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安全さんの安全良し!  作者: 猫羽ねむる
第1章 安全なダンジョン
3/65

安全さんはレベルアップ

 

「おめでとう、これで安全ちゃんも駆け出し探索者ね。」


 モンスターとは言え生き物を殺したという感傷に浸っている私に英子は床に落ちた魔石を拾い手渡しながら告げてきた。


「ありがと、でも心にくるものがあるね。」


「それはこのダンジョンのモンスターの見た目がかわいいからよ。他のダンジョンに出てくるモンスターと戦えばそんな感想が絶対に出ないくらいの壮絶な体験をすることになるけど行ってみる?」


「ご辞退申し上げます。」


 はい、英子ちゃんの言葉で心にきてた物はどこかに吹き飛んだので結構です。私のモットーは安全第一。モフモフ毛玉君は安全のための貴い犠牲だと思えばなんてこと無いよ。


「行きたくなったら声を掛けなさいね?その時もついて行って上げるから。」


「多分行くことは無いと思うけど、もし、もし行くことになったらその時はお願いね。それよりもこれでレベルが上がってスキルが手に入ったんだよね?」


「そうよ、本当は安全地帯以外でやっちゃ駄目なんだけど、私もいるし安全だからここでステータスオープンって唱えてみなさい。そうすればスキルが確認できるわ。」


「わかった。それじゃあ早速、ステータスオープン。」


 ドキドキしながら発した言葉に反応し私の前にステータスプレートと呼ばれる半透明の画面が現れた。この画面に表示されている情報は許可しない限り他人には見えないらしいが本当だろうか?



 名前:安全寺(あんぜんじ) 佳奈(かな) 

 誕生日:2月9日

 年齢:22

 レベル:1

 スキル:宝くじLv1



「え?・・・・これだけ?」


 あまりの情報の少なさにさっきまでの疑問は消し飛んでしまった。


「残念ながらそれだけよ。」


「もっとゲームみたいにHPとか、ATKとかの項目があるんじゃないの?」


「・・・・安全ちゃん、ちょっとダンジョンの雰囲気に飲まれてきてるわよ?」


 ・・・・・そうだよ、私はなにを言ってるんだ。ここは現実、ゲームみたいに命を数字で表示できるわけが無いじゃないか。


「ごめん、無自覚だった。」


「良いのよ、初めての探索では陥りやすい症状だから恥じることでも無いわ。私も初めての探索で同じような事を同行していた先輩に聞いたて生暖かい目を向けられたわ。懐かしいわね。」


 くっ、英子ちゃんの生暖かい目が心をえぐってくる。


「ふふ、珍しい安全ちゃんが見れてラッキーだったわ。まぁ、数値化されてないだけでレベルが上がれば強くなるから安心しなさい。」


「そうだった。確かレベルが高くなると生身でも刃物が刺さらなくなったり、体型は変わらないのに力が強くなったりするんだよね。」


「そうよ、有名な話よね。それでスキルはなんだったのかしら?もし試せるスキルなら試していきましょ。」


「スキルはね『宝くじ』ってスキルだったよ。」


「宝くじ?聞いたことないスキルね。もしかしたらユニークスキルかも・・・。」


「おぉ、ユニークスキル。はっ!もしかして私も最前線に放り込まれて凶悪なモンスターをバンバン倒す日々が・・・・・。」


 あわあわしていると無駄のない動きから繰り出されデコピンがヘルメットに直撃する。


「いっつー、なんでヘルメットを貫通して痛みが~。」


「ユニークスキルかもよ、か・も。それに名前から戦闘スキルじゃないのは間違いないから安全ちゃんが最前線に行く日は永遠に来ないわよ。」


「そんなことよりも、もうちょっと手加減してよ。結構痛いんだけど?」


「ならちょっとは落ち着きなさい。とにかく戦闘系のスキルではなさそうだから調べるのはダンジョンを出てからにしましょう。なんなら受付で調べて貰うのもありだと私は思うわよ。」


「了解、じゃあスキルの話は一旦おしまいね。」


 ステータスの確認はしたけどスキルの検証までするかと言われればそれとこれとは話が別だ、受付で調べて貰えば同じスキルの情報が見つかるかもしれないのに、こんな場所でモンスターを警戒しながら検証する必要はない。


