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メイちゃんが大魔王になるまで  作者: 畑田
3章

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10話 デバフ勇者vs堕天使

 

 ジリ、ジリジリジリ…


「…キャルシィ。お久しぶりです」


 私は、天界から闇魔法でギルドに出て、キャルシィに声をかけました。長くても1週間くらいで帰ると言った手前、5年も経ってしまった事を申し訳なく思いながら。


「…メイ、お姉ちゃん?…メイお姉ちゃん!お帰りなさい!」


「ただいまです。キャルシィ…さん?」


 …あれ?どうもおかしいですね。近付いてきたキャルシィが、私よりも大きい気がします。それに…。


「わぷっ!」


 …お胸が。抱き付いてきたキャルシィのお胸が、私のお胸よりも少し高い位置に当たります。…おかしいです。キャルシィのお胸は、私よりも少しだけ小さかったはずです。ですが、今は少しだけ大きく感じます。…おかしいですね。


「あ!直ぐにギルマス呼んできますね!」


「…え?どうしてですか?」


 急にギルマスと言われ、私は聞き返しましたが、キャルシィは走ってギルドの奥に行ってしまいました。私、ギルマスと話す事なんて無いのですけどね。そんな人より、カーラとサクラさんに会いたいですよ。


 ガタタタッ!!


「メイちゃん!!…っ、もう!どれだけ待たせるのよ!」


「え?サクラさん?わぷっ!!!!」


 …あれ?ギルマス?サクラさん?…え?


「…苦しいですよ、サクラさん」


「あ!ごめんね!お帰り、メイちゃん!」


「…ただいまです」


 …サクラさん?ですよね?いや、顔を忘れた訳ではありませんよ。ですが、私の知るサクラさんより、美人な気がします。もともと美人でしたが、更に美しくなった気がします。それに…。


「…サクラさんがギルマスなのですか?」


「そうよ。4年前からね」


 …という事は、カーラとは1年しかもたなかったのですね。まぁ、数カ月しか一緒に居なかった私が、言える立場ではありませんけど。


「凄いですね、ギルマスだなんて。前のギルマスはクビにしたのですか?」


「私はゲイツの代わりにギルマスやってるだけよ。ゲイツは今、再び冒険者になって修行してるのよ」


 ………ん?


 私は今、凄く嫌な予感がします。どうして、サクラさんが前のギルマスの事を呼び捨てなのですか?…どうか、私の思い違いであってください。


「あの、サクラさん。前のギルマスとは…」


「あぁ。今はキャルシィと3人で暮らしてるわよ」


 はい。そうですか。


 …信じたくありません。私のサクラさんが、前のギルマスなんかに取られてしまいました。しかも、キャルシィとセットで。…絶望しか残りませんね。まぁ、私は信じないので、聞かなかった事にします。そして、これ以上聞きたく無いので、話を変えます。


「カーラは元気ですか?」


「そうだったわ!今朝、新しい魔王が誕生したみたいで、魔王城に向かったらしいのよ。魔王ってメイちゃんじゃ無かったの?」


 あ、そういう事ですか。だからなのですね。今、謎が解けましたよ。今朝、私の称号に変化があった事の。新しい魔王が誕生したから、私の称号の魔王成分が消え去ったのですね。


「私はもう、魔王ではありません。なので、新しい魔王は普通の魔族だと思いますよ」


「…え?そうなの?…なら、魔王次第では人族と魔族の和平が終わるかもしれないのね」


「大丈夫ですよ。カーラは負けませんから」


 確かに、魔王が和平を望まなければ、今の現状は終わるかもしれません。ですが、その魔王が居なくなれば、現状が維持されるというものです。悪い魔王だったら、可哀そうですけど死んでもらうしかありません。


 …ん?ですが、それはまずいかもしれませんね。魔王が死ねば、5年後に新しい魔王が選ばれます。そうなると、誰が選ばれますか?考えるまでもありませんね。天界に逃げていれば選ばれないと思いますが、タイミングを間違うと振り出しに戻ってしまいます。


「サクラさん、ちょっと魔王城に行ってきます」


「うん!私も行くわ!」


 サクラさんは、私が来た時点で最初からそのつもりみたいですね。


「では、急ぎましょう。カーラが魔王を殺してしまう前に!」


「…え?そんな理由?」


 そんな理由でも、私にとっては大事な理由です。カーラにも早く会いたいと思っていましたし、急ぐに越した事はありません。


 さて、では闇魔法を繋げましょう。魔王の部屋に急に入るのは怖いので、1つ前の部屋にしますかね。


 ジリ、ジリジリジリ…


「…メイ、デバフを掛けてよ」


 …ん?


 どうなっているのでしょうか?私が闇に一歩入ると、カーラの声が聞こえてきました。しかも、私が呼ばれました。


 まだ、カーラには私の姿が見えていないと思うのですけどね。カーラには、何が見えているのでしょうか?まぁ、頼まれたならデバフを掛けますよ。


「…えっと。どれくらいですか?」


「…え?」


 …ん?自分でお願いしておいて、そんな反応するのですか?


