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安全さんの安全良し!  作者: 猫羽ねむる
第1章 安全なダンジョン
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安全さんは失業した

猫羽 ねむるです。よろしくお願いします。

 

 春うらら、大学の卒業式を終え、喫茶店で卒業旅行の相談をしている私の携帯が鳴った。

 表示されている名前は春から働く会社の採用担当さん?


 なんだろう、すごく嫌な予感がする。


 親友に断りを入れて席を立ち電話を取った。


「はい、もしもし、安全寺です。」


『採用担当の米田です。お伝えしなきゃいけないことが出来たんだけど、今、時間大丈夫ですか?』


「はい大丈夫です。」


『えっとね、すごく申し訳ないんだけどウチの会社、倒産が決まってしまいまして、』


 はぁ?倒産?


『それで、必然的に安全寺さんの内定も』


「ちょ、ちょっと待って下さい。倒産?倒産ってあの会社が無くなる倒産ですか?」


『そうです、その倒産です。ここだけの話、社長の娘さんがやらかしてね。社員一同、何とかしようと頑張ったんだけど力及ばず。本当に申し訳ない。』


「・・・・・いえ、皆さんも大変でしょうに。わざわざお電話頂きありがとうございました。」


『僕が言うのもなんだけど君はまだ若いから次があります。腐らないで頑張って下さい。』


「はい、ありがとうございます。失礼します。」


 こうして私、安全寺(あんせんじ) 佳奈(かな)は卒業から1時間で就職先を失い無職になってしまった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 あれから30分、私はひたすらに泣きじゃくっていた。


「えっぐぅ。あんなに頑張って内定貰ったのに、こんなのってひどいよ~。」


「はいはい、そうね。そろそろ泣き止みなさいね。かわいいお顔が台無しよ?」


 私の隣に座ってお手拭きで私の顔をぐりぐり拭きながら慰めてくれているのは幼馴染みで一番の親友の柳田(やなぎだ) 英子(えいこ)ちゃんだ。


「ひっぐ、だって、だって、あんなに安全な立地で社員食堂が美味しそうな会社は他に無かったのに、なんで倒産しちゃうのよーーー。」


「・・・・・あ~うん、そうね。どこまで行っても安全ちゃんが通常運転で安心したわ。ほら今後の話をするわよ。顔を上げなさい。」


 英子ちゃんは涙を拭くのをやめ反対側の席に戻り携帯をいじりだした。


「なんで英子ちゃんは呆れた顔をしてるの?今私なにか変なこと言った?」


「いいのよ、安全ちゃんはそのままで。」


「いやいや、そう言う話じゃ無かったじゃない?もっとこう慰めの言葉というかなんというかそういう感じの言葉が欲しいというか。」


「あ~、安全ちゃん無職になってかわいそーに。早く泣き止んでー。かわいいお顔が台無しだよー。これでいいかしら?」


 英子は携帯を見たまま言葉を発する。


「なんでそんなに棒読みなの、せめてこっちを向いて言ってよ~。」


「はいはい、それで安全ちゃんはどうするつもり?」


「う~、今から職探しをしても春までに間に合う気がしないよ~」


「それはそうね、どんなところでも良ければそれなりにあると思うけど、安全ちゃん的にはノーセンキューなのよね?」


「う、うん。選べる立場じゃ無いのは分ってるんだけど、安全な場所で働きたいから・・・あと出来ればおいしいご飯。」


「ん~、取り敢えずハロワに行ってみたら?もしかしたら希望にマッチする就職先があるかもよ?待ってて上げるから行ってきなさい。」


「うぅ~、はぁい。」


 がっくりうなだれ席を立つのだった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「うぅ~やっぱり無かったよ。」


「でしょうね。となるとアルバイトをしながら探すか、派遣社員になって正社員を目指すか実家に戻って家業を手伝いをするかダンジョンに行くかのどれかしかないんじゃない?」


「その選択肢の中だとアルバイトをしながら探すのが一番無難な気がするけど、ダンジョンかぁ。」 


「なに気になるの?超安全志向で石橋を叩き過ぎて壊しちゃう係女子の安全ちゃんがダンジョンに興味を持つなんて明日は槍でも降るかしら?」


 そこまでけちょんけちょんに言わなくても良いじゃないか。私だって少しぐらいは気になるよ?