「さて安全ちゃん、無事レベル1になってスキルを使えるようになったわけだけど、このまま探索を続けるか、帰還してスキルの検証をするかどっちが良いかしら?」


 スキルも気になるけど、このダンジョンに英子ちゃんが付いてきてくれるのは今日だけだ。

 ならば今のうちにレベルを上げておいて明日以降の安全度を高めるべき。


「英子ちゃん、レベルを上げたいからもう少し探索を続けても良い?」


「もちろん良いわよ。レベル上げなら私は手を出さないで後ろから付いて行くから好きにやって見なさい。」


「分った。よし、悪い毛玉はイネガー。」


 英子ちゃんを引き連れた安全さんは安全のために修羅となりモフモフ毛玉を求めてダンジョンを練り歩くのだった。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「安全ちゃん、そろそろ二時間経つわ。帰るわよ。」


「もうそんな時間?じゃあこの子達で最後にするね。」


 手慣れた様子で目の前のモフモフ毛玉にバールを振り下ろし魔石へと変える。


「ふぅ~、これで最初の毛玉も併せて三十五匹。なかなか良い感じに狩れたかな?」


 魔石を拾いながら計算すれば時給1000円を超えている。初回の探索としては上出来な稼ぎなんじゃ無かろうか。


「初めてのダンジョン探索だとは思えない豪快な動きだったわね。」


「そりゃあ安全な場所なら遠慮はいらないでしょ?」


「まぁ、うん。その豪快さが常時発揮で来てれば探索者としても大成できただろうに。勿体ない。」


「私は探索者として大成できなくても五体満足で美味しい物が食べれる程度の生活が出来れば良いんだよ。」


「ふふ、そう聞くと安心ちゃんらしいわね。」


「でしょ?それよりも長々と付き合わせちゃってごめんね?」


「そんなこと気にしなくて良いのよ。それで今後もダンジョンに潜るのかしら?」


「うん、このダンジョンの1階が安全でアルバイトより稼げそうなのが分ったから続けて見ようとは思ってる。けど本業にするかはまだ未定かな。」


「そう、ならまた暇を見て下層に付き合って上げるから暫くは自分のペースで頑張りなさいね?ただし無理は禁物よ。」


「ふふ、なんだかんだ言っても英子ちゃんは優しいよね~。」


「そんなことないわ、私は安全ちゃんが石橋を叩いて壊してるのを黙ってみてられないだけよ。」


「素直じゃないんだから~。」


「知らないわ、行くわよ。」


「あっ速い、速い。置いてかないでぇ~。」


 若干顔を赤らめ早足で遠ざかっていく英子ちゃんを追いかけダンジョンの入り口へと向かうのだった。

 もちろん道中に出てきた哀れな毛玉が魔石と経験値に変わったのは言うまでも無い事である。



 ◇◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「はぁ~やっと外だ~。」


 ヘルメットやゴーグル、マスクを外しながら外の空気を目一杯吸い込む。


「はい、お疲れ様、忘れないうちに魔石を売りに行くわよ。」


「は~い。」


 買い取りカウンターへと向かい歩いて行くと暇そうにしていた受付のお姉さんが笑顔でこちらのカウンターへとやってくる。


「探索お疲れ様でした。初めてのダンジョン探索と聞いていましたが大丈夫そうですね。」


「はい、一人じゃ無かったので安心して潜れました。」


「それは良かったです。ではこちらのトレーに免許証と買い取り希望品をお願いします。」


 差し出されたトレーに免許証と魔石を乗せる。


「安全寺 佳奈様ですね。こちら預かり証になります。検品して参りますので少々お待ちください。」


 そう告げると受付さんはカウンター奥のこちら側からも見える位置にある机に置かれた機械に魔石を通しながら数を数え始めた。

 数も少なかったこともあり直ぐに戻ってきた。


「預かり証を確認します。はい、ありがとうございます。では今回の買い取り希望のお品はEランク魔石が40個で4000円になります。この金額で宜しいでしょうか?」


「はい、大丈夫です。」


「お支払いは振り込みも可能ですが、現金で宜しかったでしょうか?」


「はい、現金でお願いします。」


「そちらの方も?」


「いえ、私は付き添いなので全部この子にお願いします。」


「承知しました。では金額に間違えが無いかをご確認の上、こちらの受取人の欄にサインをお願いします。」


