8話 悪魔
…悪魔が居ます。
何度も自己回復して立ち上がる天使を、次々と倒していく悪魔です。まぁ、勇者ですけどね。
ギルドの闘技場の地面には、時間と共に倒れた天使さんが増えていきます。倒されすぎて魔力が尽き、回復出来なくなった天使さん達です。もう、地獄ですね。
そして、最後に残ったのはレミコ様と呼ばれていた美人の天使さんとカーラのみ。やはり、あの天使さんが一番強くて魔力を持っているみたいです。まぁ、それも大して意味は無いのですけどね。相手はカーラですし、倒されるのが少し遅くなるだけです。
「…どうし…て…」
「楽しかったよ。ありがと!」
さて。やっと帰れるみたいです。今日の晩御飯は何でしょうね?
「メイちゃん…。どうするの、これ」
「…えっと。…治してきますね」
別に、サクラさんに言われなくても、治しに行くつもりでしたからね。私は、これを放置出来るほど非道ではありませんし。
…襲ってきたりしませんよね?
はぁ。まったく。やりすぎですよ、カーラ。こんな光景を見るのは、生まれて初めてです。
『回復』
ぱああああぁぁぁ…
ふぅ。人数が多いですね。私の魔力が殆ど無くなってしまいましたよ。
「天使さん達、大丈夫ですか?」
「…え?治してくれたの?」
「…天使。可愛い天使だわ」
…ん?確かに天使ですけど、お姉さん達の方が、よっぽど天使ですよね?
「きゃああ!!よく見たら凄く可愛いわ!」
「うん!撫でたい!撫でさせて!」
「え?え?ちょ…うわっ!」
…助けてください。襲われてしまいました。
♢♢♢
「メイよ、迷惑をかけてしまいましたね。ありがとうございます」
「い、いえ。カーラがやりすぎたせいですし」
私は今、美人の天使さんに囲まれて、レミコ様という天使さんとお話ししています。レミコ様は唯一の大天使で、天界という場所のトップらしいです。強い訳ですね。
そして、何故こういう状況になっているかと言うと、私が天使さんを治した事で、敵では無いと判断されたからです。欲を言えば、最初から話し合いで解決したかったですけどね。まぁ、カーラが楽しめたので、それはそれで良いですけど。
そもそも、私を排除すると言われたとはいえ、闘技場に天使さんを引っ張って行ったのはカーラですしね。9割くらいは、カーラが悪いと言っても過言では無いでしょう。
「それにしても、あれは本当に勇者なのですか?大天使である私が、全く手に負えませんでしたよ」
「…はい。一応勇者です」
レミコ様は、最初にカーラの称号を見たはずなのに、それでも疑いがあるようです。まぁ、無理もありません。天使さん達から見れば、カーラは恐怖の権化の様に感じたでしょうからね。私から見ても、悪魔に見えましたし。
「…あの若さで、あれだけの力を手にするとは。ですが、彼女が生きている間は、人族が魔族に恐怖する事はありませんね。魔王に同情してしまいそうですよ」
「…あ。えっと。…そうですね」
レミコ様は来たばかりで何も知らない様ですし、そう思いますよね。最初に来た天使さん…マリヤさんだけは全て知ってしまっている様ですけど。余計な事を言わないでくださいね?
「レミコ様、この娘が魔王です」
「え…?」
「うぇ…」
…どうして言ってしまうのでしょうか。…はぁ。私の周りには、私の気持ちを汲んでくれる人が少ない気がします。
そして、じっと見つめてくるレミコ様。きっと、また見られているのでしょうね。
「…聖女、魔王、天使〈堕〉、大天使〈堕〉、大聖女。………」
「………」
はい。凄いです、レミコ様。全てバレバレですね。
…ん?ですが、レミコ様は最後に大聖女と言いましたよ?私がいつ、大聖女になったのでしょうか?
大聖女になる条件は、魔王を倒す事。魔王なんて倒しましたっけ?