「カーラ、ただいま戻りました」


「メイ!メイぃぃ!!!」


 カーラは、自分のほっぺたを引っ張ると、急に泣き出し、私に迫ってきました。


 …怖いです。


 右手に魔剣を持ち、涙と鼻水を垂れ流しながら、凄いスピードで迫ってきます。これは危険ですね。


『攻撃力低下』そして『防御力上昇』


 私は、瞬時にカーラにデバフを、自分にバフを掛け、衝撃に備えます。死にたくはありませんからね。


 ドガシャァァン!!


「うっ…」


 スキルを使ったので、私は耐えれました。ですが、凄くベタベタします。カーラの体の汗臭さと、涙と鼻水。お風呂に入っていないのですか?


『浄化』


 私は耐えられず、カーラを浄化しました。ですが、今出ている分は綺麗になりましたが、次から次へと出てきます。まぁ、汗臭さが無くなったので十分ですけど。


「メイぃぃ。遅いよぉ。ばかぁぁぁ」


 う…。カーラに馬鹿と言われてしまいました。私が悪いですけど、カーラに言われると嫌ですね。…今日だけは許しますけど。


「ごめんなさい。ですが、遅くなったのには理由があるのです!」


 そして私は、カーラを力ずくで引き剥がし、距離を取りました。


 バサッツ!!


「見てください!純白の翼です!黒ではありませんよ!」


「…え。ボクは黒の方が好きだったな」


 …………。


「サクラさん、見てください!純白の翼です!黒ではありませんよ!」


 私は、言う相手を間違えた事を理解し、向きを変えて言い直しました。


「…可愛いわよ。でもね。…うん」


 サクラさんが思っている事は分かりますよ。同じ事を2回聞いた訳ですからね。最初からサクラさんだけに見せれば良かったですよ。完全に失敗しましたね。まぁ、良いです。可愛いとは言ってもらえましたし。


「さぁ、カーラ!デバフを掛けますね!相手は誰ですか!」


「私よ。さっきからずっと居るんだけど」


「えぇぇ⁈ マリヤさん⁈ どうして下界に居るのですか⁈ 何なのですか、その黒い翼は!」


 そこに居たのは、天使のマリヤさん。3年ほど前に、天界から姿を消したとは聞きましたが、こんな所にいたのですね?それに、翼が漆黒という事は、マリヤさんが魔王って事ですか?私の代わりに?


 …私は、とんでもない事をしてしまった様です。私の翼を白くする為に、マリヤさんを犠牲にしたみたいです。


「ふふっ。私は堕天使になったのよ!『堕天使』ドラディニエル・マリヤよ!」


「…え?」


 天使〈堕〉では無く、堕天使?自ら堕天したという事ですか?なんて勿体ない。せっかく純白の翼だったのに。…ですが、良かったです。私のせいでは無いのですね。それなら安心です。


「カーラ、少しだけデバフを掛けますよ」


「うん!」


 カーラとマリヤさんは、一度戦っていますからね。素で戦えば、カーラが勝てるのは知っています。ですが、そこまで差はありませんからね。ほんの少しだけ掛ければ、とても良い勝負が出来ると思います。


 さて、デバフを掛ければ、しばらくは暇ですね。久しぶりですし、カーラの戦いぶりでも眺めていましょう。あ!ですが、5年間の事も気になるので、サクラさんとお話ししていましょうかね。そっちの方が、有意義ですね。


「サクラさん、この5年で、大きく変わった事などありませんか?」


 まぁ、5年くらいで大した事は無いかもしれませんが。


「…そうね。…めでたい事、悲しい事、面白い事。どれからが良いかしら?」


 おっと。選択制ですか。こういう時は、気になる事を最初に聞くべきですね。


「面白い事からお願いします!」


「分かったわ」


 さて、何でしょうかね。サクラさんが面白いと言うくらいですからね。


「なんと、1年前に………。お金の単位が人族領と魔族領で統一されたの!」


「おぉ!」


 …ですが、これは、めでたい事だと思いますよ?何処が面白いのでしょうか?


「そして!その単位は『メイ』!!『カーラ』では無く、『メイ』に!」


「…はい?」


 …嘘です。誰が望んでそんな事を。…カーラしか居ませんね。絶対にカーラが関わっていますよ。それに、これの何処が面白いのですか?どう考えても、悲しい話ですよ。


 …あぁ。そういう事ですね。これは、サクラさんにとって、面白い話なのですね。この話は、サクラさんにとっての面白い話であり、カーラにとっては嬉しい話、そして、私にとっては悲しい話ですね。


 …もう良いです。どうせ私が何を言っても変わらないでしょうし、次に行きましょう。


「…では、次は悲しい事をお願いします」


 この調子だと、めでたい事と言うは、私にとってめでたく無い可能性がありますからね。最後にしましょう。


「…2年前、神官様が亡くなられたわ」


「あぁ、シルフィアさんですね。天界で元気にしていますよ」


「…は?」


 そして、サクラさんは驚き、口を開けたまま固まってしまいました。


 まぁ、無理もありませんね。神官が下界で死ぬと、天界で天使として生まれ変わる。そんな事、天使以外は知りませんからね。私も2年前に驚きましたよ。知らない天使さんが急に話しかけて来たと思ったら、神官様だったのですからね。




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