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安全さんの安全良し!  作者: 猫羽ねむる
第1章 安全なダンジョン
5/65

安全さんはピコピコする

 

 朝8時の裏山ダンジョン。


「おはようございまーす。」


 探索の準備を終えてエントランスへと出てきても相変わらず閑散としている。


「はい、おはようございます。昨日も思いましたけどすごい格好ですね。」


「ふふ、安全には変えられないですからね。」


 今日も昨日と同じ、見た目は完全に粉塵舞う工事現場に勤めている人たちのそれだ。

 昨日との違いは大きなバールの代わりにピコピコハンマーを持っている事だろう。


「それ早速使うんですね。」


「折角なので使って見ようかなって。もし使いこなせなかったら買い取って貰えます?」


「もちろんです、純正のダンジョン武器は今でも珍しいので高値で買い取りますよ。」


 お、おう。双葉さん、目が万札になってる。このピコピコハンマー、そんなに高く売れるのか・・・。


「ところで今日の探索は午前中の予定ですか?」


「いいえ、お昼休憩をしに一度戻って来ますけど、お昼からも潜るつもりですね。」


「一日の予定ですか、分りました。無理はしないで下さいね?」


「大丈夫です、私のモットーは安全第一なので無理なんて1㎜もしないですよ。ところで双葉さん、今日は誰か他の人は来てますか?」


「ふふ、そうでしたね。今のところ来てないですよ。貸し切り状態なので安心して探索してきて下さいね。」


「良かった、安心して狩りに集中できます。じゃあタイマーを3時間にセットしてっと。」


「3時間だと11時半ですね。後これ、一階の地図です。昨日話していた場所には印が付いているでもし良かったら確認してみて下さい。」


「おぉ、ありがとうございます。それで、もし12時なっても戻ってこなかったらお願いしますね?」


「はい、お任せ下さい。気をつけていってらっしゃいませ。」


「は~い、いってきます。」


 双葉さんに見送られ、ピコピコハンマー片手にダンジョンへと入場するのであった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「右良し、左良し、前良し、安全良し。」


 始めて一人ではいる裏山ダンジョン。

 安全さんは亀の歩みで進んでいた。


 昨日、英子ちゃんと確認したから危険はないことは分っている。

 けど昨日は二人でいたから安全だったのかもしれない。

 だからこそ今日の午前中は安全確認に全力を尽くして午後から本格的な狩りをする予定だったりする。


「しかし本当にこのピコピコハンマーの方が強いのかな?」


 英子ちゃんや双葉さんの言葉を疑うわけではないが見た目が完全なおもちゃのそれと同じなだけあって心配だ。

 予備武器として折りたたみの杖を持ってきているが心許ない。

 もしピコピコハンマーが使えない場合は撤退も視野に入れなくてはいけない。

 そんな事を考えながら奥へと進んでいくと三匹のモフモフ毛玉が列をなして現れた。


「考えても仕方が無いか。ええい物は試しだ。」


 先頭のモフモフ毛玉めがけ勢いよく振り下ろされピコピコハンマーは小気味の良いピコッと言う音をダンジョンに響かせ一撃でモフモフ毛玉を魔石へと変えた。


「おぉ。」


 バールで叩いたときよりも柔らかい?


 ピコッピコッ。

 連続して響いたその音は追加で二匹のモフモフ毛玉を魔石に変える。


「うん、バールよりも遙かに反動が少ないや。」


 力を入れなくても振り下ろしただけで簡単にモフモフ毛玉を倒せる。

 これが攻撃力の影響力と言う奴なんだろうか?

