11話 天界
「あらあら、メイちゃん。いつまで天界に居るつもりなのかしら?」
「え?…えっと。どちら様ですか?」
天界でレベル300未満の天使さんのレベル上げなどを手伝ったりしながら、ふわふわ過ごして3年。とても可愛らしい天使さんが話しかけてきました。初めて見る顔なのに、何故か懐かしさを感じる口調です。
「あらあら。たった3年会わないだけで忘れられちゃうなんて、悲しいわぁ」
…3年という事は、3年前に下界に来た天使さんの1人という事でしょうか?ですが、記憶にありません。こんなに可愛らしいお顔を、私が忘れるとは思えないのです。…となると、それ以外で会った事のある人物になりますね。…ん?…あらあら?
…いやいや。そんな訳…。よく見ると、面影がある様な、ない様な。
「…もしかして、神官様ですか?」
「もう死んじゃったから、神官じゃないわよぉ。シルフィアって呼んでちょうだいね」
…はい。訳が分かりません。正解したものの、信じられません。どうして若返っているのでしょうか。それに、死んでしまったのなら、どうして生きておられるのですか?謎が多すぎますよ。
…分かりました。これは夢ですね。ふわふわ飛んでいる間に寝てしまったのでしょうね。そうに違いありません。それなら、話は簡単です。漫喫すれば良いだけですね。
「では、シルフィアさん。頭を撫でさせてもらってもよろしいですか?」
「あらあら。良いわよぉ」
では、遠慮なく。
あぁ。良いです。凄く良いです。白い髪がサラサラで、最高の撫で心地ですね。ずっと撫でていたいです。
最近は天使のお姉さんに撫でられてばかりでしたからね。それも良いですが、私も可愛い娘を撫でたかったのですよ。他の幼い天使さんは何故か嫌がりますし、キャルシィはここに居ません。夢であっても幸せです。
「メイちゃん。カーラちゃんが寂しがってたわよぉ。そろそろ帰らないと可哀そうよぉ」
「そうなんですねぇ。でも、カーラにはサクラさんが居るから大丈夫ですよぉ」
あぁ。流石、神官様です。夢でも、それっぽい事を言ってきます。
「あらあら。でもねぇ、メイちゃん。サクラちゃんも忙しいのよぉ」
「サクラさんは何でも出来るので、カーラの相手くらい余裕ですよぉ」
あぁ。幸せです。この、のんびりとした感じ、最高です。いつまででも撫でていたいですね。会話も振ってくれますし、飽きません。
「良い夢ですねぇ。シルフィアさん、メイお姉ちゃんって呼んでくださいよ」
「あらあら。夢じゃ無いわよぉ、メイお姉ちゃん。何を言ったら信じてもらえるのかしら?」
「………え?」
…え?
♢♢♢
「…えっと。…ごめんなさい」
「あらあら。良いのよぉ。私も楽しかったもの」
私は、とんでもない事をしてしまいました。私は、夢と現実の区別も付ける事が出来ない、ダメな人間だったのです。
なんと、『神官』の称号を持つ者は、死ぬと『天使』として生まれ変わるらしいのです。つまり、この可愛い天使さんは、私の知っている神官様の生まれ変わりだったのです。下界では、おばあちゃんでしたが、今は私よりも幼い天使さんです。
天使さんには若い女性しか居なかったので、以前、気になって聞いたことがあります。その話では『天使の成長は遅く、数百年かけて大人になる。そして、下界での20歳くらいで見た目で成長は止まり、不老となる』と教えてもらいました。
つまり、神官様…。いえ、シルフィアさんは、数百年この可愛い姿を保つという事になります。ずっと傍にいたいと思ってしまいますね。
ですが、シルフィアさんは凄く可愛いですが、1つだけ足りないものがあります。
「シルフィアさん、レベルを上げましょう!」
「あらあら。急にどうしたのかしら?」
そうです。つまり、翼が必要なのです。私は、この3年間、翼を持たない天使さんのレベルを上げました。そして、天界の全ての天使さんのレベルを300まで上げ終わりました。私は、もうプロなのです。追加で1人くらい余裕です。
「さぁ、頑張りましょう!」
「…あらあら。強制的なのねぇ」
「もちろんです!」
何故なら、私が見たいからです。シルフィアさんのパーフェクトなお姿を!
そして、シルフィアさんのレベル上げが始まりました。シルフィアさんの今のレベルは187。ほんの100レベルちょっとです。天界には、カーラ並みのレベルの天使さんが、ごろごろ居ますからね。頑張れば1週間もかかりませんね!
♢♢♢
称号『大天使〈堕〉』が『大天使』に変化しました
スキル『神眼』を獲得しました
「おわっ!!」
…え?何が起きたのですか?
今日も今日とて、低空飛行でふわふわしていると、急に頭の中に声が聞こえてきました。
…今、〈堕〉が消えましたよね?これって…。
シュッツ、バサッツ!!
「…ふふっ。ふふふふっ。来ました!遂にこの時が来ましたよ!!」
漆黒では無く、純白の翼。私が欲しかった色です!翼を出しなおすと、色が変わりましたよ!!最高です!!急いで皆さんに報告です!!
♢♢♢
「メイよ、いつでも戻ってきて良いですからね」
「はい!絶対にまた来ます!」
そして、お別れの時間がやってきました。私の目標は達成されたので、下界に帰るのです。天使のお姉さん達やシルフィアさんにお別れの挨拶をして回り、最後にレミコ様に会いに来ました。全員の所を回ったので、半日近くかかりましたが、遂にお別れです。
思い返せば、あっという間の5年間でしたね。とても幸せな時間でしたし、有意義な5年間でした。帰るのは寂しい気持ちもありますが、カーラやサクラさん、キャルシィやポチにも早く会いたいですからね。それに、来ようと思えば直ぐに来れますし。
さて、では行きましょう。取り敢えずギルドですかね。ギルドで待てば、カーラとサクラさんと会えるはずです。それに、キャルシィが受付嬢を続けていれば、キャルシィにも会えますからね。楽しみです!
…あ。ですが、5年もかかってしまいましたからね。連絡もしてませんし、怒られますかね?まぁ、その時はその時ですね。




