安全さんは宝くじを買う
なんか四者面談みたいな空気になって英子ちゃん達は話し込んじゃってるけど今はスキルの確認が先だよね?
「そろそろ確認を進めたいんですけど、良いですか?」
そう呟けば全員の顔がこちらを向いた。
「そうでした。お待たせしてすみませんでした。では宝くじの購入をしてみましょうか。」
完全に忘れたね?次同じ事をしたらお詫びとしてジャンボチーズケーキを要求しようかな?
そんなことを考えながらたからくじ売り場のページを開く。
「さて、現在購入できるのがはじまりのスクラッチと初心者くじですか。当たり一覧とかはないんですね?」
「ん~くじの名前以外にタップできそうな場所はないですけど・・・・。」
「確かに、では一度購入画面まで行ってみましょうか。」
天原さんの指示に従い、一先ずはじまりのスクラッチをタップしてみる。
■はじまりのスクラッチ
あなたの冒険を応援するアイテムが盛りだくさん。お試し版なため効果はそれなり。
特賞 アイテムバック(最小)
1等 鑑定眼鏡(最下級)
2等 無限水筒(100㎖/24h)
3等 ランダムはじめての装備
4等 最下級ポーションセット
5等 100TP交換券
ダブルチャンス お菓子
□1枚(100TP) □10枚(1000TP)
おぉ、当たり一覧はここにあったのか。私でも知ってる魔道具の名前がずらり。なかなか大盤振る舞いだねぇ。
「・・・・・・取り敢えず初心者くじも確認しましょう。」
「え~と、はい。」
天原さんから発せられる有無を言わさぬ威圧感、そんなにもまずい内容だったかな?
■初心者宝くじ
初心者の君をサポートする便利アイテム盛りだくさん。正規版だけど初心者用。
特賞 旅人のコンパス
1等 若葉のペンダント
2等 隠者のローブ
3等 冒険家の靴
4等 初心者装備交換券
5等 300TP 交換券
ダブルチャンス 食べ物交換券
□1枚(300TP) □10枚(3000TP)
こっちにはよくわかんないアイテムが並んでる?はじまりのスクラッチの方が有用そうだけど、どうなんだろう?
「こちらもなかなか。」
「え~とそんなにもまずい内容でしたか?私、探索者とか魔道具の話には疎くって・・・。」
「いえ、まぁ、まずくはないんですが、う~んどうしようかな。」
なんとも歯切れの悪い返答。これはどう言う意味で捉えて良いのか判断しづらいよ?
「申し訳ないんですが少し考える時間を貰っても良いですか?」
「いいですよ。ねっ英子ちゃん。」
「ええ、では天原さんの考えが纏まったら確認を再開しましょう。」
「ありがとうございます。二宮さん、スキルに危険性はないようなので応接室に案内して上げて下さい。私はここで考えを纏めてから向かいますので。」
「かしこまりました。安全寺さん、柳田さんこちらへどうぞ。」
二宮さんの先導で応接室へと移動した。
高そうな革張りのソファーに腰掛けたのだが、ちょっと柔らかすぎない?