 もう少し試してみる必要はあるが多分そうなんだろう。

 正直、ここまで影響があるなんて考えていなかった訳だが。武器でこれなのだ、防具は命を守る上では必須になってくるんだろう。

 このダンジョンで必要かどうかはさておき一度、ダンジョン装備の取扱店に行く必要があるだろう。


 メモに書き込み、再びそろりそろりと歩き出す。

 足音を立てず、周囲の音を聞き、警戒しながら進んでいく。


 そんな安全第一の探索を続けているとお昼を告げるタイマーが鳴った。

 集中していると時間が経つのは早い物だ。


 周囲を警戒しながら魔石の数を数えると二四個。

 時間計算すると1時間当たり八匹のモフモフ毛玉を屠ったことになる。

 安全確認をしていてこの調子なら本腰を入れてモフモフ狩りをする午後からはかなりの数を狩れるだろう。

 そうすればお金も稼げるしレベルも上がってウハウハだ。・・・・・そういえば昨日からレベルの確認してないや。

 ダンジョンから出たら確認しなきゃだね。

 忘れないようにメモに書き込み、ダンジョンから脱出するために出口へと歩いて行くのだった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ふぅ、やっぱりダンジョンから脱出するとホッとする。

 ヘルメットとマスクを外し買い取りカウンターに向かう前にステータスプレートを開きレベルの確認をする。


 レベル4ね、メモメモっと。

 他に変化はないね、よし、じゃあ買い取りカウンターにいこうかな。


「双葉さん、ただいま戻りました。」


「おかえりなさい、ピコピコハンマーはどうでした?」


「すごく使いやすかったんですよ。双葉さんには悪いけど、これは手放せないですね。」


「あら、残念です。では午前中の分を精算しましょうか。」


 双葉さんはカウンターの下から銀のトレーを取り出した。


「そうだ双葉さん!魔石は少ないけどすごい物が出たんで見てください!」


 差し出されたトレーに免許と魔石、そして毛糸玉を置く。


「あら、ドロップアイテムが出たんですか!おめでとうございます。」


「ありがとうございます、ドロップアイテムは低ランクのモンスターからは殆ど出ないって聞いてたのでまさかこんなには速く手にするとは思って無かったです。」


「確かにEランクのモンスターだと特に出ないって話ですからね。まっ、ウチの支部にはそもそも人がいないんで出る出ない以前の問題ですが。」


「ははは、これからは私がいるので期待しないで待っていてくれても良いんですよ?」


「ふふ、では期待して待っていますね。こちら免許証と預かり証になります。検品してきますので少々お待ちくださいね。」


双葉さんはトレーを持って奥の机へと移動したが昨日と変わらず大して時間を掛けずに戻ってきた。


「検品は終わったのですがお支払いはどうしましょうか?」


「振り込みにして貰う事って出来ますか?」


「出来ますよ、ただ今日の支払い分は明日以降の支払い分と纏めての振り込みになってしまいますが大丈夫ですか?」


「大丈夫です。」


「あと口座番号分りますか?」


「それも控えてきてあるんで大丈夫です。」


「ではこの用紙に記入して頂いて。」


 さらさらと差し出された用紙を記入してっと、記入漏れと間違いはないね。


「お願いします。」


「記入漏れの確認しますね。大丈夫そうですね。ではこちらが午前中の明細になります。」


 手渡された明細には『モフモフ毛糸玉×1 10000円』としっかりと記されている。


「おぉ、やっぱりドロップアイテムは高いですね。」


「えぇ、ドロップアイテムはなんだかんだで需要がありますから。」


「珍しい物にはそれなりの価値がって事ですね。お昼を食べに行ってきます。」


「はい、お昼からもお待ちしてます。」


 さて、今日のお昼はなにを食べようかな。

 足取り軽やかに裏山ダンジョン支部を後にするのであった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 お昼を食べ裏山ダンジョンへと戻ってくるとカウンターには天原さんが座っていた。


「お疲れ様です。」


「安全寺さんでしたか。二宮さんは今お昼休憩中ですが用事があるなら呼びましょうか?」


「いえ、お昼休憩中に呼ぶのも悪いんで大丈夫ですよ。一応確認なんですけどダンジョンに誰も潜ってないですよね?」


「ご配慮ありがとうございます。え~とダンジョン内に人はいませんね。」


「よかった~。それが聞けたので探索に専念できます。」


「それは良かったです。ところで午前中も探索に出ているようですが余り無理はしないで下さいよ?」


「大丈夫です、遅くても17時までには帰ってくる予定なのです。双葉さんにも伝えておいて貰っても良いですか?」


「勿論いいですよ。17時帰還予定ですね。二宮さんにも伝えておきます。」


「お願いします。では準備してダンジョンにいってきますね。」


「はい、お気を付けて。」


 さてさて、午後からはどれくらい狩れるかなぁ~。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ピコピコッ