「でもダンジョンって危ないんでしょ?探索者は厳しい、危険、稼げない、の3Kだってよく聞くけど本当?」


 なんでこんなことを英子ちゃんに聞くかと言えば彼女がBランク探索者。上から三番目のランクのベテラン探索者だからだ。


「そうでも無いわよ?厳しいは肉体労働的な側面もあるから本当だけど他の危険と自分の実力以上に挑戦しなければ良いだけだし、稼げないはやり方が悪いのよ。一番下のEランクの探索者でも稼いでいる人は稼いでいるもの。」


「そっかぁ、やり方次第か~。」


「50年前のダンジョン最初期から調査も進んだしルールも定められていてかなり安全になっているわ。場所によっては正確な地図や、その階層で出るモンスターの情報が確認できるダンジョンもあるわよ。」


 うぅ~どんどん気持ちがダンジョンに傾いていくぅ。


「それにモンスターを倒してレベルが1になればステータスが解放されてスキルが手に入るわ。もしかしたら有用なスキルが手に入るかもしれないじゃない?有用なスキルが手に入れば就職先の選択肢が広がるわよ?」


 確かにその可能性もあるもんなあ。これは本気で迷う。


 うんうんと10分ほど悩んでいても答えは出ない。

 チラリと英子ちゃんを見てみると、私が悩むのはいつものことだと携帯をいじっている。


「英子ちゃん!どうしよぉ~。」


「はいはい、情けない声を出さないの。じゃあこういうのはどうかしら。ダンジョン探索の最初の1回は私がついて行くわ。それで駄目そうならアルバイトをしながらお仕事を探す。どう?」


「それなら行ってみたいな。でも英子は固定パーティー組んでるんでしょ?他のパーティーメンバーさんに迷惑掛けちゃわない?」


「事前に伝えておけば大丈夫よ。」


「じゃあ、お願いしても良いかな?」


「いいわよ。なら気が変わらないうちに免許を取りに行きなさい。これから支部に行って講習の申し込みをしてくるのよ?」


 英子ちゃんがそう告げるとピロリンッと携帯が鳴り何かが送られてきたようだ。


「今送ったのが紹介状ね。それを受付で見せると五万円の講習が四万円で受けれるわ。」


「ありがと。助かるよ~。」


「ここの代金も奢って上げるから頑張ってくるのよ?」


「いいの!?店員さん、特大バケツパフェ追加でお願いします!!」


「はぁ、元気になったのは良いけどいつかみたいに食べ過ぎて動けなくならないでよ?」


「ふふ、善処します。」


 届いたバケツパフェを前に英子ちゃんのため息など些末な問題なのだ。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 あれから3日


「やっと取れたー。」


 講習は大変ためになった。ダンジョン内でのマナーや救護義務、取得物にかかる税金関係などそれはもう多種多様な項目を3日間でみっちり詰め込まれた。

 もちろん最後にはテストがあって九十五点以上を取れないと免許は交付されず、再度テストを受けるためには再受講が必要、などとテスト開始直前に言われ数人が慌てて抗議していたが一蹴され渋々テストを受けていたのが印象的だった。