 差し出されたトレーの上にはお札が4枚。間違いないのでサインをする。


「はい、ありがとうございます。他にご用はございますか?」


「スキルの照会をお願いしたいんですけど良いですか?」


「スキルの照会ですね。承知しました。どのようなスキルかお伺いしても宜しいでしょうか?」


「宝くじ、って言うスキルなんですけど、後ろの彼女も聞いたことが無いって言ってまして、調べて貰うことは出来ますか?」


「宝くじですか。確かに聞いたことないですね。探索者協会のデータバンクを調べてきますので少しお時間を頂いても宜しいですか?」


「それじゃあ先に着替えてきますね。」


「承知しました、着替えが終わりましたらまた受付にお声かけください。」


「はい、お願いします。」


 ロッカールームに入り着替えをしながら先ほどのことを英子に尋ねる。


「英子ちゃん、全額貰っちゃって良かったの?」


「いいわよ、私こう見えてかなり稼いでるし、それに安全ちゃんが本格的に探索者として活動するならお金は必要になるわ。少ないけど取っておきなさい。」


「ありがと,大事に使うね。」


「ほら、ニヤニヤしてないで早く着替えなさい。スキルの事も気になってるんでしょ?」


「うん!」



 ◇◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 受付に戻ると奥から受け付けさんがやって来た。


「お待ちしておりました。早速ですがデータバンクでの検索結果は該当無し。スキル『宝くじ』はユニークスキルと断定されました。」


 おぉ、本当にユニークスキルだったのか。ちょっと嬉しい。


「それで大変申し訳ないんですがユニークスキルが発見された場合、危険性の確認をする事に成っていまして、この後のお時間宜しいでしょうか?」


「大丈夫です。英子ちゃん、付いてきて欲しいんだけど・・・いいかな?」


「もちろんいいわよ。受付さんその確認作業って職員二名、Bランク以上の探索者一名の立ち会いが必要でしたよね?探索者の方に入れて貰うことは出来ますか?」


 英子ちゃんは探索者免許を取りだし受付さんに提示する。


「もちろん構いませんよ。依頼として処理しますので少々お待ちください。」


 受付さんは英子ちゃんの免許を機械に差し込み何かの操作を始めた。


「英子ちゃん、ありがとう。」


「ふふ、ここまで来てスキルを見ずに帰るなんて出来ないわよ。」


「はい、依頼として受理されました。ではこのまま試射室に移動しましょう。天原さん、出番です、行きますよ。」


「準備でき次第、すぐに行くので先に行って下さい。」


「もう、すみません。ではこちらです。」


 受付さんに案内されてたどり着いた試写室は射撃訓練場のように的が用意されている部屋だった。



「改めまして、立会人を務めさせて頂きます二宮(にのみや) 双葉(ふたば)と申します。」


「安全寺 佳奈です。よろしくお願いします。」


「柳田 英子です。よろしくお願いします。」


「よろしくお願いします。天原さん、男性職員が到着次第、確認を開始できるように先にユニークスキル関係の制度についての簡単に説明をしますね。こちらをどうぞ。」


 そう言いながら一冊の小冊子を手渡してくる。


「まずこの確認作業でスキルの詳細を確認し協会のデータバンクに登録する事になるのですが後日、探索者協会から謝礼が振り込まれますと言うのがまず一点。」


 おぉ、謝礼が貰えるのはちょっと嬉しい。


「次に有用なスキルであると判断された場合様々な支援が受けれますよ、と言うのがもう一点。」


 この項目には魅力的なことが色々書いてあるけど宝くじじゃ難しいかなぁ。


「最後にスキル保有者の情報は厳重に管理されます、と言う三点です。なにかご不明な点はありますか?」


「大丈夫です。」


「はい、もしご不明な点がありましたら受付でお尋ね下さい。」


 丁度、説明が終わったタイミングで男性職員さん、天原さんがやって来た。


「お待たせしてすみません。西川動植物園裏山ダンジョン支部の支部長、天原(あまはら) 龍一郎(りゅういちろう)です。よろしくお願いします。」


「あっ安全寺 佳奈です。よろしくお願いします。」


 突然の偉い人の登場に動揺しながらも天原さんと握手する。


「柳田 英子です。よろしくお願いします。」