 連続してダンジョンに響いたその音は二匹のモフモフ毛玉を魔石へと変えた。


「順調順調っと。」


 お昼からの狩りを開始して二時間、もうすでに相当数のモフモフ毛玉を魔石へと変えている。

 しかし残念ながらドロップアイテムは出ていないので午前中のアレは本当に運が良かっただけなのだろう。


「地図的には最後のアレがこの辺にあるはずなんだけど・・・・・・あそこかな?」


 視線の先の壁には白い塗料で『↓2F』『→出口』と書かれている。

 どうやら目的の場所よりも先に二階への階段を見つけてしまったようだ。


 階段の上からそっと下をのぞき込んでみるが残念ながら二階の様子は微塵も分らない。

 本来ならこの時点で階段を無視して毛玉狩りに戻るべきなのだが、特殊な状況で無い限りは完全な安全地帯である事を聞いていたのでその話の事実確認も含めて階段の一番下の段まで行ってみることにした。


 一段一段とゆっくりと下っていき階段の一番下の段にたどり着くと目の前にはどこまでも続いているかのような青空と腰丈の草原が広がっていた。


「おぉ、これが噂のフィールド階層って奴かぁ、これはもう外だって言われたら信じちゃう出来映え。正直感動物だよ。」


 草原を覆う草は風でさわさわと揺れ、穏やかな日差しも相まってなんとものどかな雰囲気をかもし出している。

 日向ぼっこしながらお昼寝したら気持ちよさそう。

 っていかんいかん、私はなんてことを考えてるんだ。ここはダンジョンだぞ。そんなところでお昼寝なんてとんでもない。


 しかし階段周りでもモンスターは普通にうろついてるって聞いたんだけど・・・・・たまたまいないだけかな?

 見れればラッキーだと思っていたけどいないなら仕方が無いさっさと戻ってモフモフ狩りを再開しようじゃないか。


 後ろを警戒しながら階段を素早く上り、目的地への移動を再開するのであった。


 二階から戻ってきてから数分、どうやら目的の場所を見つける事が出来たようだ。


「おぉ、あればラッキーくらいの感覚で向かっていたけど本当にあるんだね。」


 私の視線の先には木彫りの宝箱が鎮座しているからここがトレジャーポイントで間違いない。


 こう言う場所は階層内にいくつかあるようだが、日付が変わると宝箱の中身や設置場所も変更されてしまうらしく日付が変わると同時にトレジャーポイントを巡り大金を稼ぐ探索者もいるようで、時には収得権を巡って争いになる事もあるらしい。

 その点、私のいる裏山ダンジョンは安心だ。なぜなら争う相手がいないのだから見つけ次第、気にせず回収してしまっても構わないのだ。


「さて、準備して開けようかな。」


 鞄から折りたたみ式の杖を取り出し地面に伏せ杖を使って蓋を開ける。


 なぜこんな事をするかと言えば宝箱には罠が仕掛けられている可能性があるからだ。

 昨日の時点でこのダンジョンの宝箱にそんな仕掛けは無いと聞いているが万が一の可能性がある限り私はこうやって宝箱を開ける。

 なぜならこの方法が探索者協会によって配られている安全マニュアルに載っている最も安全な宝箱の開け方だからだ。


 蓋を開けてゆっくり10秒を数えてから起き上がり服に付いたほこりを払う。


「罠は無かったみたいだね。お宝はなにかな~♪」


 ウキウキしながら宝箱の中を確認するとそこには極めて薄い赤色をした液体の入った瓶が三本入っていた。


「これは多分だけどポーションかな?持って帰って調べれば分るよね。」


 瓶が割れてしまわないようにタオルで包み鞄にしまい込みモフモフ狩りを再開するのであった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 モフモフ毛玉を狩りながら出口へと向かっていくと丁度、出口付近でタイマーが鳴る。