 抗議していた人たちはテスト終了時に絶望的な顔をしていたからきっと落ちたんだろうけど私には関係ないことだ。


 早速、英子ちゃんに連絡しなくては。


「あっもしもし英子ちゃん?免許手取れたよー。」


『あら、一発で取れたのね、流石安全ちゃん。』


「当たり前だよ、命に関わることだよ?聞いて無いです、そんなこと知りませんでした、なんて通用しないでしょ?そんなこと言ってたら死ぬよ?」


『そうね、それでも聞いてない人は聞いてないのよ。噂によるとあのテスト、初受験での突破率は二十五%を切るらしいわよ?』


「えぇ~?それは低すぎない?命とついでに五万円もかかってるのにあり得ないよ。」


『まぁ、あくまで噂よ。本当のところがどうなのかは私も知らないわ。』


 噂とは言え安全管理がなってないというか、こ~モヤモヤする~。


『まぁ、そんなことは良いわ。電話を掛けてきたって事はダンジョンに行くんでしょ?』


「うん、早速なんだけどダンジョン行きのお供をお願いしたいんだけど大丈夫な日にちを教えて?」


 電話の向こうからパラパラと紙をめくる音だけが聞こえてくる。


『明日は少し野暮用があるから明後日はどうかしら?』


「明後日ね。了解。挑戦するダンジョンって決まってたりしてる?」


『西川動植物園ダンジョン』


 えっ⁉そこって国内でも屈指の難易度を誇るAランクダンジョンじゃ・・・。


『の隣にある西川動植物園裏山ダンジョン、通称裏山ダンジョンに行こうと思っているのだけど、どうかしら?』


「え~とその裏山ダンジョンってどう言うダンジョンなの?」


『ダンジョンランクは最低ランクのEで階層も5階しか無いうえに人畜無害なモンスターしか出てこないしトラップもない国内屈指のよわよわダンジョンよ。』


 おぉ、人畜無害、よわよわ。なんて良い響き。


「そこ、そこでお願いします。」


『はいはい、じゃあ明後日の朝九時に裏山ダンジョンの入場ゲート前に集合ね?』


「うん、後服装は動きやすければ何でも良いんだよね?」


『えぇ、お試しで行くのにダンジョン装備を買う必要はないわ。ジャージか無ければ長袖長ズボンの私服でも良いわよ。武器になるものを忘れないように。』


「うん、うん。じゃあ明後日はよろしくお願いします。」


『うむ、任せなさい。』


 電話は切れた、よし明後日の準備を念入りにしなくては。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 電話から更に2日過ぎてダンジョン探索当日。


 私は今、西川動植物園前の案内板とにらみ合いをしている。

 ネットで拾ってきた地図上ではこの辺にあるはずなのにどこにも見当たらないのだ。

 もしかしたらと思って案内板で探してみても、でかでかと書かれているのは西川動植物ダンジョンで。裏山ダンジョンの文字はどこにも書かれていない。

 英子ちゃんにも電話が繋がらないとなるともはやお手上げだ。


「はぁ仕方が無い、知ってそうな人に聞くか。」


「お困りのようですが、なにかお探しですか?」


 どうやらぼそっと呟いた声が聞こえてしまったらしい。親切な人が声を掛けてくれたようだ。


「ダンジョンを探してまして。」


 問いかけに答えながら振り向けばそこにはイケメン・・・・・・のお姉さま!

 顔はイケメンなのにむ、胸がでかい。なんだこの敗北感は、悔しい。


「西川動植物園ダンジョンならここですよ?それとも他のダンジョンですか?」


 案内板の向こうに見える大きな建物を指さしながら教えてくれる。


「裏山ダンジョンを探していて。」


「あー、そっちですか。あそこはわかりにくいですからね。一応この案内板にも載ってますけど、っとここですね。」


 そう言いながら指さしたのは自前の地図に示された場所からはかなり離れた場所に極めて小さな字で裏山のダンジョン書かれている。


「こんなに遠くに小さく、これじゃあ見つからないわけだよ。ありがとうございます。全然見つからなくて困っていたんです。」


「お役に立てて良かった。ネットの地図だとこの辺を指してますからね。」


「えぇ、間違いなくこの辺りを指しているのにそれらしい建物がないのでどうしようかと思いましたよ。」


「実際の場所もわかりずらいので一緒に行きましょうか?」


「いえ、そこまでお手を煩わせるわけには。」


「そうですか、じゃあお茶でも一杯どうですか?」


 あれ?もしかして私、ナンパされてる?


「いえ、人を待たせてますので。」


「そうですか。残念です。では、ダンジョ、」


 おぅ、この人まだ諦めてないのか。なかなか強者かも。


「お~い百合、ナンパしてないでそろそろ行くよ~。」


 遠くからお姉さんのお友達らしき人達が呼んでいる。

 と言うかやっぱりナンパだったのか。女性にされたのは初めてだよ。


「おっと友人に呼ばれてしまいました。残念ですが今日はこの辺で失礼します。」


「あの、ありがとうございました。」


「ふふ、いいんですよ。今度お会いできたらお茶しましょう。では。」


 そう告げると百合と呼ばれたお姉さんはお友達らしき女性達と西川動植物園ダンジョンの建屋へと入っていった。

 あのお姉さんは探索者の先輩だったのか。今度会えたらお茶の誘いに乗って話を聞いてみるのもありかもしれない?


 そう考えながら時計を見れば集合時間まであと五分もない。

 完全に遅刻だ~、急がなきゃ。



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