「重ね重ね、ウチの天原がご無礼を働き申し訳ございません。」
「いやいや、二宮さんが謝ることじゃないですよ。」
「そうね、気にしないで欲しいわ。」
「そう言って頂けると助かります。私は少しここを離れますのでご自由にお過ごし下さい。」
二宮さんはそう告げると一礼をし、応接室から退室していった。
「安全ちゃん、今のウチに宝くじスキルの力の認識をすり合せしましょうか?」
「うん、いいよ。」
「じゃあまず最初に安全ちゃんのスキルをわかりやすく言い直すとポイントさえ貯められれば高価な魔道具を手に入れる可能性があるユニークスキルでいいわね。」
「良いと思うよ、それはつまりモフモフ毛玉を狩ってるだけでアイテムバックとか色々な魔道具が手に入るかもしれないってスキルだって事でもあるね。」
「そうね、そうなんだけど、あくまで可能性でしかないってところが重要よね。」
「どう言うこと?」
「現実でも宝くじってなかなか当たらないでしょ?だから安全ちゃんのスキルも宝くじである以上、当選確率は低いのではないか、と私は考えているわ。」
「確か現実の年末に売り出されるくじなんて一等の当選確率は2000万分の1以下だって聞いたことがあるような・・・。もし、そのレベルだったらまず当たらないよね。」
「でしょう、だから安全ちゃんのスキルは当たればラッキーなおまけぐらいだと考えておきなさい。希望を持ちすぎると落胆も大きいわ。」
「おまけにしては当たりが豪華だけどね。」
「ふふ、そうね。」
「しっかしこのスキルでユニークスキル保有特権の申請が通るかな?」
「あら、気になるの?」
「うん、この項目。もしこの項目の申請が通れば下層にまで活動範囲が広がるかなって。」
「あぁ、確かに安全ちゃん的には必須よね。」
「でしょ~?」
そんな話をしていると二宮さんはペットボトルを抱えて戻ってきた。
「ペットボトルのお茶で申し訳ないですけどどうぞ。」
手渡されたのはキンキンに冷えた『はい!新茶!!』
これ、本格的な味わいで好きなんだよね。
「ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
「それで、冊子を見ていたようですがなんのお話をされていたのですか?」
「あぁ、それは・・・・・。」
「あら、それなら・・・・・。」
「じゃあこっちは・・・・・・・。」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
あれからかれこれ一時間、双葉さんを交えて会話しているとようやく天原さんが応接室へとやって来たようだ。
「あ~、申し訳ない。なかなか考えが纏まらなくってやんなりますよ。」
「問題ないですよ、こちらも双葉さんと有意義なお話が出来ましたし。」
「そうですね。天原さん、安全さんの専属受付になろうと思うんですが許可頂けますか?」
「はは、随分仲良くなったんですね。でも安全寺さんはこのダンジョン以外のダンジョンに潜る予定はないとおっしゃってるので必要ないんじゃないですか?」
「いえ、天原さんを待っている間に他ダンジョンへの遠征の可能性が出てきました。」
「なるほど。で、あれば許可しましょう。後で正式に書面を出しますが明日の0時付けで専属受付就任と言うことでお願いしますね。」
「承知しました。と、言う事で安全さん。よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
「しかし、ウチの支部から探索者に専属受付が付くのは久しぶりですね。」
「久しぶりどころか初めてなんじゃないですか?」
「はは、そんなことはない・・・・はずです。」
あ~、流石の支部長も自信が無いんだね。
「そんなことより確認の続きをしましょう。え~とどこまでやりましたっけ?」
「くじの当たり確認までです。」
「そうでしたそうでした。では実際に買ってみましょう。」
「2種類あるんですけどどっちを買いましょう?」
「くじの種類が違うので1枚ずつお願いします。」
「了解です。」
1枚購入を押すと『はじまりのスクラッチ×1 購入内容を確定しますか? □はい □いいえ』と表示されたので『はい』を押すと画面には『ご購入ありがとうございました。』と表示され当たり一覧の画面へと戻った。
「これで買えたんですかね?」
「ポイントは減っているようなので買えているはずですが・・・。」
「くじ一覧しかないですよね?確認してみましょうか。」
くじ一覧を開くとそこには、はじまりのスクラッチの文字が追加され、その前にはNEWの文字が点滅している
「ありますね、では初心者宝くじも買っちゃいますね。」
サクッと初心者宝くじも購入してくじ一覧へと戻る。
「さて、ここからどうすれば良いんでしょうか?」
「順当に行けば、文字をタップすれば画面が変わると思うんですけど・・・。」