 よしよし、私の予定通り戻って来れたね。


 そのままダンジョンから出てステータスの確認もしておく。

 結構狩ったつもりだけどアレで1レベルか。まぁ、危険は無いんだし気長にいこうかな。


「双葉さんただいまー。買い取りお願いします。」


「おかえりなさい。お昼は不在で申し訳ありませんでした。」


「いやいや、二人だけしか職員さんいないんでしょ?仕方が無いよ。」


「そう言って頂けるとありがたいです。こちらに免許と一緒に出して下さい。」


 差し出されたトレーに免許証とポーションと思わしき瓶、それと今日取れた魔石を全部出す。


「あら、ポーションがあるという事は例の地図が役に立ったんですね。」


「やっぱりこれがポーションなんですね、正直、あの地図がなかったら見つけれてなかったと思いますよ。」


「ちなみになんですけど宝箱の種類を聞いても良いですか?」


「最終ポイントにそれは見事な木彫りの宝箱が鎮座してました。」


「ふふ、見事って。でもやっぱり木彫りなんですね。一応資料で確認はしたんですけど一つ上のグレードの鉄の宝箱までは出現するらしいので根気よく巡ってみて下さいね。」


 まぁその辺はレベルスやキルと一緒で気長に頑張ってみるしかないよね。


「こちらが免許証と預かり証になります。検品して来るので少しお待ちくださいね。」


 双葉さんはトレーを持って行きいつもの机で検品作業を開始する。

 そんな光景をボーっと眺めているとそれほど時間を掛けず検品を終了して戻ってきた。


「こちらが明細ですね。金額をご確認の上でこちらにサインをお願いします。」


 魔石が六十一個で6100円と最下級ポーションが三本で6000円。

 最下級でこの値段ってポーションって高いんだ。


「ドロップアイテムもそうですけどポーションもなかなか良いお値段しますね。そんなに効果があるんですか?」


 さらさらとサインしながら聞いてみる。


「そうですね、最下級でも軽い切り傷ならかけるだけで完治しますよ。」


「へぇ、じゃあ一本くらいはお守り代わりに持っていた方が良さそうですね。」


「そうですね、ただもしお守り代わりに持っているつもりなら店売りの物でもダンジョン産のポーションを持ち歩くことをオススメします。」


「装備みたいに性能が違う感じですか?」


「いえ、そうでは無くて調剤スキルや錬金スキルで作られた物はお安いんですが使用期限があって保存には向かないんです。」


「へぇ~、使用期限が。と言うかスキルでポーションが出来るんですね。」


「えぇ、まぁ。ただスキルで作られた物はスキルレベルや本人の腕前でかなり性能にムラがあるので基本的にはダンジョン産のポーションを使用することをお勧めします。」


 話を纏めると私の場合はダンジョン産ポーションにしましょうって事だね。


「ちなみにポーションの材料の薬草はこのダンジョンでも取れるんですよ?」


「もしかして2階の草原で取れたりして。」


「二階に行かれたんですか!?」


 双葉さんはすごく驚いた顔をしてこちらを見ている。


「2階には一歩も入ってないです。念のため階段の一番下の段から覗いてみただけです。流石に下調べすらしてない初めての階層の探索なんてしないですよ?」


「なるほど、そう言う事でしたか。ではモンスターとの接触も。」


「もちろんしてないです。と言うか見渡す限りの草原でどこにいるのか分らなかっただけなんですけどね。」


「あ~、確かにあそこのモンスターはわかりにくいですからね。資料をお持ちしましょうか?」


「暫く2階に行く予定はないので必要ないです。」


「かしこまりました、必要になりましたらお申し付けください。」


「その時になったらお願いします。さて、そろそろ帰りますね。」


「はい、今日もお疲れ様でした。」


 今日も怪我も無く一日無事に過ごすことが出来た。

 収入的にも十分だし明日以降もこの調子で頑張ろっと。


■レベル5 (+2)

■所持ポイント2724TP (+85)


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[一言] 更新ありがとうございます。これからも楽しみにしてます。
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