 英子ちゃん、堂々としすぎ、天原さんは支部長さんだよ。何かでお世話になるかもしれないんだからもうちょっとゴマすっときなさい。


「はっはっはっ、安全寺さん、緊張しなくて良いですよ。こんな小さなダンジョンのしがない支部長です。親戚のお兄さんぐらいの対応で大丈夫ですよ。」


 そんなこと言われてハイそうですかって言える分けないじゃん。


「天原さん、それは無理じゃないですか?お兄さんって年齢じゃないですよ、どっちかと言えばおじさんです。あっ私は近所のお姉さんぐらいの対応で良いですよ。」


「ひどいなぁ~、二宮君も大概じゃ無いか、君だって、今年三じひぃ。」


 おぅ、二宮さんが天原さんに向けて人を殺せそうな視線を放ちだした。


「天原さん、何か言いました?」


「い、いや。なにも言ってないよ。」


「そうですか、ではエルポワールのジャンボチーズケーキで手を打ちましょう。」


「ぐぅ、分ったよ。これで手打ちね。」


 なんとも力関係の見えるやりとりだけど・・・・私もジャンボチーズケーキ食べたいなぁ。


「ご、ごほん、とにかく確認作業を始めよう。では安全寺さん、スキルを発動させて下さい。」


「はい、と言いたいところなんですけど、常時発動型以外のスキルはスキル名を唱えれば発動するんでしたっけ?」


「そうです、ある程度慣れてこれば名前だけでも発動しますが、慣れないウチはスキル名の後に起動と付け加える事をオススメします。」


「了解です。ではではスキル『宝くじ』起動!」


 その言葉に呼応するように半透明の画面が現れた。



 ■所持ポイント 3039TP

 □宝くじ売り場

 □くじ一覧

 □履歴



「ステータスプレートよりも豪華だけど思ったよりもシンプル?」


「そうね、この一番上に表示されているポイントでくじを買うのかしら?」


「多分そうじゃないかな?この文字に触れれば画面が変わるのかな?」


 適当に宝くじ売り場の項目をタップすると画面が切り替わった。



 □はじまりのスクラッチ(100TP)

 □初心者宝くじ    (300TP)



 どうやら今の段階で選択できるのはこの二種類のみのようだ。


「購入より先に他の項目も確認しましょう。」


「はい。」


 天原さんの指示でホーム画面に戻り今度はくじ一覧をタップする。


「まぁ、何にも無いですよね。」


「でしょうね。では次行ってみましょう。」


 再びホーム画面に戻り履歴をタップする。


 ・モフモフ毛玉 1TP

 ・モフモフ毛玉 1TP

 ・モフモフ毛玉 1TP

 ・モフモフ毛玉 1TP

 ・モフモフ毛玉 1TP

 ▽


 おぉ、見事にモフモフ毛玉が並んでるや。あの子、1TPだったんだね。じゃあ3000TPはどこから来たんだろう?

 履歴をスクロールしていくと最後の最後にその答えが記されていた


 ・スキル習得ボーナス3000TP


「ん~これだけの情報だと3000TPが多いのか少ないのか判断できませんね。」


「強いモンスターを倒して1TPって事は無いと思いますけど・・・。」


「そうですよね。今日これから検証しに行っても良いんですが、安全寺さんが初回の探索終わりな事を考えるとやめておいた方が良さそうですね。」


 まぁ、もし直ぐに行くって言われても準備不足を理由に拒否しますけど?


「ちなみになんですけど後日このダンジョンに来て頂くことは出来ますか?」


「暫くはここの1階にお世話になる予定です。」


「・・・・・・違うダンジョンに行かないのですか?」


「行きませんよ?安全じゃないでしょ?」


「あっはい。柳田さん、彼女はいつもこんな感じですか?」


「そうです。安全ちゃんは安全第一で活動する子なので、絶体に安全な状況でもない限り2階に行くことも拒否すると思いますよ。」


「英子ちゃん、なに当たり前のこと言ってるの?一人で未知の領域に行くなんて危ないでしょ?」


 えっ?なんでみんなして残念な物を見る目でこっちを見てるの?


「こう言う子なのでご迷惑おかけするかもしれないですけど、よろしくお願いします。」


「いえいえ、探索者さんをサポートするのが私達の仕事なので職員一同、全力でサポートさせて頂きます。」


 う、う~ん?なんだか納得いかないけど話が上手く纏まって良かった、のかな?



■レベル3

■所持ポイント 3039TP

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