3話 サクラはNo.1
「…えっと。嫌ですけど…」
私は、急にギルマスをやれと言われ、素直に断る。
「そこをなんとか!頼む、サクラ!」
何故、こうなってしまったのだろうか。あろうことか、ギルマスは私に頭を下げて頼んでくる。
そもそも、こうなってしまった原因は、私がもう1度受付嬢として雇って欲しいと言ったせいでもあり、少しだけ申し訳なく思う。…でも。
「すみません。さすがにギルマスをやるのはちょっと…」
「俺にとって、こんなチャンスは二度と無いんだ!頼む、サクラ!」
ギルマスは少なからず責任感があるから、ギルマスを実力の無い人に押し付けたりしなかった。つまり私は、最低限認められていて、ギルマスが辞めるに、ちょうど良い存在なんだろうと思う。
こんなにも私に頭を下げてくるギルマスは初めて見るし、簡単には引き下がらないだろう。
…あ!そういえば…。
「ギルマス。私が以前言った言葉を覚えていますか?」
「…ん?」
ギルマスは、以前にも私にギルマスをやれと言ってきた事がある。その時は、本心では無かったかもしれない。パッと口から出ただけの言葉だったかもしれない。
…でも、今回は違う。ギルマスはしっかりと熟考し、私にギルマスをやれと言ってきたのだと思う。私に頭を下げてでもギルマスを辞め、強くなるための時間が欲しいのだろう。
だけど、私は今回も同じ返答をする。
「ギルマスが私に勝てれば、私がギルマスになっても良いですよ」
「…な。………はぁ。無理に決まっているだろう。…サクラ、自分がどれだけ強いのかは、サクラ自信が一番分かっているだろう」
ギルマスは、そう言うと席を立ち、一枚の紙を持ってきた。
今ギルマスが持ってきたのは、最新のランキングが記載されている紙だ。もちろん、上位10人の。
以前、私にギルマスをやれと言ってきた時のレベルは、私が226レベルでギルマスが149レベル。そして今は…。
1 サクラ 413 『大賢者』
2 ユリアール・カーラ 406 『勇者』
3 サイレンツ・シルフィア 187 『神官』
4 ケルディ・サイコス 179 『大賢者』
5 シュレイダー 172
6 イルケード 169
7 カドリア・ゲイツ 164
8 ミューリン 163
9 ソフィー 161 『大聖女』
10 レズリア・ガーランド 156 『国王』
「…ギルマス、凄くレベルが上がっていますね」
1年前のギルマスの順位は10位。そして今は7位。ギルマスの仕事をやりながら、ここまでレベルを上げるのは、物凄い努力をしたに違いない。…まぁ、それ以上に私のレベルが上がったせいで、私とギルマスに差が出来てしまっているけれども。どうしようもないくらいに。
「…はぁ。…俺は、サクラに負けている事が悔しくてたまらない。…もちろんサクラを超える事は、ほぼ不可能だ。…だが、諦めきれない」
私は、倍以上の差があるにも関わらず、こんな事を言えるギルマスに素直に感心した。
「ギルマスをやりながらサクラを超える事は無理なんだ!頼む、俺の代わりにギルマスをやってくれ!サクラになら任せられる!」
私のレベルを超えるつもりでいるギルマス…。
…私になら任せられる…か。
…やってみようかしらね。
…でも、このまま言いくるめられた様にギルマスをやるのは、釈然としない。なんとなく嫌だと思ってしまう。何故なら、いくらカッコイイ事を言っていても、相手がギルマスだからだ。
私が受付嬢の時、仕事が出来るくせに最低限しかやっていなかったギルマス。私達受付嬢に、自分の仕事をやらせていたギルマス。
…タダでこの話を受けるのは、何だかもったいないと思ってしまう。それに、メイちゃんが戻ってきた時に、自由に動けないのは嫌だ。
「…まぁ、条件付きならやっても良いですよ」
「…どんな条件だ?」
ギルマスは、私がまたしても無理な事を言ってくると思ったのか、訝しげな表情で見てくる。でも、私も鬼じゃないし、私に勝てなんて、もう言わない。
「メイちゃんが戻って来るまでです。メイちゃんが戻って来たら、私はギルマスという仕事に縛られたくありません」
「…戻って来るのか?」
「戻って来ますよ!」
もう1年も天界に行ったままだけど、メイちゃんは絶対に戻って来る。戻って来ないなら、私が許さない。
「…そうか。…分かった」
まぁ、メイちゃんが戻ってきたからといって、冒険者に戻るかは分からないけど。ギルマスの仕事が嫌でなければ、続けるかもしれないし。どっちになっても大丈夫なように、念のため言っておかないといけないものね。
「あと、お願いがあるんですけど…」
「何だ?俺に出来る事なら、何でもやるぞ」
…え?…何でも?
ギルマスは、何が何でも私にギルマスをさせたいみたいね。
…本当に何でも良いのかしら?
「…ギルマス。私、カーラの家を出てきたんですよ。だから、住む場…」
「俺の家を使えば良い!ギルドのすぐ近くだ。サクラがギルマスをやってくれるなら、俺は修行の旅に出る。殆ど帰らないと思うし、好きに使って良いぞ!」
ギルマスは食い気味に、そう言ってきた。
ギルマスは確か、カドリア家の3男。ユリアール領に大きな屋敷を持っていると聞いたことがある。その屋敷を自由に使わせてもらえるなら、とてもありがたい。
というか、凄く嬉しい。カーラの家での暮らしで、私は贅沢な暮らしに慣れてしまったし、それに少し劣るとしても、ありがたすぎる。
「本当に良いのですか?遠慮しませんよ?」
「ああ。自由に使ってくれ。…じゃあ、やってくれるんだな?」
「…はい。やらせていただきます」
「ありがとう!サクラ!!」
ギルマスは、今までに見た事が無いくらいに嬉しそうな表情をし、再び頭を下げてお礼を言ってくる。
やるつもりなんて全く無かったギルマスをやる事になってしまったけど、結果的には良かったかもしれない。受付嬢じゃなくても、ギルドで働ければキャルシィも喜んでくれるだろうし、住む場所も確保できたものね。
これでもう、カーラが何を言って来ても大丈夫そうね。きっぱりと別れてきたとはいえ、カーラは絶対に諦めて無いだろう。今からカーラが驚く顔が楽しみね。きっとカーラは祝福してくれないし、悲しむかもしれないけれど、これくらいに明確な理由が無いと、カーラは諦めてくれないだろうから。