…倒しましたね。そうでした。私がサクラさんにバフを掛けて、サクラさんが私を倒しましたね。私が魔王倒したと言えなくは無いですからね。それで良いんですかね?まぁ、どうせ普通は見えない部分ですし、どうでも良いですね。大天使〈堕〉が一番強い称号みたいですし。
「…メイよ。あなたは人族であり、魔族。そして、天使でもあるのですね」
「…そう、みたいですね」
薄々分かってはいましたが、おかしな存在ですね。いつの間にか私は、人族とは言い張れない存在だったのですからね。
「メイよ、あなたが堕天使では無く、天使であるならば、天界に住む資格があります。一緒に来ませんか?」
「…え」
…レミコ様は、私の称号に〈堕〉が付いていても、天使と言ってくれるのですね。私の翼が漆黒でも、天使と認めてくれるのですね?…あれ?もしかしたら、私が天界に行けば、翼が純白に変わったりしませんか?
もし、そうなら…。
「無理にとは言いません。あなたが望むなら…」
「行きます!連れて行ってください!」
そうですよ。行くのはタダです。翼の色が変わるなら儲けものですし、無理なら闇魔法で帰れば良いだけです。
「みんなに言ってきますね!」
直ぐに帰るとは思いますが、1週間くらいかかるかもしれませんからね。
「カーラ、サクラさん!ちょっとこれから、私は天界に行ってきます!」
「…え⁈ 本気?」
「…そんな。…夜までには帰ってくるよね?メイ?」
2人は、凄く心配そうな目で私を見つめてきます。心配してくれるのは嬉しいですが、私はもう決めたのです。
「用事が済んだら帰ってきますから。少しの間だけですよ」
「うぅぅ…。ヤダよ。メイぃ…」
あらあら。カーラの顔が崩れて泣いてしまいそうです。そんなに私のデバフが大切なのですね。カーラにとっては、死活問題ですからね。ですが、大丈夫です。いざとなれば、サクラさんが相手をしてくれますからね。
「サクラさん、少しの間、カーラをお願いしますね」
「…えぇ。気を付けてね。絶対に帰ってくるのよ」
「はい!もちろんです!」
気を付けるのは、当たり前。絶対に帰ってくるのも当たり前。私は命が大事ですし、2人の事が大好きです。それに、カーラの家のご飯が大好きです。キャルシィもポチも、お父さんもお母さんも。大切な人は沢山いますからね。帰ってこないという選択肢は存在しません。
…あ、ポチを帰さないといけませんね!
「ポチ、そろそろ帰りますよ」
「キャウン!」
それと…。
「七聖龍の皆さん、私は少し出かけます。私が戻って来るまでは、サクラさんの言う事を聞いてくださいね」
私は、同じ失敗をしません。今回は、きちんと『私が戻って来るまで』と言いました。海聖龍はもう無理ですが、他の七聖龍は言う事を聞いてくれるはずです。まぁ、別に全てサクラさんに託しても良いのですけどね。
そして私は、それぞれの住処に闇魔法を繋げ、皆を帰します。ずっと居ただけですし、何の為に呼ばれたのか微妙な所ですけどね。
さて、あとはキャルシィですね。私は小走りで闘技場を出て、キャルシィの元に向かいました。
「キャルシィ。お仕事中にすみません。私は少し、天界という場所に行ってきます」
「…え? 天界? …え?」
ごめんなさい、キャルシィ。あの戦いを見ていなかったキャルシィには、何の事か分かりませんよね。キャルシィは私が『大天使〈堕〉』の称号を持っている事も知りませんし、急に言われても困りますよね。
「どのくらいで帰って来るか分かりませんが、もしかしたら、1週間くらい帰って来ないかもしれません。なので、何か困った事があれば、必ずサクラさんを頼ってくださいね」
「…はい。分かりました。」
やはり、上手く呑み込めていない様ですが、サクラさんが居るので大丈夫でしょう。キャルシィも賢いですし、少し私が居なくても問題ありませんからね。…それはそれで、お姉ちゃんとして悲しいですけど。
まぁ、これで取り敢えずは大丈夫です。では、闘技場に戻りますしょう。レミコ様達を待たせていますからね。
♢♢♢
「カーラ、サクラさん!行ってきます!」
「いってらっしゃい、メイちゃん」
「メイぃぃ。直ぐに帰って来てよぉぉ」
心配そうな顔で送ってくれるサクラさん、変な顔で泣いているカーラ。私は、そんな2人に笑顔で手を振り、天使さん達の元に向かいます。そして私は、天使さん達と共に光に包まれました。いざ、天界へ!そして、私の翼の色を変える冒険へ!
…あ。どうせなら、晩御飯を食べてからにすれば良かったですね。お腹ペコペコです。まぁ、きっと天界にも、美味しいご飯がありますよね。天界ですからね!