はじまりのスクラッチをタップすると『使用しますか □はい □いいえ』と表示されるのでもちろん『はい』を選択する。
すると、画面が光り名刺大のスクラッチカードが発券機よろしく画面から出てきた。
「まさかの現物が出てきましたね。それは私達でも触れるんでしょうか?」
「持ってみます?」
天原さんにスクラッチくじを手渡してみると持ててしまった。
「触れますね。これは興味深い。」
天原さんはしげしげとはじまりのスクラッチを観察しだした。
「ついでなので初心者宝くじも実体化しますね。」
「えぇ、お願いします。」
初心者宝くじの項目をタップすると先ほどとは違う画面が開いた。
■当選番号発表日 三月三一日 午前0時
・4組594751番
「なるほど、こちらは実体化しないんですね。ではスクラッチ削っちゃいましょうか。」
ふふ、人生初のスクラッチ。何か当たるかな~。
わくわくしながら財布を探すために鞄へと手を伸ばす。
「どうぞ。」
双葉さんが10円を貸してくれるようだ。
「ありがとうございます。ではでは。」
このスクラッチは3×3マスで削れる場所は3カ所だけのようだ。
であるならば直感で行こう。
まずは上段、右を削れば剣のマークが出てくる。
次に中断、右を削れば再び剣のマークが出てくる。
最後に下段、真ん中を削れば・・・・・。
「やったー!当たり引いちゃったー!」
「おお、おめでとうございます。剣のマークという事は3等のはじめての装備ですね。」
「安全さん、おめでとうございます。」
「安全ちゃん、おめでとう。でもまだダブルチャンスが残ってるわよ。」
「本当だ。サクッと削って流石にこっちハズレだね。」
全て削り終わるとスクラッチくじは光となって消え、ピコピコハンマーが現れた。
「え?はじめての装備ってこのピコピコハンマー?」
「光の中から出てきたのでそうなんでしょう。」
「安全さん。のピコピコハンマー、鑑定してみます?」
「・・・・・・お願いしても良いですか?」
「かしこまりました。」
なんとも言えない空気の中、ピコピコハンマーを鑑定に掛ける事が決定した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
はじまりのスクラッチで手に入れたピコピコハンマーの鑑定結果がこちら。
■はじまりのピコピコハンマー
耐久性 ―――(―――)
攻撃力 1 (気絶10)
おもちゃのピコピコハンマーを武器へと改造した一品。
はじまりの装備であるが為に不壊。非常に弱いが使いやすい。
「思ったよりも強い?」
「そうですね、攻撃力はアレですが、気絶の状態異常付きで壊れない武器となると、なかなかにすごい武器です。」
あ~やっぱり攻撃力はアレなんだ。
「安全ちゃん、今の天原さんの言葉を勘違いしちゃ駄目よ?攻撃力がアレって言うのはダンジョン装備の中での話でそのピコピコハンマーは安全ちゃんが持ってるバールよりも間違いなく強い武器よ。」
このピコピコハンマーがバールよりも強い?どっからどう見てもバールの方が強そうだよ?
「勘違いさせたようで申し訳ない、間違いなくこのピコピコハンマーはダンジョン装備なのでそちらに立てかけてあるバールよりも強いです。安心して使って下さい。」
天原さんが申し訳なさそうに謝罪してくる。そんなことよりも、
「ダンジョン装備ってなんですか?」
そんな言葉、講習でも習わなかったよ?
「あぁ、そうだよね。安全ちゃん、ダンジョンには興味なかったからダンジョン装備って言われても分んないわよね。」
「うん、外で働く気満々だったし、自慢じゃ無いけどダンジョンに潜るつもりは爪の先ほども無かったからね。」
「では僭越ながら私が安全さんに説明しますね。」
双葉さんが説明してくれるの?お願いします。
「まずダンジョン装備とはダンジョンで取れた素材を使用した装備品やダンジョン内で手に入った装備品の事を指した名称です。」
つまり今日、英子ちゃんの持っていた槍やパワースーツはダンジョン装備だって事だね。
「ではダンジョン装備と一般装備の違いはなにか。それは鑑定時に表示される攻撃力や防御力の存在です。この攻撃力と防御力があるとなにが変わるのかと言われると、まずモンスターへ与えるダメージと受けるダメージに違いが出ます。」
まぁ、その辺はゲームと同じかぁ。
「特に攻撃力0は深刻でEランクダンジョンの5階より先のモンスターには、ダメージを与えられなくなります。」
なんだと。滅茶苦茶重要な情報が出てきたぞ。
「極端なことを言いますと攻撃力が1でもあればどんなモンスターでも倒せます、しかし1も無ければ一部のモンスター以外はどうにもならないんです。」
こんな重要な情報を講習で教えないなんて探索者協会は安全対策に対する配慮が足りてないんじゃないかな?
