちょっとみんなの目線がこっちに向いてビックリしただけだから、別に声が裏返ったりなんてして無いんだから。


 少し緊張しながらも先ほど天原さん達にした説明と同じ内容の説明をした。


「ふむ、映像を見る限り威嚇系スキルの影響を受けていることは確定ですね。この行為はダンジョン法で禁止されているスキルにより集団化したモンスターの放置に該当します。容疑者の特定は出来ていますか?」


「こちらの監視カメラの画像の画像に写っている二人です。昨日、安全寺さんが出てから今日再入場するまでにダンジョンへ入場したのはこの2人だけなので確定かと。」


「彼女の可能性は?」


 金山さんの目は私を射貫くように見ている。

 悪いことなんてしてないから堂々としているけどちょっと怖いなぁ。


「それはないです。彼女のスキルは私どもも把握していますが別系統です。」


「なるほど、申し訳ない。職業上疑わないわけには行かないので。」


「いえ、大丈夫です。」


「ではこの映像の彼らを捕まえて取り調べをしましょう。彼らの目的は分りますか?」


「こちらの二宮の報告によるとダンジョンボスのドロップアイテムを取りに来たとかなんとか。」


「ふむ、そうなると・・・・横井さん、貴殿のパーティーここで待機でも良いですか?」


「構わないです。」


 後ろに居た眼鏡の男性がハスキーボイスで答えた。


「では私達が直接捕獲に向かうのでもし入れ違いになった場合はお願いします。それと平行して大白さんは異変が起こっている範囲の調査とダンジョンの正常化の方をお願いします。」


「はい。」


 へぇ、あのお姉さん大白さんって言うんだ。覚えておこっと。


「では作戦開始です。」


 金山のその言葉で全員がテキパキと動き出した。

 金山さん達は隊列を組むとダンジョンへと侵入していき、横山さんはダンジョンの入り口前に陣を敷いた。そしてイケメンお姉さん大白さんは・・・・・・分身?いや増殖している。


 なんだアレは。ユニークスキルなんだろうけどとんでもない光景だ。

 姿がブレたかと思うと次の瞬間には2人,4人、8人とどんどん増えていっている。

 そして増えた方の大白さんは多分本体であろう白石さんが広げているアイテムバックから武器を取り出すとダンジョンへと侵入していく。


「双葉さん、大白さん、すごいですね。」


「そうですね、久しぶりに見ましたけどとんでもないですね。あれだけ出来るのに受付嬢なんだから勿体ないですよね。」


「え、大白さんって受付嬢なんですか!?」


「そうですよ。今は西川動植物園ダンジョンで受付をしているはずです。」


 へぇ、ならこの前見た人たちは受付嬢仲間だったのかな?


「しかしどこまで増えるんでしょうか?」


「さぁ?最後にあった時は1000人を超えたって言ってましたから今はもう少し多いんじゃないでしょうか。」


「はぁ、1人が1000人以上にですか。とんでもないスキルですね。」


 双葉さんと会話していると増殖を終えた大白さんが2人ほどこちらへとやってくる。


「「やあ、双葉。元気にしてた?」」


「同時に喋るのはやめて下さい。ビンタしますよ。」


「あははは、双葉はいつも通りだね。それでそちらの子猫ちゃんを紹介して貰えないかな?」


「はぁ、手を出さないで下さいよ。こちら安全寺 佳奈さん。私が専属受付をしている探索者さんです。」


「安全寺 佳奈です。先日はお世話になりました。」


 マスクやゴーグルを外しながら挨拶する。


「やっぱり貴女だったか、君に会えただけでここに来た意味があった。私は大白(おおしろ) 百合(ゆり)。元Aランク探索者で今は受付嬢をしています。私のことは百合と呼んで下さい。貴方のことは佳奈さんとお呼びしても?」


 気がつけばイケメンの顔が目と鼻の先に。しかも目にもとまらぬ速さ両手が包み込むように握られてる?


「いいです。呼んで良いんで少し離れて下さい。」


「ありがとう。とても嬉しいよ。それで双葉、私よりも先に彼女の専属受付になるなんて抜け駆けだぞ。」


「はぁ、なんでそうなるんですか。説明するので少し耳を貸しなさい。」


 双葉さんは百合さんに小声でもろもろの事情を説明しだしたようだ。


「なるほど、では佳奈さん。今日は私と一緒にダンジョンに潜ってみませんか?」


「なんでそうなるんですか、私の話を聞いてました?」


「聞いてたからだよ、佳奈さんは安全第一がモットーなんでしょ?そうするとサポーター制度の申請しているんじゃないかな?」


「確かにしてます。」


「それで私がサポーターとして立候補したいんだ。だから今日はお試しって事でどうかな?」


 元とは言えAランクの探索者さんからのお誘い、すごく魅力的だ。でも・・・。


「今ダンジョンの中に入っても大丈夫なんですか?」


「1階と2階の正常化は終了してるから1階に入るのは問題ないよ。」


 チラリと目線で双葉さんに確認を取る。・・・・問題ないんだね。


「お願いしても良いですか?」


「よし任された。じゃあ時間も勿体ないし早速行こうじゃ無いか。」


 こうして百合さんとともにダンジョンへ再突入が決定したのであった。



■レベル5 

■所持ポイント2724TP


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