「と説明してきましたが、ダンジョン装備と言う名称を知らなくても本業にする方は初回からダンジョン装備をお持ちの方が殆どですし、それ以外の方でも二回目以降の探索でダンジョン装備をお持ちになるので特に注意喚起などはしていないんですけどね。」
・・・・・へ、へぇ~。そ、そうだよねー。探索者を続けるなら当たり前だよねー。
英子ちゃん、そんな目でこっちを見ないで。私がバールを使い続けようとしてたのがバレるでしょうが。
「ふふ、今までの説明でなにかご不明な点はありますか?」
「内容から少し外れるんですけど1つだけ質問しても良いですか?」
「どうぞ。」
「この気絶10ってどれくらいの強さなんですか?」
「あぁ、状態異常値についてですか。そうですね、気絶10は人間を連続で十回叩くと気絶させるくらいの数値です。」
連続で十回か。いや人には使わないけどどうなんだそれ?
「ちなみこのダンジョンのモンスターならダンジョンボスを除く全てのモンスターが1撃で気絶するはずです。」
おぉ、それはすごい。つまりこれ一本でこのダンジョン内はより安全になったって事じゃないですか。
「私は探索者になって早々に最強武器を手に入れてしまったのかもしれない。」
「はいはい、馬鹿なこと言ってないの。」
「ふふふ、以上で説明を終わりますね。天原さん、他に確認しなきゃいけないことはありますか?」
「確認項目は全て終了しているのでお帰り頂いて構いませんよ。」
「では私は受付業務をしてくるので天原さんは報告書の提出をお願いしますねー。」
双葉さんはそう早口で告げると勢いよく応接室を出て行った。
「あ、ちょっと。はぁ、仕方が無いですね。あ~、柳田さんは受付で依頼の達成処理をしてから帰って下さいね。」
「はい、では私達も失礼します。ほら安全ちゃん帰るわよ。」
「うん、失礼します。」
英子ちゃんを追い応接室から出て行く安全さんの背中を天原はじっと見つめていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
夕焼け染まる帰り道私は英子ちゃんと駅へと向かって歩いている。
「英子ちゃん、今日はありがとね。」
「ふふ、いいのよ。暫くはバイト代わりに潜るんだったわね?」
「うん、それなんだけど、スキルとかピコピコハンマーのこともあるからアルバイト感覚じゃ無くって本格的に腰を据えて頑張ってみようかなってるんだ。」
「あら、良いんじゃない。安全ちゃんが決めたなら私は応援するわよ。」
「英子ちゃんに追いつく・・・・つもりは一切無いけど、あっ驚かせるよう探索者にはなってみせるから楽しみにしてて。」
「ふふ、期待しないで待ってるわ。でも安全ちゃんがここまでやる気なのは珍しいわね。なにを企んでるのかしら?」
「企んでいるとは人聞きが悪い。ただの安心で安全なダンジョン攻略を計画してるだけだよ。別に変な事じゃないでしょ?」
「まぁ、いつも通りの安全ちゃんでしかないわね。」
「でしょ?で、その計画の合い言葉は『安全良し!』にしようとか考えてるんだけどどうかな?」
「良いと思うわ。素敵よ。」
「あっ、その顔は声は良いと思ってないな~。」
「そんなことないわー。安全ちゃん素敵―。」
「今度は完全に棒読みじゃん。」
「ふふ、ところで安全ちゃん今日の夜ご飯はなににする。」
「そうだね、パスタとかどう?」
「良いわね、じゃあ苗新駅に新装開店したパスタ専門店に行きましょ。」
「じゃあそこに決定。」
「安全ちゃん。」
「なあに?」
「無理は禁物よ。」
「うん、そこは大丈夫。この安全第一安全さんの計画に抜かり無しだからね。じゃあパスタを食べにレッツゴー。」
こうして安全さんの探索者体験は終わりを告げ、安全さん式安心安全ダンジョン攻略が人知れず産声を上げたのであった。
■レベル3
■所持ポイント 2639TP